「実子誘拐」解決を阻む「でっちあげDV」の深層

「孫に会いたい…」行政の壁、祖父母が大田区相手に訴訟、来月スタート
ジャーナリスト
  • 一方の配偶者に子どもを連れ去られる「実子誘拐」への注目度が上昇
  • 「でっちあげDV」が支援制度を隠れ蓑に実子誘拐を助長
  • 結果的に加担してしまった自治体を、当事者が司法で訴える動き
おでかけ:連れ去り
※画像はイメージです(monkeybusinessimages/iStock)

一方の配偶者にある日突然子どもを連れ去られ、離婚を申し立てられ、大切に育ててきた子どもとの関係を絶たれてしまう実子の連れ去り問題。「実子誘拐」とも呼ばれ、実子誘拐被害者は毎年数万人、増え続けていると言われる。悪化する要因の一つが、裁判所や法曹界、行政やマスコミなどで加害者と“グル”になっている人たちの存在だ。ある被害者らは、彼らについて「実子誘拐ビジネスネットワーク」と呼んでいる。

ただ、ここにきて風向きが変わり始めた。この問題を追い続けているジャーナリスト・池田良子さんによる告発本『実子誘拐ビジネスの闇』(飛鳥新社)が先週出版。さらに先日は、「ハッシー」の愛称で人気のプロ棋士・橋本崇載(たかのり)八段が、子どもの連れ去りを理由に精神的に追い詰められ、今月、将棋界からの引退を表明して将棋ファンに衝撃を与えた。以前は関心を示さなかったメディアでもこの問題が取り上げられるようになり、大きな注目が集まりつつある。

「でっちあげDV」と「継続性の原則」で親権をモノに

現在の日本は「単独親権制度」で、離婚後は父母の「どちらか」が親権者となる。その際に親権獲得に有利になるよう相手方を問題のある親に仕立て上げる「でっちあげDV」が横行し、これも実子誘拐ビジネスの大きな一翼を担っている。

池田さんが同書で指摘しているように、実子誘拐ビジネスで儲ける彼らは、この制度に異議を唱える親たちを徹底的に「問題のある親」「DV加害者」などと印象付け、裁判を有利に進め、世論も誘導してきた。「こんな問題のある親だから、子どもに会えないのは当然でしょ。子どもに悪影響でしょ」といった「雰囲気づくり」である。

また、「どちらか」の親権者を決める際に、裁判所の慣習として「継続性の原則」というルールがあり、たとえ連れ去りであっても、子どもと一緒にいる側の親が親権獲得に有利となる。調停や裁判の手続きが長引くほど、連れ去った側の親と子が一緒にいる時間が長くなり、その「継続性」を覆すことが難しくなってしまう。これが「相手より先に連れ去れ」が成り立つ要因だ。

実子誘拐を “支援”する「DV支援措置制度」

DVなどの被害者を保護することを目的として、加害者に、被害者の住民票の写しや戸籍の交付を制限する「DV支援措置制度」。支援措置に携わる、某市の職員によると、今の制度では、「自分が被害を受けた」と主張する人を守ることを優先しており、本人の主張が本当であれ嘘であれ、その住民票を守ることになっているという。

深刻なDVを受けて安全な場所へ緊急避難した被害者にとっては、居場所が加害者に知られることは恐ろしい。だが、実際の運用では、「被害者」が被害を主張すれば、その真偽が確かめられることなく、相手方を加害者に仕立て上げ、さらに連れ去った子どもの居所を相手方に知られないようにできるのだ。

前出の市職員は、本当に被害に遭っている人を緊急で守るために、「嘘か本当か確かめるのに時間を使うことはできず、今の制度が続いてしまっている」と苦悩を明かす。子どもを連れ去られた別居親で、一方的に身に覚えのないDVの加害者に仕立て上げられ、子どもの居場所が分からず、姿を見ることもできず、手紙を送ることもできない。元気なのか、生きているのか知ることもできないという親も多い。

孫を連れ去られた祖父母が区を訴えた事情

孫連れ去りの被害者夫婦自宅(牧野撮影)
Tさん夫婦の自宅には、そこに暮らしていた日々のまま、孫の部屋が残されている…(※一部加工しています)

この「でっちあげDV」に加担してしまっている各自治体を、当事者が司法で訴える動きがでてきた。今後全国に展開して、おおきなムーブメントになりそうだ。

そのさきがけとなったのが、わが子のようにかわいがり同居して育てていた孫を、その母親である長男の嫁に突然連れ去られた祖父母、Tさん夫婦。その「連れ去り」を正当化するために、Tさん夫婦は母親によって、一方的にDV加害者に仕立て上げられ、DV支援措置によって孫の住所も知ることができなくなった。

こうした事情を考慮せず、Tさん夫婦が住む東京都・大田区役所の窓口では、「DV支援措置」がかかっているから出せない、と、孫の戸籍の附票を交付しなかった。「戸籍の附票は、孫の居所を知ることができる唯一の手段。最後の望みの綱です。いつまた移動してしまうかわからない。そうなった時に、孫がどこにいるのか、本当にわからなくなってしまう」。

Tさん夫婦は、この大田区の対応を不当な支援措置を根拠とした違法行為だとして、大田区長を相手取り、不交付決定の取り消しを求めて東京地裁に提訴した。「裁判を起こすのは、この制度によってもう二度と、ほかのひとが同じような目に遭ってほしくないからです」という。

母親は、孫の通う幼稚園の先生に対して「おまえ」と呼びトラブルを起こしたり、孫を抱いたまま家の前の路上でわめき散らしたりなど、問題行動が多かったという。そして2015年8月、サンダル履きのまま、荷物も持たずに孫と一緒にふらっと家から出て行ったまま、行方知れずとなってしまった。

Tさん夫婦は、これまでにも附票の不交付について審査請求を起こし、母親が孫に怪我をさせたことなど、その問題行動の証拠を丹念に集めて提出してきた。証拠書類は分厚いファイルに収められている。だが、裁判や行政の審査ではTさん夫婦の主張は一切採用されることなく、母親が警察に安全相談に行った一方的な話の記録のみを採用。Tさん夫婦は連れ去られてから一度も孫に会えていない。

「実子誘拐」根絶へ、うねりとなるか

Tさん夫婦の代理人の作花知志弁護士は、「DV支援措置により家族との分断を強いられている別居親、祖父母の方々の関係回復のためにも、良い判決を得たいと思う。大きなうねりとなれば…」と話している。第1回口頭弁論は5月19日、東京地裁で開かれる。また、同様にDV支援措置で子どもの居場所が分からなくなるなどした当事者が、「支援措置制度の廃止」を目指して各自治体を訴える訴訟も、今後約10件が数か月に1件ずつ連続して提訴される予定だ。

実子誘拐問題については、論点が非常に多岐にわたる。国会でも各党の議員がこの問題を取り上げるようになってきた。問題意識を持つ人々がそれぞれの場でアクションを起こし、今の大きな流れを引き寄せ、長年多くの親子を苦しめてきた実子誘拐を根絶できるか。引き続き、注視していきたい。

 

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