玉城デニー知事再選へ暗雲…オール沖縄から有力企業「金秀」離脱の背景
本当に「共産党」が離脱の理由か?- 玉城デニー知事らの「オール沖縄」勢力から有力企業「金秀」が離脱
- 翁長前知事時代の支援企業が離脱、「金秀」が離れるのは時間の問題だった
- 「金秀」呉屋会長は共産党を離脱理由に語るが、利権の望みが消えたから?
9月半ば、辺野古埋め立て反対運動の核となっている政治勢力「オール沖縄」(正式名称:オール沖縄会議)を支援してきた沖縄の有力企業グループ・金秀(かねひで:呉屋守将会長/建設業およびスーパーの大手)が、次期総選挙ではオール沖縄の候補者を支援せず、自民党の候補者を支援する方針に転換した、と大きく報道された。地元・沖縄ではオール沖縄の瓦解の可能性を示す問題として取り上げられている。
筆者は、マスコミ報道が出る前の9月11日にこの情報を得たものの、金秀側への確認ができなかったため公表を控えたが、とくに驚くこともなかった。なぜなら呉屋会長は、2018年3月の段階でオール沖縄会議の共同代表を降り、昨年9月には玉城デニー知事の後援会長も辞任していたからである。今回の「オール沖縄離脱・自民支持」の表明は、後援会長辞任からちょうど1年を経ている。むしろ既定の方針だったのだろう。
時間の問題だったオール沖縄の瓦解
オール沖縄は、保守政界の有力者だった故・翁長雄志氏(2018年8月8日に逝去)が、保守勢力の一部と共産党、社民党などの革新勢力を糾合してつくりあげた保革相乗りの「反基地」運動体で、2014年11月の県知事選挙で翁長県政を誕生させ、2018年9月の県知事選挙では、翁長氏の遺言に従って後継指名された玉城デニー現知事を当選させている。
オール沖縄の「瓦解」は、今回始まったことではなく、翁長氏の膵臓ガンが発覚した2018年春には始まっていた。同年4月、翁長氏がまだ存命であるにもかかわらず、金秀とともにオール沖縄を支えていた企業グループ・かりゆし(平良朝敬CEO)が、オール沖縄会議を完全に離脱している。同グループは、翁長氏が亡くなって玉城氏が立候補した9月の県知事選では自主投票を決め、事実上、自民党候補を支援する体制に変わっている。以後、ホテル業界大手のかりゆしグループの「寝返り」に続くかたちで、やはりオール沖縄を支援していた旅行代理業最大手の沖縄ツーリストを始め、翁長前知事・玉城知事を支援していた主要企業が次々オール沖縄と訣別し、金秀の離脱はもはや時間の問題となっていた。別の言い方をすると、金秀は取り残され、孤立していたのである。
「辺野古反対」はたんなる名目
オール沖縄が結成された経緯を見ると、表面的には「普天間基地の辺野古移設または辺野古埋め立てに反対か賛成か」という主義主張の問題で沖縄が二分されたかのように見えるが、筆者は必ずしもそう見ていない。主義主張の問題は、たんなる名目に過ぎなかったと思う。
2000年代に入ってから、沖縄の保守政界は翁長氏の前に知事を務めていた仲井眞弘多氏と翁長氏の2人が仕切っていた。保守政界を仕切るとは、沖縄の利権構造全体に大きな影響力を及ぼす立場にあったという意味でもある。ところが、2012年頃から翁長氏は革新勢力と手を握るかたちで、辺野古移設やオスプレイ配備などといった日米の基地政策に異議を唱え始めた。

だが、当時の翁長氏の「基地反対」は、政府から沖縄にお金(沖縄振興予算など)を引っ張ってくるための高等戦術にすぎなかった。仲井眞氏とともに政府との交渉による最後の落としどころは考えていたと思う。ところが、2013年前後のいずれかの時点で、当時知事だった仲井眞氏と翁長氏とのあいだに亀裂が走る。2014年の知事選で、翁長氏は仲井眞氏から知事の職を禅譲してもらうつもりでいたが、仲井眞氏は拒んだのではないか、それによって両者のあいだに修復不可能な亀裂が入ったのではないか、というのが筆者の推測である。
