中国資本の東京機械株買収と「テレ朝買収」事件に共通することは?

朝日新聞の創業家が語るエピソード付き
2021年09月23日 06:00
朝日新聞創業家
  • 朝日新聞創業家の筆者が、中国系ファンドによる新聞輪転機メーカー買収を語る
  • 思い出す25年前のテレ朝買収事件。朝日の当時の社長の感情的反発で拒否
  • 当時、メディア企業の資本のあり方を冷静に議論していれば…

驚くようなニュースが入ってきました。ある中国香港系のファンドが、こともあろうに新聞用輪転機メーカーを買収しようとしているようです関連記事。何にでも手を出すチャイナバブルもここまで来ましたか。次は火打ち石か人力車の会社が狙われるのでしょうか。いったい彼らは何を考えているのでしょうか。(原稿を書いているうちに情勢が激変。それどころではなくなったかもしれませんが)

※画像はイメージです(CBCK-Christine /iStock)

敵対的買収は容易ではないが…

まず、対象となった東京機械製造という会社。新聞用輪転機とその関連が主力商品。新事業で大当たりを出すというタイプではありません。「販売されている新聞の半分を印刷している」とされていますが、新聞の実売部数自体に水増が多く正確にはわからないわけですから、そう言われても嘘か本当か検証のしようがありません。一部の報道にあった4割のシェアと仮に考えて起きます。

4割と言えば莫大な数字のように見えますが、実売部数の2割や3割、数年で消滅させるだけの力が、今の新聞業界には十分あります。輪転機の新規発注はますます減りそうですから、輪転機のメンテサービスの会社と言えそうです。

全国紙も地方紙も、たいていは自社もしくわ関連会社の印刷工場で新聞を作っていて、通常のメンテは自分たちでやっています。ですから部品さえ手に入れば、メーカーのエンジニアに頼らなければならないような突発事故は、それほと多くないでしょう。しかも、今回のような「スキャンダル」が表面化すれば、新聞各社も消耗部品のストックを増やしたり、修理技術を研究したりして対応策を準備しはじめます。

何社かが組んで大がかりにやるなら、東京機械からエンジニアを引き抜いて、修理専門の会社を立ち上げるようなこともできます。特許がらみ以外なら、消耗部品は外部でもかなり作れます。技術面では他の輪転機のメーカー(がちがちの旧財閥系メーカーもあり)の応援もありそうです。

ですから、あからさまに東京機械製作所が新聞社に牙を剥いても、すぐに新聞発行が行き詰まるということはなさそうです。逆に牙を剥く方は、主力商品のお得意様に喧嘩を売るわけですから、経営上のダメージは甚大です。金融機関などの一般株主はたまりません。

したがって、この敵対的買収はそう簡単には進みそうにありません。「買収の目的が、紙面への影響力を持つために新聞社を脅迫すること」ではないか、という嫌疑がある限り、(社員、金融機関、株主など)関係者は誰も味方には付きません。自爆テロ予定のハイジャッカーに乗客が命がけで抵抗するようなものです。

この秋にでも発動されるという現経営陣側の買収防衛策が発動されたら、ファンド側は打つ手が無くなりますから、法廷闘争に発展します。下手をすれば結論が出るまでに数年かかるかも知れません。その間、新聞社側の対抗策は準備が進むやら、発行部数はガンガン減るやらで、東京機械製作所の新聞発行への影響力はますます低下します。あまりにも費用対効果の悪い話です。

「テレ朝買収」今だから語れること

私は、25年前のテレビ朝日株式買収事件を思い出しました。オーストラリア人のルパート・マードック氏が、ソフトバンク社と合弁会社を作ってテレビ朝日の株式の20%強を買収しようとした事件です。「事件」と書きましたが、彼らにしてみれば日本で新たなデジタル衛星放送(今のスカパーの母胎のひとつ)を作って、テレ朝のコンテンツを流そうとしただけで、ビジネスパートナーシップの提案だったわけです。

