安い!軽い!ペロブスカイト太陽電池はここがスゴイ!
坂田薫『コテコテ文系も楽しく学ぼう!化学教室』第13回- 大注目の「ペロブスカイト太陽電池」の続編、今回はそのスゴさを解説
- 3つの特徴「安い」「薄くて軽い」「直射日光でなくても発電可能」
- ペロブスカイト太陽電池でも「開発で勝って、ビジネスで負ける?」
ペロブスカイト構造の物質を半導体に用いた、日本発の「ペロブスカイト太陽電池」。この電池の研究が世界中でおこなわれているのは、とにかく「スゴイ!」からなのです。一体、どんな特徴をもった電池なのでしょうか。前編に続き、後編の今回は「ペロブスカイト太陽電池の特徴」をお伝えします。
前編「塗って乾かすだけ!日本発「夢の太陽電池」ペロブスカイトって何?」はこちら
ここがスゴイ!ペロブスカイト太陽電池!
ペロブスカイト太陽電池の特徴一つ目は、「安い」です。シリコン太陽電池とは比較にならないほどの低コスト、低エネルギーで作ることが可能。なんと作り方は、ペロブスカイト構造の物質を溶かした溶液をフィルムやシートに塗布して乾かし、電極で挟むだけ!フィルムなどへの塗布には印刷の技術を利用できるため、製造コストを抑えることができるのです。パナソニックはインクジェットを用いた塗布法を開発。また、京都大学は「ロール・トゥー・ロール」方式により、印刷物を「刷る」ようにフィルム基盤に高速で塗布して作る方法を研究しています。少し気が早いですが、様々な技術の進歩の先に「家庭用のプリンターでペロブスカイト太陽電池を作る」なんて未来が待っているかもしれませんね。
そして、二つ目は「薄くて軽い」!フィルムなどに溶液を塗布するだけなので、非常に薄くて軽いのです。実際に、京都大学発のベンチャー企業エネコートテクノロジーズのサンプルを見せていただきましたが、クリアファイル程度の薄さで、自由に曲げることも可能でした。よって、ビルの壁面、透明電極を用いて窓への適用、電気自動車の屋根、自動販売機、衣服、カーテンなど、シリコン太陽電池では不可能だった場所に、簡単に設置できるのです。丸めて家に置いておけば、災害時の電源としても利用できるでしょう。
そして、三つ目は「直射日光でなくても発電可能」。薄くても光をしっかり吸収するため、曇りや室内などの低照明下でも発電可能です!こうなると、「ペロブスカイト太陽電池」より「ペロブスカイト光電池」のほうが適切かもしれませんね。
最後に、みなさんが気になるのは性能でしょうか。このペロブスカイト太陽電池。耐久性や大面積化などの課題を抱えていますが、交換効率はすでにシリコン太陽電池に肩を並べるまでに猛追しています。アメリカのNRELによると、結晶シリコンの太陽電池の最高効率は26.7%なのに対し、ペロブスカイト太陽電池の最高効率は25.5%とのこと。ペロブスカイト太陽電池がシリコン太陽電池の性能を追い越す日も遠くなさそうですね。
開発で勝って、ビジネスで負ける?
先日、「東芝が大面積のフィルム型ペロブスカイト太陽電池のモジュールとしては世界最高効率の15.5%を達成した」というニュースが流れました。それとともに「ポーランドのスタートアップがペロブスカイト太陽電池の量産に入る」というニュースも。中国やイギリスは来年から量産の予定とか。「開発で勝って、ビジネスで負ける」という苦い経験を、日本は繰り返してしまうのでしょうか。
今回、海外勢が量産を先行したのは、開発者の宮坂力博士が技術の基本的な部分について海外での特許を取得していなかったことがあります。海外での特許取得は多額の費用がかかるためです。しかし、問題はそれだけではありません。宮坂博士は、今年1月の日経新聞のインタビューで次のように述べています。
「中国には20〜30代の若手を中心に研究者がざっと1万人はいると聞く。日本の10倍超にもなる人数だ。日本の研究者の方が質は高いかもしれないが、技術開発では汗をかきながら実験を進めるマンパワーが必要だ」
日本は技術開発に関して、研究者任せにしすぎたのではないでしょうか。海外での特許取得に関する援助や、研究開発における人材の確保など、今、国が動かなければ、今後も「研究開発で勝って、ビジネスで負ける」が繰り返されてしまうでしょう。国は、日本の研究や研究者を、もっと大切に守っていかなくてはいけません。
300年後の人類
今までわたしたち人間は、地球に甘え、自分たちの利益を優先させて生きてきました。その結果が、今ある環境問題やエネルギー問題です。これらの問題と向き合い、地球を未来に繋ぐことを真剣に考えなくてはいけません。そうはいっても、日々の生活の中でなかなか意識できないですよね。「意識しないようにしている」が正解でしょうか。わたしたちは、自分が生きている「今」ばかりを見てしまいがちです。
しかし、研究者の方々の目は常に未来に向いています。ペロブスカイト太陽電池を研究している京都大学教授の若宮淳志博士は、インタビューで次のように述べています。
「300年後の人類は確実に、化石燃料に頼れない生活を送っているはずです。そのとき、何世代も先の僕の子孫に『自分の祖先がこの研究をしてくれていて助かった』と振り返ってもらえるような研究をしたい。」
300年後、わたしたちの子孫はどのような生活を送っているのでしょうか。大きな気候変動にも動じない社会システムを構築し、たくましく生きているのでしょうか(第2回)。がんは治せる病気となり「昔の人間はがんで死んでいた」と笑い話にしているでしょうか(第8回)。自宅のプリンターで印刷したペロブスカイト太陽電池を自動車の屋根に貼り、ドライブにでかけているのでしょうか。
わたしたちは300年後の世界を見ることはできません。しかし、太陽は変わらず地球に光を届けてくれているはずです。その太陽の恵みを存分に活かして生活する300年後の人類を想像できるのも、科学のチカラのおかげかもしれませんね。
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