その動機はともかく、以後、翁長氏は仲井眞氏に反旗を翻し、オール沖縄の支援を受けて知事選に立候補する覚悟を決める。翁長氏の決意を受けて、経済界から翁長氏を支えたのが、金秀の呉屋氏であり、かりゆしの平良氏だった。呉屋氏や平良氏がオール沖縄の主張に共感したことを全否定するつもりはないが、保守政治家時代に利権配分の中心にいた翁長氏に彼らが期待したのは、「辺野古移設(埋め立て)の阻止」ではなかった。
案の定というべきか、当選した翁長知事は、選挙後あからさまな論功行賞で呉屋氏と平良氏の支援に報いた。知事就任翌年の6月、沖縄県が人事権を握る沖縄観光コンベンションビューロー(観光業界の元締め)の会長に平良氏を起用、延伸が予定されていた沖縄都市モノレール(通称:ゆいレール)社長に金秀グループの幹部を充てている。明らかな利益誘導であり、利益相反の疑いも残るこうした人事に対して異議を唱えるのが本来の仕事のはずだった県内マスコミはすっかり沈黙した。
翁長氏逝去で失われた利権
翁長県政下では、時期的に沖縄へのインバウンドが急増したこともあって、かりゆしはもちろん金秀も、観光資源に驚くべきハイペースで多額の投資を行い、県内あちこちにかりゆし資本、金秀資本のホテルやゴルフ場などが生まれたが、翁長氏との深い関係がなければ、これほどの事業拡大は不可能だったはずだ。
ところが、翁長氏が体調を崩してまもなくかりゆしグループはオール沖縄から離脱した。翁長氏はまだ存命だったが、翁長氏の利権配分にはもうあやかれないと判断したのだろう。もともと売上高100億円規模の企業グループで、基幹ホテルも赤字続きだったから、急激な事業拡大のリスクがすでに顕在化していたのかもしれないが、「埋め立て反対」に力を注ぐ余裕はもうなかった。

かりゆしの10倍の規模の売上高を誇る金秀グループは、その後もオール沖縄の支援はつづけたものの、実業の世界に疎い玉城デニー知事からの利権配分は望めない状態に陥っていた。さらに、2018年から始まったセブン&アイ・ホールディングス(セブンイレブン)とのFC契約で多額の事業資金が必要になったことに加えて、コロナによる観光業の不振が経営に翳りをもたらしたことで、離脱の決断を下さざるをえなかったのではないか。
地元メディアは、「自民党の圧力で公共事業がとれなくなったこと」が金秀離脱の要因であると臭わせているが、翁長氏の逝去により利権から遠ざかってしまったこととコロナの影響が主要因であって、公共事業の影響は軽微である。
カネにはならないオール沖縄
いずれにせよ、金秀についてもかりゆしについても、「翁長氏の下での政商化」を望んだことが最大のミスだったと思う。呉屋代表は、最近のインタビューで、「『翁長丸』に乗っていたら、隣に赤い服を着た人がいた。途中の経緯はあるが、最終目的地までは一緒に乗らない。理想が違う」と、オール沖縄の主勢力となっている共産党の存在が離脱の理由であるかのよう発言しているが(9月16日付琉球新報)、それはあまりにも都合のいい説明だ。
呉屋氏が正義感や主義主張で動いていたとすれば、「今後は自民党を支持する」などとわざわざ表明する必要などない。「今後も玉城知事を支援するが、共産党とは一線を画す」といえば済むだけの話である。呉屋氏がそういえないのは、「知事もオール沖縄もカネにはならない」ことがよくわかったからである。
翁長氏の知事選立候補の経緯といい、呉屋氏や平良氏のオール沖縄からの離脱といい、結局は「カネ(利権)の切れ目が縁の切れ目」という格言を裏づける結果となってしまった。それが今回の事態の本質である。情けなくもなるが、残念なことにそれが沖縄の政治の実情だ。
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