アルケゴス事件があっても、ウォール街のバブルの膨張は止まらない
崩壊シナリオの鍵を握るのは?- 世界の投資会社を揺るがせたアルケゴス破綻。財務省OB有地氏が解説
- 破綻で問題化したトータル・リターン・スワップの規制強化の流れか
- 米市場のバブルは堅持か。崩壊するタイミングも展望
アルケゴス・キャピタル・マネジメント(以下「アルケゴス」)という投資会社が破綻して世界の金融界に激震が走ってから1か月が過ぎた。
破綻後すぐに野村ホールディングス(HD)から約20億ドル(約2200億円)の損失の可能性が発表され(その後約3077億円に増えた)、スイスの大手銀行のクレディスイスも約44億スイスフラン(約5200億円)の損失を被ったと報道された。しかし、リーマンショックの時のように連鎖的に金融システム全体がフリーズしそうになることはなく、とりあえずは、ひとつのファンドが無謀な投機で消滅したということにとどまっている。これで一件落着となるのだろうか?

今回の事件は、ビル・ファンという投資家(というよりむしろ投機家と呼ぶ方がふさわしいだろう)が、アルケゴスという名前のファミリーオフィス(自己資金だけを運用するファンドのこと)を使って株式投資をしたが、相場が思惑とは逆に動いたため追加の証拠金を差し入れることができず破綻したという事件だ。
これだけを聞けばどこにでもある株式投機の失敗談だが、それが世界の耳目を集めたのは、一部の者を除いてその存在が市場関係者にほとんど知られていなかったアルケゴスが、800億ドル(約8兆8000億円)ともいわれる巨額の株式投機のポジションを積み上げていたこと、株価が下落してわずか1日で約150億ドル(約1兆6500億円)を失って破たんしたこと、そしてその株式投機を仲介したのがモルガンスタンレー、ゴールドマン・サックス、ノムラ、クレディスイスなどの世界的な投資銀行で、その中には冒頭にも述べたように巨額の損失を被るものも出たことだ。

破綻で問題化した「TRS」
当然のことながら、今回大きな損を被った野村HDやクレディスイスでの内部では、責任の追及とともにリスク管理が厳しくなっただろう。既にクレディスイスや野村ホールディングスではこの取引に関わった複数の幹部がクビや停職処分になっている。
また、規制の盲点を突かれて、アルケゴスが危険な投機をしているのを察知できなかった米証券取引委員会(SEC)は、今後ファミリーオフィスにヘッジファンドなどと同様の登録義務を課して、取引内容の開示を求めるだろう。
今回アルケゴスが投資銀行との間に結んでいたトータル・リターン・スワップ(TRS、エクイティ・スワップとも呼ばれる)というデリバティブ契約は、表面的にはアルケゴスと契約した投資銀行が株の売買を行っているように見えるが、実際にはアルケゴスが自ら株の売買を行うのと同じ効果をもたらすもので、これによってアルケゴスの行っている取引が規制当局の目から隠されてしまった。
このTRSに潜む問題は、規制当局も以前から認識しており、リーマンショック後に金融機関の健全性確保のために定められたドッドフランク法で規制がかかる予定だった。しかし、利益率の良い取引を失いたくない金融機関の圧力があったのか、あるいは株価の上昇を自分の政策運営の成果と主張するトランプ前大統領の圧力があったのか定かではないが、長い間たなざらしになり、やっと今年秋に導入が予定されていたものだ。今回の事件が起きたのでこの規制は間違いなく導入されるだろう。
バブル崩壊はどのタイミングか
それでは、これらの制度的な改革でバブル状態のウォール街に変化が起きるのだろうか?
私は、それでも状況は大きくは変わらないと思う。
なぜなら、連邦準備制度(FED)がリーマンショック以降、超金融緩和を続けており、特に昨年春の新型コロナ対策以降は超超金融緩和となっているため、投機に使う資金もタダ同然で借りることができるからだ。アルケゴスのビル・ファン氏のように自己資金の5倍とは言わないまでも、今では投資にレバレッジを利かせるのは当たり前となっている。

一方、今回の事件の片棒を担いだ投資銀行は、大火傷を負ったところはしばらく慎重になるだろうが、バブル相場の中で競争を勝ち残るために、ますますアグレッシブな取引を展開して行かざるを得ないだろう。
株式市場も、商品先物市場も、債券市場も、現在のような過剰流動性があふれかえっている状況が続く限り、アルケゴス事件などはすぐに忘れ去られてバブルは続くと考えた方がよい。
今後インフレ期待が高まって、連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が金融引き締めに転換せざるをえなくなる時こそ――それは少し先のことになるかもしれないが――、バブルがはじけてウォール街に歴史的な変化が訪れる時だ。
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