岸田総理誕生へ、新政権は何をやるのか?

安全保障は「脱リベラル」
2021年09月29日 17:30

自民党総裁選は29日、国会議員票の投票と全ての開票が行われた。党員票と国会議員票を合わせた1回目の開票で岸田文雄氏が256票と、河野太郎氏を1票差で上回って首位に立った。高市早苗氏が188票、野田聖子氏は63票だった。いずれも過半数に届かず、上位2人の決選投票が行われ、岸田氏が257票(国会議員票249票、都道府県票8票)、河野氏が170票(国会議員票131票、都道府県票39票)となり、岸田氏が新総裁に選出された。岸田氏は近く招集される臨時国会の総理大臣指名選挙で、第100代内閣総理大臣に就任する。

岸田氏当選の瞬間を街頭のテレビで見守る通行人(写真:AP/アフロ)

28年ぶり「宏池会」政権

自民党内の派閥権力の構図で見ると、岸田氏は1993年の宮沢喜一氏が退陣して以来、宏池会(現岸田派)として28年ぶりの首相となる。宏池会は池田勇人が1957年に創立。財政規律を重んじ、外交はハト派路線を基調とする、自民党内きってのリベラル派閥だ。自民党は、森喜朗氏が就任した2000年以後、麻生政権と民主党政権の時期を除き、小泉、安倍(第1次、2次)、福田と長く清和会(現細田派)の政権が続いてきた。宏池会は2000年、当時の派閥トップだった加藤紘一氏が森氏の倒閣クーデターを仕掛ける「加藤の乱」に失敗。以後、派閥が分裂し、苦しい時期が続いていた。

加藤の乱のイメージから宏池会は長らく「政局に弱いお公家集団」と揶揄されることが続いてきた。岸田氏自身も昨年の総裁選で敗れ、今春にはお膝元の参議院広島選挙区の再選挙で、野党候補にまさかの敗北を喫するなど首相候補としての芽はついえたと思われた。しかし、「次の機会では勝利できるよう政策を磨き、力を蓄え、精進していきたい」との言葉通り、雪辱の機会を伺っていた。

「お公家」脱却の陰に今井氏?

岸田氏は今回の総裁選を見据え、早くから準備を重ね、苦手の発信力に関しても選挙プランナーも起用するなど空中戦対策に注力。ネットでは岸田BOXを開設し、ツイッターなどから意見を募集して、「トップダウン型」だった安倍・菅政権時代と異なる「対話型」の演出で差別化した。

そして総裁選出馬表明にあたり、党のガバナンス改革を公約に掲げた。この時、役員の任期制導入を唱え、「二階幹事長外し」を仕掛けるなど、「バランスの岸田」(細田派議員)から脱皮する大胆さも見せた。これにより菅首相が退陣に追い込まれる流れを作るきっかけにもなり、「お公家集団」とは思えない政局の強さを見せた。

複数の政界関係者によると、安倍政権で首相秘書官を務め、安倍氏の最大のブレーンだった今井尚哉・内閣官房参与が陣営に出入り。一連の政局シナリオを描いたのではとも言われており、また、表向きは高市氏を推していた安倍氏も「真の本命は岸田氏」だったとの見方があった。

伝統にとらわれない柔軟さ

岸田氏は公約についても時に宏池会の伝統にとらわれない柔軟性も見せた。典型的なのは安全保障政策。今回の総裁選で岸田氏は敵基地攻撃能力の保有について「有力な選択肢」との見方を示すなど、中国の軍拡による国際情勢の変化に対応して、伝統的な安全保障政策とは異なる見解を示すあたりは、これまでにない変化だった。「自由で開かれたインド太平洋構想の推進」は安倍外交の延長。選任大臣設置を含めた経済安全保障の強化や、人権問題担当官ポスト(総理補佐官)の新設といったように、台頭する中国を念頭にしている。

経済政策は持論の「新しい日本型の資本主義」を提唱。「成長なくして分配なし」と格差是正を前面に掲げ、小泉政権時代以後の新自由主義的政策からの転換を訴えてきた。分配政策で掲げた中で、財政の単年度主義脱却は日本の行政予算の伝統に新風を吹き込み、中長期の視野に立った政策立案を促す狙いは注目される。

他方、成長戦略では「10兆円規模の大学ファンドを年度内設立」、「原発再稼働などを含むクリーン・エネルギー戦略の策定」を掲げており、菅政権が注力してきたデジタル化は、デジタル田園都市国家構想を掲げ、地方活性化を視野に入れる独自色を出す。ただ、経団連が強く支持されたように、オールド・エコノミーの意向を意識することで、構造改革が後退する懸念が残りそうだ。

総選挙で最大の論点になりそうなコロナ対策は、野戦病院等の臨時の医療施設の開設などを含めた「医療難民ゼロ」、各種給付金など数十兆円規模の経済対策、電子的なワクチン接種証明の積極活用、地方が人流抑制や医療資源確保のため、より強い権限を持てるための法改正や、「健康危機管理庁(仮称)」設置による感染症危機対応の強化を掲げるが、病床確保に医師会をはじめとする医療界の意向が壁になってきたことが国民の不満を招いた経緯がある。新政権が決然とこれらの施策を十二分に実装できるのか、時には国民、医療機関や医療従事者らの強制的に協力させるための法整備の必要を、国民や医療界を説得しきれるのか、冬にも予想される第6波に向けて試練となりそうだ。

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