「タリバンはやっぱりタリバン」なのに日本人が「変わった」と思い込む理由

「魔改造」のワナに気をつけろ
地政学・戦略学者/国際地政学研究所上席研究員
  • タリバンが変わったとも言われていたが「変わっていない」ことを示す事件
  • アメリカでもエリートたちの勝手な思い込み。ルトワックは「改造」と呼ぶ
  • 日本も文化面で「改造」はよくある。国際政治の現実も「魔改造」の可能性

「タリバンは変わった」は本当か

まずはショッキングなニュースをご紹介したい。

タリバン“見せしめ”4人の遺体つるす

アフガニスタンで暫定政権を樹立したイスラム主義勢力タリバンが、誘拐に関与したとされる4人の遺体を“見せしめ”のため、街中でクレーンでつるしました。

ロイター通信などによりますと、アフガン西部のヘラート州で25日、タリバンがビジネスマンとその息子を誘拐したとされる容疑者4人を射殺したと発表しました。  遺体はその後、多くの人が集まる広場や交差点にクレーンでつるされました。

ヘラート州のタリバンの幹部は誘拐された親子は無事だったとした上で、遺体をつるした理由について「すべての犯罪者に警告するため」と説明しています。

タリバンは旧政権時代、公開処刑や罪を犯したとされる人への残虐な刑罰を繰り返していて、今回の“見せしめ”で人権侵害への懸念がさらに高まりそうです。(出典:「日テレNEWS24」

「タリバンはやっぱりタリバンであった」。この事例は、タリバンがその野蛮さにおいて旧政権時代と変わっていないことを示している。

ところが8月にカブールが陥落する前後では、「タリバンは国際的に孤立したくないため、以前のような野蛮なことはしない」という意見が、欧米だけでなく日本の、しかも専門家と呼ばれる人々の中にもいた。今回の「遺体つるし事件」において、彼らの評価は間違いであり、彼らの考えが幻想にすぎないことが判明した。

ルトワックが指摘する「発明」の怖さ

その理由だが、単純にいえば「バイアス」であろう。日本のジャーナリストや研究者や学者も一介の「人間」なので、当然ながら勝手な思い込みや偏見があるだろうし、それによって情勢を見誤ることもある。

ただしその判断が集団的なものになると、国際的に悲劇を生み、多くの人命が失われることになる。アメリカがアフガニスタンやイラクに侵攻したのは、まさにこのような誤った判断を政府やメディアや国民を巻き込む形で盛り上げてしまったからに他ならない。

日本の場合はそれほど利害がない(といっても日本はこの20年間で69億米ドル、つまり約7590億円の援助をしているが)から良いようなものの、アメリカの場合は「911」事件後の一連の対テロ戦争で8兆ドル(約880兆円)の費用がかかったと言われており、米兵の死者は7000人以上、戦争によって亡くなった人は90万人前後にも上る、という試算もあるほどだ。

gorodenkoff /iStock

このような外国に対するアメリカのエリートたちの勝手な思い込みを、ルトワックは「発明する」(invent)と表現している。

これは実に言い得て妙である。というのも、アメリカのブッシュ(息子)政権は、2003年にイラクに侵攻した時に「民主化できるイラク」という自分たちに都合のよい外国を「発明」しており、それを目指して軍事介入して泥沼にはまってしまったからである。

しかも「イラクは民族的に分断していて半永久的に民主化できない」と連邦議会の公聴会などで指摘したルトワックは、当時のブッシュ政権の高官やそれに近い立場のシンクタンクの研究員たちに「この人はイラクの民主化の可能性を信じない人種差別主義者(レイシスト)です!」と公の場で非難されたこともあるという。今となってはどちらが正しかったか、言うまでもないだろう。

日本も外国からの文物を「魔改造」

これはなにもアメリカだけに限った話ではない。日本にも当然ながら、同じように外国を「発明」する現象はある。特に日本では文化面での「発明」が多いと感じている。しかもそれは「魔改造(まかいぞう)」と表現すべきほどの、かなり選択的な文化の切り取りをしているように思えるのだ。

仏教も日本流に変わった(stockstudioX /iStock)

たとえば日本が仏教を輸入した過程でも、厳しい戒律(僧侶の妻帯・肉食など)は次第に削ぎ落とされた。

ただ個人的により気になっているのは、そのような文化が、日本にあった形で「浄化」されるものが多いという点だ。たとえば孫子や老子は、本来は軍事戦略論や国家戦略論であるのに、それぞれビジネス論や心の癒やしなど、自己啓発のための書物として読まれている。

ポップカルチャーなどでもこのような浄化的な「魔改造」は多い。私も個人的に留学中に体験したことだが、ブライアン・アダムスやトム・ペティと行ったアーティストのコンサートに行った時に、とりわけ後者のコンサート会場が大麻の煙で充満しており、日本では健康的なイメージの強かったアダムスも、ライブ中のMCで「しっかり吸ってラリってるかい?」などと呼びかけるのだ。

つまりロック系の音楽も、背後にあるドラッグ文化の部分が日本では削ぎ落とされ、浄化された形で受け入れられているのだ。サッカー文化も、輸入時にフーリガンような危険な部分は排除されているし、ラップが流行しても、ギャングやドラッグの側面は浄化されてしまう。

日本は外国から文化を輸入する時に、良い意味でも悪い意味でも強烈な「文化フィルター」が作用しており、これによって一つの文化を強烈に「浄化」した形の「魔改造」につながっているのだ。

「魔改造」という危険な行為

文化であればまだ良いが、厳しい国際政治を分析する場合には、それが喜劇になったり、さらには悲劇につながることもある。

たとえば去年のアメリカの大統領選挙において、ネット上で多くのトランプ支持者はトランプを「魔改造」していた。彼の元部下たちが選挙法違反で次々と収監されたり、数人の女性から性暴力で訴えられている件などは完全に無視。トランプはまるで「アメリカと日本を救う救世主」のような扱いを受けていたのだが、これなどはまさにイメージが浄化されていた現象だと言える。

冒頭のタリバンの話でも見られたように、われわれは国際政治の現実についても「魔改造」をしている可能性がある。

中国、韓国、北朝鮮、そしてアメリカに対してはどうだろうか? 専門家やジャーナリストであればあるほど、この危険な行為に手を染めてしまいがちだ。われわれは国際政治をありのままの現実としてとらえなくてはならない。

 
地政学・戦略学者/国際地政学研究所上席研究員

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