千葉ロッテはマジック、岸田カープは“逆マジック”が点灯するのか?

安倍前首相の「長嶋化」が不気味
報道アナリスト/株式会社ソーシャルラボ代表取締役

筆者が新聞社時代に2年間、番記者をつとめたプロ野球・千葉ロッテが早ければ今日18日にもリーグ優勝までのマジックナンバー25が点灯するのだという。ロッテファンにとって「マジック」という言葉はあまりにも縁がなかったので、正直なところ実感がない。

マリンスタジアム(Saffron /PhotoAC)

ロッテのマジックは51年ぶり!

いまの20〜40代の方で「ロッテは一昔前に優勝しているのではないか」と指摘される人もいるだろう。確かにロッテがパ・リーグを制するのは、バレンタイン監督時代の2005年以来のことだが、レギュラーシーズンとしては2位。当時の制度でシーズン後のプレーオフで、1位のソフトバンクに勝ち上がって優勝を決めたものだ。首位を走ってマジックを点灯させるというVロードではなかった。

さらに言えば1974年の金田正一監督時代のリーグ優勝もマジックを点灯させての勝ち方ではなかった。当時のパ・リーグは前後期制で、それぞれの首位チームが最後に雌雄を決する形式。金田ロッテは後期Vからのプレーオフ勝ち上がりでの「覇者」だった。つまり、長いシーズンを走り続けて首位チームとしてマジック点灯からの優勝というのは、1970年以来のことになる。本拠地は東京・下町にあった東京スタジアム。当時の監督は濃人渉、主力は野手が有藤道世、榎本喜八ら、投手が木樽正明、成田文男ら(以上敬称略)。筆者の生まれる前、レジェンドの域に入る。

そこから半世紀余り経ち、井口資仁監督率いるチームが快挙を勝ち取ろうとしている。井口さんが現役時代メジャーから戻られた2009、10年がまさに筆者が取材した時だったので、本当に嬉しい。ここまで来ると怖いのはコロナ。昨年はシーズン終盤、選手たちのコロナ離脱が続出したことで優勝争いから脱落しただけに、危機管理も万全だと信じたい。

総裁選で岸田カープに逆マジック?

さて、プロ野球の方は大詰めになりつつあるが、自民党総裁選はきのう告示を迎えて本格的に論戦がスタートした。野田聖子氏が告示直前に名乗りを挙げたことで岸田文雄氏がさらに優勢になる構図がささやかれている。岸田氏、河野太郎氏、高市早苗氏の三つ巴で突入していた場合、党員の人気が高い河野氏が1回目のフルスペック(党員票+議員票)で過半数を制するかどうか、とみられていた。

野田氏が立候補しても支持率から当選する可能性は極めて低いが、票は多少割れる。河野氏も野田氏も党員票頼みという点で、先に名乗りをあげた3人の中で最も割を食うのは河野氏ではという見方が出ている。すなわち、河野氏は1回目で過半数を取りきれず、決選投票(議員票のみ)は河野氏と岸田氏の一騎討ちとなり、議員票では優勢の岸田氏の逆転勝ちが予期されるわけだ。

プロ野球に例えれば、総裁選ペナントレースは、河野ベイスターズが首位を快走。岸田カープが堅調に2位につけ、高市タイガースが怒涛の追撃中という中で盛り上がっていたところ、最後に野田ドラゴンズが突如参戦。クライマックスシリーズには河野ベイスターズと岸田カープが進んで、岸田カープが最後勝ち上がるという図式だ。そういう意味では(正確な言い換えではないが)岸田カープの逆転優勝が見えてはくる。いわば「逆マジック」点灯だ。

逆マジックは実際のプロ野球でも存在する。優勝争いが終盤戦までもつれこんだ場合、2位のチームが試合数を多く残して勝利数、勝率で首位チームを上回る可能性が出てきた時に点灯するのだ。あまりお目にかかることはないが、筆者が初めてリアルタイムで見たのは、1988年のパ・リーグ、首位・西武と2位・近鉄が終盤戦までもつれにもつれた時、試合数が多かった近鉄に逆マジックが点灯した時だった。

しかし、近鉄は逆マジックを0にすることはできなかった。中年以上の野球ファンには伝説の「10.19」だ。シーズン最終日、ダブルヘッダーとなったロッテ戦(川崎球場)での連勝が逆転優勝の条件だった中で、近鉄はデイゲーム初戦をものにしたものの、ナイターの2戦目は土壇場でロッテに追い付かれて引き分け。あと一歩(ゲーム差なしの勝率2厘差)で優勝を西武に持って行かれた。

往年の川崎球場(Yasuoyamada /Wikimedia CC BY-SA 3.0)

さて総裁選ペナントレースはどうなるか。岸田カープは派閥横断で支持を集め、他陣営を圧倒する100人超の議員が集結。「出陣式が大盛り上がり」(日刊スポーツ)だったという記事がネット上で話題になっている。もちろん、これまでの世論調査からすれば、河野氏が国民の支持率に近い党員票での圧倒的な支持が考えられるので、岸田氏の盛り上がりは議員票の中だけで見た場合の話だが、河野ベイスターズはここにきて、同じく党員人気の高かった“石破ガイナーレとの球団合併”を経て勢いが倍になるどころか、メディアの論調は「勢いに陰り」と書き立て始めている。

「尋常ではない」安倍采配

安倍氏(首相時代:官邸サイトより)

ではますます岸田カープが優勢かといえば、意外に気になるのは高市タイガースの怒涛の勢いだ。急速に支持率を伸ばしていることは周知の通り。当初は泡沫とさえ酷評されていたのが確実にダークホース以上の存在になりつつある。党員の支持では河野氏との差が大きすぎるので僅か13日で逆転は考えにくいが、“安倍コミッショナー”の応援を得てから日増しに勢いを得てきた。

ある清和会(細田派)の議員は筆者に「安倍さんの肩入れぶりが尋常ではない」と述べ、もはや困惑気味ですらある。「安倍前首相の本命は岸田氏で変わらず、岸田氏を勝たせるために高市氏を担ぎ出して河野氏の過半数阻止」という深謀遠慮ぶりは前回も書いたが、この議員が指摘するように安倍氏は“コミッショナー”どころか現場に監督として降臨してきたような存在感になっている。

安倍前首相の政局での勝負強さはこの8年で、若い頃とは見違えるほどの凄みを増している。何か長嶋茂雄さんが監督として独特の感性を発揮してメイクドラマを演出した時とダブって見えなくもない…といったら言い過ぎかもしれないが、果たして総裁選はどうなるのか。おそらくこの週末、党員支持率の序盤調査が行われるはずで、前半戦の情勢が見えてきた時にまさかの展開もあるのだろうか。

 
報道アナリスト/株式会社ソーシャルラボ代表取締役

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