東京・六本木ヒルズ近隣のテレビ朝日。買収事件当時は同じ森ビル系の赤坂アークヒルズにあった

けれども、当時はテレ朝ばかりか朝日新聞社から自民党まで、感情的な反発がありました。「黒船に日本のメディアが乗っ取られる」というわけです。結局、マードック氏はあっさりと撤退しました。買収自体は成功したにもかかわらず撤退を決意し、未練があったはずの孫正義氏を置き去りにして、さっさと帰ってしまいました。それ以来、彼は日本のメディアには手を出そうとしませんでした。

この話には、裏があります。以下は、朝日新聞社の当時の社主、上野尚一氏から直接聞いた話です。最初にマードック氏が話を持ってきたのは、世界新聞大会などですでに旧知だった上野社主のところでした。

ちなみに、尚一社主は当時朝日新聞きっての英語の使い手で、ネイティブと渡り合う尚一氏を見て、フルブライト奨学金でボストン大を卒業した人が舌を巻くレベルでした。それに加えて、思えば生まれながらに社主になるための教育を受けてきた唯一の社主ですから、オーナーとしてのオーラがあります。マードック氏が、ここへ話を持ってきたのは、合弁事業は敵対的にやっても実りは少ないと考えてのことだと思います。

社主はマードック氏の提案を理解し、当時のN社長に取り次ぎました。けれども結果は最悪でした。N社長は、取り次ぎを拒否したというよりも、提案内容の「非常識さ」に激怒したという態度だったようです。

今回、原稿を書いていて改めて思ったのですが、このとき、N社長が上野社主の顔をたててマードック氏に会った上で、丁重に提案を断っていたら、現在の新聞社の置かれている状況はかなり違ったものになっていたのではないでしょうか。

そこまで望むのは無理にしても、せめて元新聞記者の好奇心を発揮してマードック氏を「見て」おいてほしかったと思います。「新聞事業において資本家とは何か」考える端緒にしてほしかった。多くの経営者が、こういう機会をことごとく逃したことが積み重なって、わが国の新聞社は、インターネット上に有効なビジネスモデルを構築出来ずに紙依存が続き、輪転機メーカーのM&Aに慌てることになってしまったのだと思います。

「朝日脳」新聞経営者の先手を読む

撮影:編集部

マードック事件と今回の東京機械製作所問題で共通するのは、資本の力でメディア業界に新規の影響力を持とうとすることへの、新聞人(特に朝日脳保持者)たちの強烈な反感です。「資本家は我々労働者(笑)の敵だ」と思うのは勝手ですが、電波やウェブの技術が進展し、情報環境が大きく変わるとき、それについて行くための巨額の資金はどうやって調達するのでしょうか。

さて、その後、上野尚一社主がマードック氏にどんな説明をしたのかは知りませんが、最終的には、買収された株式を彼らの買値と同額で、朝日新聞社他が買い戻すという形で決着しました。このとき、マードック氏らに売却益が出ない元値で買い戻せたのはお手柄だとの議論もありますが、考えてみれば、「新事業をやるぞ」と外部資本が盛り上げて買い集めた株式を、こともあろうにその事業を壊すために買い戻したのですから、当然、多額の含み損が発生します。後日、当時の経営陣に対して朝日新聞のOBが株主代表訴訟を起こす騒ぎにまでなりました。マードック氏は最後に上野社主に「ちゃんと話をしてくれれば、(朝日新聞に)こんな損はさせなかったのに」と寂しそうに言ったそうです。今回の東京機械製作所問題、私は最終的には「新聞協会あたりが、奉加帳方式で各紙から資金を集めて、中国系のファンド買いあさった株式を買い戻す」という展開を予想しています。

くだんの中国系ファンドが、日本の「朝日脳」新聞経営者たちが感情的な反発のあまり、採算度外視価格での買い戻しを提案してくることを予想して一儲けしようと考えているのなら、たいしたものだと思います。資本と編集の問題、特にマードック氏に関することは、次回に別の角度から触れてみたいと思います。

(次回は10月14日予定)

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