ギニアのクーデター:対岸の火事どころか火の粉が日本に降り注いでいる

「アルミ輸入大国」日本経済の憂い
人間経済科学研究所 代表パートナー(財務省OB)
  • ギニアで今月上旬に起きたクーデターは「対岸の火事ではない」と有地氏
  • アルミニウムの原料は世界第1位の埋蔵量。すでに国際的な価格が上昇中
  • 日本は世界3位の「アルミ輸出大国」。クーデターが落ち着いても…

ギニアが日本人の意識に上ることは、まず、ない。日本の本州と同じくらいの国土に約1300万人が住み、一人当たりGNI(国民総所得)が1020ドル(約11万2000円、2020年)と、世界銀行の分類で低所得国に属する貧しい国だ。そのギニアで9月5日、軍の一部が大統領を拘束して大統領解任と政府の解散、憲法の停止を宣言した。クーデターだ。

早速6日に日本の外務省は大統領の拘束を強く非難する外務報道官談話を出したが、それでも一般の日本人にとってギニアのクーデターは対岸の火事以上に遠い出来事と感じられるのではないだろうか。

鉱物資源の世界的な産出国

そもそも、ギニアがアフリカのどこにあるか地図で正確に示せる人は少ないだろう。もっともサッカーファンであれば、前日本代表監督のハリルホジッチ氏が率いるモロッコ代表チームが、ワールドカップ予選のためにギニアに来た途端クーデターに遭遇して、しばらくホテルに缶詰めになり出国に難儀したので、ギニアがどこにあるか分かっているかも知れない。しかし、多分それ以上のことは知らないし、関心もないだろう。

アフリカ西部のギニア(Milos Subasic /iStock)

2020年の日本からの輸出が12億759万円、輸入が1億2138万円と直接的な経済関係は薄い。外務省の資料によれば、ギニアに住む日本人は30人(2020年10月現在)、日本に住むギニア人は427人(2019年6月現在)しかいない。

しかし、ギニア情勢は国際商品市場を通して日本に大きな影響を及ぼしている。

ギニアは鉱物資源が豊かで、アルミニウムの原料となるボーキサイトの生産は全世界の生産量の25%を占めオーストラリアに次いで世界第2位(2020年)、埋蔵量は世界第1位だ。金やダイヤモンドも多く産出するほか、鉄鉱石はまだ生産に至っていないが、高品位で埋蔵量世界第1位の鉱山がある。

そのアルミニウムの国際的な価格の指標となっているLME(ロンドン金属取引所、London Metal Exchange)の価格が、ここのところ急騰している。理由は、需要面ではアメリカや中国などの景気が回復してきて需要が盛り上がっていること、主要国の超金融緩和で生じた過剰流動性が投機のチャンスを世界中に求めていてアルミニウムにも目を付けたこと、供給面では、世界最大の生産国の中国がエネルギー浪費型の産業抑圧政策の一環として、アルミニウムの生産を抑えているためだ。

そのような状況の中で今回のクーデターが発生し、既に燃え盛っているアルミの価格にさらに油を注ぐこととなった。
9月16日のLMEのアルミニウムの価格は、トン当たり約2870ドルと1年前の約1.6倍になっている。これで困ったのが、世界第3位のアルミ輸入大国の日本だ

筆者作成

我々の頭上に火の粉が降り注ぐ

アルミといえば、身の回りではアルミホイル、ビール缶、窓のサッシをすぐに思いうかべるかもしれないが、約4割が自動車のエンジン、ホイール、バンパーや新幹線の車両といった輸送用機器に使用されており、日本経済にとって大変重要な資源だ。

もちろんリサイクル大国日本なので、たとえばアルミ缶のリサイクル率は97.9%(2019年度)と高いが、リサイクルされてできたアルミの再生地金も、新地金の価格の上昇につれて値上がりしている。ギニアのクーデターは一見対岸の火事のように思えるかも知れないが、実際には火の粉がどんどん我々の頭の上に降りかかっている状態だ。

それでは今後この状態はいつまで続くのだろうか?

ギニアの新政権としては、アルミ原料のボーキサイトは貴重な外貨獲得手段なので、生産をストップしたり、抑制する理由はない。したがってクーデターによる供給不安は、政権が安定するにつれて次第に解消しよう。しかし、それでも投機マネーが一旦引っ張り上げた国際的なアルミの価格はなかなか下落には転じないだろう。価格が下落トレンドに入るのは、アメリカのFED(連邦準備制度)など主要国の中央銀行がテーパリング(資産買入の縮小)を本格的に行うようになって過剰流動性の勢いが弱まってからの可能性が高い。

それまでは、アフリカ大陸西端の小国の出来事が、極東の島国日本の経済に大きな影響を及ぼし続けるだろう。

 
人間経済科学研究所 代表パートナー(財務省OB)

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