「混迷の衆議院沖縄1区」下地幹郎氏の自民復党問題の解決策

このままでは沖縄保守分裂で知事選に勝てず
批評ドットコム主宰/経済学博士

総選挙を控えて、各党が公認または支援する候補者はほぼ出揃っているが、沖縄県ではいまだに揉めに揉めている選挙区がある。大票田・那覇市と久米島など離島の一部を選挙区とする沖縄1区である。

「沖縄1区」3人の有力候補

現在、沖縄1区から選出されている議員は、日本共産党出身で玉城デニー知事を頂点とする「オール沖縄」勢力が支援する赤嶺政賢氏(73歳/7期目)である。共産党唯一の選挙区選出議員でもある。赤嶺氏以外に、同選挙区から重複立候補して比例区九州ブロックで復活当選した議員が2人いる。1人は外務政務官を務める自民党の國場幸之助氏(48歳/3期目)、もう1人は日本維新の会から当選した下地幹郎氏(60歳/6期目)だ。

下地幹郎氏(2016年6月撮影)

下地氏は、IR汚職疑惑絡みで昨年1月に維新の会を除名されている。したがって、今回の総選挙に出馬するとしたら、下地氏は維新以外の選択肢を選ぶほかない。具体的にいえば、政党の支援を受けずにまったくの無所属で立候補するか、維新以外の他の政党の支援を受けて立候補するかのいずれかである。沖縄県内では「下地氏が自民党から立候補しようとして保守陣営が混乱している」との報道が、昨年来たびたび伝えられている。

下地氏の復党を拒む自民党

もともと自民党員の下地氏だが、2004年の参院選で自民党候補の翁長政俊氏を支援せず、対立候補の糸数慶子氏を支援したとの理由で自民党から離党勧告(除名より軽い処分)を受け、2005年に自ら離党している。その後、下地氏は民主党の支援を受けたり、国民新党に移籍したりと、選挙の度に所属政党や支援政党が変わり、「自公」と対決してきた歴史も長い。

その下地氏が古巣の自民党に復党したいと熱望している。下地氏の応援団として、沖縄経済界の有力者から成る「保守合同を実現し沖縄の未来を創る会(保守合同の会)」(会長は沖縄最大のゼネコン・國場組会長・国場幸一氏)が結成され、自民党沖縄県連(中川京貴会長/中川氏は県議)に復党を働きかけている。昨年10月に、下地氏は県連に復党願いを提出しているが、県連は11月にこれを却下している。沖縄1区自民党支部が、下地氏の復党に反対の要望書を県連に提出しており、これが却下の主たる理由となっているようだ。だが、復党申請却下後も、下地氏側は自民党に再考を求める運動を展開している。下地氏を支援する側からも、また拒む側からも、「このままでは沖縄の保守は分裂し、来年の主要選挙に勝てない」という懸念の声が聞こえてくる。

自民党は2018年知事選で佐喜眞淳氏を擁立、応援に小泉氏投入も敗れた

比例区を活用「下地出馬プラン」

自民党県連沖縄1区の支部長は、これまで再三再四、下地氏と選挙区での死闘を繰り広げてきた現職の國場幸之助氏である。國場氏が納得しない限り、下地氏の復党はありえないとされている。昨年11月に復党願いを出した時点での下地氏は、自らが沖縄1区の自民党候補となり、國場氏には比例区単独に回ってもらうとのプランを描いていたと思われるが、これでは國場氏も納得しがたいだろう。

自民党には、下地氏を比例区単独候補に回すという選択肢もあるが、常識的に考えて、IR汚職疑惑で他党(維新)を除名された議員を自民党の比例区単独候補にしようとすれば、比例九州ブロック内から強い異論が続出することになるだろう。これもありえない選択肢だ。

総選挙は三つ巴の乱戦?

したがって現段階では、下地氏が自民党に復党した上で、今回の総選挙に出馬するのは不可能だ。地元のメディアは、このままでは沖縄1区に赤嶺、國場、下地の三候補が立ち、三つ巴の乱戦を展開することになる、と観測している。そうなれば、共産党の赤嶺氏が若干有利だ。昨年の沖縄県議選、この7月に行われた那覇市議選を含めて自民党沖縄一区支部の得票状況を見るかぎり、國場氏も「上げ潮」だが、赤嶺氏に確実に勝てるとはいいにくい。当選ラインの6万票前後を目指して、赤嶺氏も國場氏も熾烈な選挙戦を繰り広げると予想される。他方、下地氏が無所属で出馬して得票できるのはおそらく3万票程度であり、当選にはほど遠い。下地氏の票が國場氏に回れば、國場氏が赤嶺氏を下す可能性は高くなる。

考慮すべき知事選などの動向

この総選挙の結果は、そのまま来年の主要首長選に反映する。したがって、自民党沖縄県連としては万全の態勢で総選挙に臨む必要がある。

1月には名護市長選がある。現職の渡具知武豊氏と市議の岸本洋平氏の一騎打ちになると予想されるが、人気のある岸本氏が相手となると、渡具知氏にとって楽な選挙ではない。秋に行われる予定の那覇市長選、沖縄県知事選の動向はまだ不透明だが、那覇市長選には、現職の城間幹子氏は出馬せず、亡くなった翁長雄志氏に育てられた現職の副市長である知念覚氏が後継候補となるという観測が強い。知念氏が「オール沖縄」の候補となれば、自民党側は誰を候補に立てても苦戦を強いられる。

沖縄県知事選には現職の玉城デニー氏が2期目を狙って立候補すると思われる。自民党県連は、デニー知事に勝てる知事選候補を模索しているが、現段階では候補者がはっきりしていない。

前回知事選で女子高生との記念撮影に応じる玉城デニー氏(2018年)

自民県連  下地氏取り込みの度量は?

オール沖縄が以前より弱体化していることはまちがいないが、下地氏の復党問題程度で揺れ動くようでは、自民党沖縄県連も十分な態勢にあるとはいいがたい。オール沖縄は国政選挙や知事選になると強い。県連の態勢がこのままでは今回の総選挙もおぼつかない。

下地氏のわがままをすべて認める必要はないが、下地氏を端から拒絶するのは、自民党県連の将来にとってはおそらくマイナスだ。下地氏を党内に取りこみ、下地幹郎という政治家を生かしながら、あらたな青写真を描いた方が得策である。下地氏については批判や非難も多いが、政治家としての臭覚や嗅覚は抜群だ。その点は冷静に評価する必要がある。自民党沖縄県連には、下地氏を怖れず、むしろコントロールするぐらいの器量が求められている。

自民は復党を認め、下地は出馬を断念せよ

いまなすべきことは、「自民党県連は下地氏の復党を認めること」、「下地氏は今回の総選挙への出馬を断念すること」、そして「下地氏は現在決まっている自民党の候補をしっかり支えること」、この3点である。これこそが最善の策だ。下地氏の今後については、県連内でしっかり議論すれば良い。県連が下地氏を抑えられないとすれば、その程度の組織だったということだ。一から仕切り直すしかない。

本来であれば、自民党でもオール沖縄でもない、新世代の第三勢力が台頭することが、沖縄にとってもっとも望ましいと思う。だが、結局は古い器にしがみついてしまうオール沖縄から「新しい芽」が生まれることはまずない。もちろん、現在の自民党県連にも多くを期待できないが、下地氏を取りこむことで活性化すれば光明は見えてくる。本来の自民党には他党にない幅と奥行きがあるはずだ。自民党沖縄県連は、このささやかな期待に果たして応えてくれるだろうか?

 
批評ドットコム主宰/経済学博士

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