【連載】新聞社の黒歴史に迫る #3 PRと見まごう政治記事 真偽見分けに必要なことは?

『言論統制というビジネス』著者、里見脩氏に聞く
2021年09月26日 06:00
ライター・編集者
  • 『言論統制というビジネス』著者に聞く、メディアの過去・現在・未来を問う最終回
  • コロナでも注目「失敗の本質」はメディアにも相当。変わるためには?
  • ステマやフェイクニュースが横行する時代、読者の側は何を意識したらいいのか?

戦時期のメディアの「黒歴史」に迫った新刊『言論統制というビジネス―新聞社史から消された「戦争」―』(新潮選書)が注目される里見脩さん(元時事通信記者、大妻女子大学人間生活文化研究所特別研究員)への連続インタビュー。最終回は岐路に立つメディアが変わるためには?真偽ないまぜに情報が氾濫する時代に私たちが心構えすべきことは?筆者と里見さんの議論が展開します。

y-studio /iStock

「先を知る」ためには「過去を知れ」!

――日本の政治や社会で何らかの構造的問題が露見すると、すぐに「戦前と同じ」と批判する傾向は今でも見られます。政府のコロナ対応でも旧日本軍の戦略のなさを指摘した『失敗の本質』(中公文庫)が引き合いに出されました。しかしそうした批判をするメディア自身も、なかなか変わることができない。どうすればいいのでしょうか。

里見脩(さとみ・しゅう)1948年、福島県生まれ。東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得満期退学。博士(社会情報学)。時事通信社記者、四天王寺大学教授、大妻女子大学教授などを経て、2021年8月現在は大妻女子大学人間生活文化研究所特別研究員。主な著作に『新聞統合 戦時期におけるメディアと国家』(勁草書房)、『ニュース・エージェンシー 同盟通信社の興亡』(中公新書)、『岩波講座「帝国」日本の学知』第4巻(共著、岩波書店)、『メディア史を学ぶ人のために』(共著、世界思想社)など。

【里見】このサイトは「SAKISIRU(先を知る)」という名前ですが、先を知るため、正しいリテラシーを身につけるには「歴史」を知る必要があります。「過去を知る」ことは「現在を知る」ことであり、「先を知る」ことにつながる。

「過去を学ばないものに未来はない。過去の過ちの繰り返しがあるだけだ。過去を学んだものだけが、繰り返しを脱して、未来の扉を押し開けることができる」という哲学者・ヘーゲルの言葉があります。

それは私自身が本書を執筆するにあたって、かみしめてきた言葉でもあります。

また、これはメディアにかかわる人間、つまり情報発信者だけではなく、受け手である読者の方も肝に銘ずべき点だと思います。今、私たちは「情報社会」で生活を営んでいます。情報社会とは「情報が、私たちの生活の隅々にまで浸透し、情報との接触なしでは社会生活を営みことが出来ない社会」を意味します。スマホ、パソコンそしてテレビ、新聞、本などと接触しない生活は考えられません。

ビジネスと交錯する言論の質を見分けるには

――常に情報洪水状態で、大事な情報でもすべては追いきれません。

【里見】確かに便利にはなりました。しかし反面、リスクも存在することに無自覚であってはならないと思います。つまり大量の情報の洪水に流されると、それに圧倒されて、いつしか自身で考えることを放棄し、生活の全てをスマホなどの情報機器から流れる情報に依存してしまう。そうなると、主体と客体の逆転現象が起きてしまう。元来、主体は自身であり、情報はあくまで自身を活かすための手段、客体です。ところが情報が主体で、自身がそれに支配される客体となるという現象です。

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――米大統領選で露呈した「フェイクニュースに踊らされ放題」という現状を思わざるを得ません。また、総裁選に積極的に「参戦」している各メディアやSNSでの発信者などは、ある意味で自ら「積極統制」に加担しているのではないかと思わされるケースもあります。客観的な論評記事か、主観的な応援記事か、書き分けることさえしていない。広告であればPR記事であることを明示しなければ「ステマ」になりますが、政治記事や発信にはそれはありません。

本書を読んだ後、現状を振り返ってみれば、彼らも戦時期のメディア人と同様、「言論」と「ビジネス」の交錯するところで意見を展開しているのかもしれませんが。

【里見】そうした俯瞰した視点も、歴史を知らずしては持ちえません。情報は氾濫し、偏在し、欠落する。氾濫し、偏在する情報の中から、「欠落しているものは何か」という疑問を持つ。また自身に届く情報が、どの様なプロセスを経て来たかを考える。情報に付着した発信者の意識を見抜くことが大切だと思います。(おわり)

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