自民党総裁選で「財界の代理戦争」…岸田推し経団連 vs. 河野推し新経連
三木谷氏が河野応援投稿をリツイート- 楽天の三木谷氏が河野氏応援の山本一太知事をリツイートした意味は?
- 新経連と河野氏の付き合いは古い。脱原発のエネルギーを中心に政策的な親和性
- 岸田氏は「河野憎し」の経団連支持取り付け。新経連と経団連「代理戦争」!?
自民党総裁選は告示後、最初の週末を迎えテレビでの論戦がヒートアップしてきた。特に「年金バトルが熱くなってきた」(岸田派議員)。消費税増税も視野に最低保障年金制度の創設を訴える河野太郎氏と岸田文雄氏ら他候補とのつばぜり合いが激しくなったが、一方で日曜の昼前、ツイッターで面白い動きがあった。
新経連と河野氏の親和性
それは楽天の三木谷浩史会長兼社長が、群馬県の山本一太知事が河野氏を応援するツイートをリツイートしたのだ。代表理事を務める新経済連盟が組織として総裁選で特定の候補を応援する予定はないかもしれないが、河野氏を支持する意思表示であると受け取る向きも強いだろう。
河野氏と新経連の関係性は決して浅くない。ちょうど10年前の7月、新経連が初めて国会議員を招いての勉強会を開催したとき、記念すべき第1回の講師がまさに河野氏だったのだ(参照リリース)。当時は野党自民党の中でもアウトサイダー的な存在だった河野氏。原発事故から約4か月後の演題はエネルギーで、原発政策の経緯や今後の見通しについて河野氏が語ったのだという。新経連は3.11以後、脱原発や電力市場改革を提言して、政府に度々申し入れているが、それらエネルギー政策の「原点」に河野氏のアイデアがなっているわけだ。
それだけではない。新経連が現在力を入れている政策テーマを見れば一目瞭然だが、新経連の「十八番」のデジタル化やイノベーション促進の税制、フィンテック、シェアリングエコノミーなどなど規制改革に向けた要望がずらりと並ぶ。だから規制改革担当相である河野氏をプッシュするのは当然といえば当然だが、先日も編集部で紹介したように三木谷氏、新経連と河野氏は移民推進でも親和性はある。
息づく“ネオリベ” 人脈
高市早苗氏を支持する人たちの主力であるトラディショナルな保守層や右派は、こうした考えはとても受け入れられない。左派やリベラルだと罵る向きも多いだろうが、ただし、立憲民主党的な左派と明らかに違うのは、河野氏も三木谷氏も憲法改正には自民保守派の考えとは各論では違うものの総論として前向きな点では一致している。旧態とした日本型リベラルとは当然違うポジショニングであり、あえて乱暴にラベリングすれば「ネオリベ(新自由主義)」寄り、よく言えば新世代型と言えようか。
ちなみに、かつて政界でも小泉政権の先鋭的な部分を引き継ぎ、一時期、政界で一定の勢力を築いた旧みんなの党出身の議員と親和性が高い点からも、河野氏と新経連の近さを感じさせる。中西健治参議院議員は河野氏の推薦人に名を連ね、三谷英弘衆議院議員も河野氏支持をSNSで表明した。
一方、山田太郎参議院議員は態度表明はまだしていないはずだが、規制改革などの持論は近いはず(彼の一丁目一番地の政策である「表現の自由」と河野氏のブロック問題との整合性の問題は気にはなるが…)。和田政宗参議院議員はネオリベどころか今は「ネット保守論客」の印象が強く、高市氏支持に思われたが、ここまで態度表明していない。ただ、彼は初当選した2013年参院選で、新経連が8人の候補に推薦を出した際、みんなの党で唯一推薦を得ている。
ネオリベ決別の岸田氏、経団連が支持
そして「ネオリベ」と言えば、思い出すのは岸田文雄氏が政策発表の段階で「小泉改革以降の新自由主義的な政策を転換する」と明確に言い切り、従来型の規制改革と決別する姿勢を示した。もちろん、岸田氏はデジタル社会の実装も掲げ、その先導的な存在になるであろうベンチャー、スタートアップの育成に力を入れることを明言もしている。
しかし経済ジャーナリストの磯山知幸氏が岸田氏に対し「新陳代謝回避では日本は生き残れない」と指摘するように、十分な規制改革なしに新産業が活躍し、日本経済のプレイヤーの主役交代など果たすことができるのだろうか。渡瀬裕哉氏が総務省の資料を調べた結果、この国の規制の数は小泉政権時代以後の15年間で1.5倍に増えている(氏の近刊「無駄をやめたらいいことだらけ」参照)。
オワコン産業を含めて既得権のオールドエコノミーを延命させ、産業構造転換の遅れにつながり、30年ものゼロ成長の元凶になったことを考えれば、岸田政権で突如うまくいくのか疑問が拭えない(そもそも、すでに「公然の秘密」となっているが、岸田陣営のブレーンは、アベノミクスの旗振り役だった今井尚哉・前首相補佐官なのだから、アベノミクス3本目の矢である成長戦略が不発だったことは言うまでもない)。
その筆者の懸念を裏付けるように、経産省出身のある自民党議員は「経団連はとにかく河野氏にだけは首相になってもらいたくない」と語る。もちろん理由は急進的なエネルギー政策。経団連の前会長、中西宏明氏(6月に逝去)の出身、日立をはじめ原発関連企業が多いのだから河野氏に反発するのは当然だ。そして岸田陣営は業界団体への働きかけを強めているが、そのハイライトとなる場面だったのが先週16日、岸田氏と経団連の十倉雅和会長(住友化学会長)の会談だ。十倉氏はこの席で「経団連と軌を一にするもので全面的に賛同する」と明確に支持をしたと報じられている(出所:時事通信)。
三木谷氏や新経連は今のところ正式に河野氏支持を打ち出すのかは微妙に思うが、ネット系新興企業が中心の「ニューエコノミー」と、昭和発の製造業を中心にした「オールドエコノミー」の代理戦争と言える構図が事実上固まったとも言える。高市氏が急速に支持を伸ばしてはいるものの、現時点での情勢では河野氏と岸田氏の決選投票の可能性が予測されている。下馬評通り、この2人の一騎打ちとなった場合、日本経済の構造転換はどうなるか、新旧交代がなるのか、を占う意味でも、これまでの総裁選ではなかった「裏の対立構図」に注目している。
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