「公示地価が6年ぶり下落」なのに首都圏の住宅が値崩れしない理由

報道と裏腹に進む「都市集約」
住宅・不動産ライター/宅地建物取引士
  • 公示地価が下落なのに首都圏の住宅価格が高止まり。不動産の専門家が分析
  • 公示地価は指標にすぎず、実態は売り手市場。首都圏への人口流入は継続中
  • 人口減少が都市部に集約化の流れ。コロナ禍が長期化なら、市場どうなるか

国土交通省が3月23日に発表した今年1月1日時点の公示価格は、全国全用途の平均が前年比0.5%の下落となり、6年ぶりに下落に転じたことが分かった。特に、商業地については三大都市圏(東京圏、大阪圏、名古屋圏)の全てで前年比1%を超える下落率となった。

公示地価下落の発表をうけた新聞各紙の論調は以下のとおりである。

・朝日新聞 コロナと地価 影響の深度、注視を(社説:2021.3.27)
・産経新聞 公示地価の下落 実体経済への影響注視を(コラム:2021.3.27)
・毎日新聞 コロナ下の地価下落 変化踏まえた街づくりを(社説:2021.3.27)

主張や分析に若干の差はあるが、各社とも、パンデミックによるインバウンドの激減や、テレワークの普及による郊外や地方への移住などの影響で、都心の不動産の需要が減った若しくは地価下落に警戒が必要という論調だ。

だが、コロナの影響で公示地価が下落に転じたからといって、実際に取引される不動産価格が下落しているような論調のメディア報道はミスリード感が否めない

地価公示は一般の土地の取引価格に対しての指標となるのは間違いないが、実際に地価動向を形作るのはあくまで「市場」であり、その市場は今、かなりの活況なのだ。

売れ続ける首都圏の住宅

最近メディアでもようやく取り上げられるようになったが、今、首都圏(1都3県)の住宅が売れに売れている。

公益財団法人 東日本不動産流通機構(東日本レインズ)のデータによると、今年3月度の首都圏における中古マンションの成約件数は4,228件、前年同月比プラス16.2%の2ケタ増で、同機構が発足以降で過去最高を記録している。

また、中古戸建住宅も同様で、3月度の成約件数は前年比プラス25.8%の大幅増となり9ヶ月連続で前年同月を上回り、こちらも同機構の発足以降で過去最高となった。

同機構に登録されている売物件の在庫も減少し続けており、在庫が増えればさらに成約数は伸びると予想される。

今、首都圏の住宅市場は需要が供給を上回る完全な「売り手市場」となっているのだ。需要が供給を上回っている状況で、実際の地価が下落に転じるはずはない。

現に、国土交通省が今年3月に公表した令和2年第4四半期分の不動産価格指数は、住宅が前月比1.6%上昇(前年同月比ではプラス4%)、商業用は前期比 3.2%上昇となっており、いずれも上昇基調となっている。

※不動産価格指数:年間約30万件の不動産の取引価格情報をもとに、全国・ブロック別・都市圏別・都道府県別に不動産価格の動向を指数化したもの

首都圏の住宅が売れ続ける根本的な理由

昨年7月以降、首都圏の住宅需要は急激な回復をみせ、成約数も大幅に増加した。

その理由についてはさまざまな見方がある。一度目の緊急事態宣言による行動制限の反動、巣ごもりによるネット広告閲覧数の大幅増、消費抑制による金融資産や現物資産への意識の高まり、等々だ。

だが、首都圏の住宅が売れ続ける(需要が続く)根本的な理由は、首都圏への人口流入に歯止めがかからないことにある。

マスコミ報道をみると、「都心から人が逃げ出している」「地方移住者が急増している」ような印象を持つ方もいると思うが、実際には今も首都圏の大都市にはその周辺の都市からの人口流入は止まっていない。

総務省が公表している住民基本台帳人口移動報告(2020年の結果 2021.1.29公表)によると、昨年の東京圏への転入超過数は、前年よりその数が大幅に縮小したものの、コロナの影響下であっても前年比で9万9243人の転入超過となっているのだ。

東京圏以外の都市圏(名古屋圏、大阪圏など)では、短期的な転入超過はマイナスになることもあると思われるが、大都市への人口移動は全国的な長期トレンドだと言えるだろう。

コロナ禍でも都心部で進んだマンション建設(y-studio/iStock)

国立人口問題研究所の推計(2018年)によれば、日本の総人口は減少を続けているが、東京を含む首都圏の人口が減少に転じるのは2030年だとしている。パンデミックを考慮していない推計だとしても、現在の状況を鑑みればその期間が大幅に縮まる事は考えにくい。

人口減少が大都市の人口をさらに増やす?

日本は、急激な人口減少の進行と超高齢化を背景として、各地域(各自治体)ごとに、人口維持・財政面・経済面において持続可能な都市経営をどのように実現するかが大きな課題となっている。

そこで現在、多くの自治体で進められているのが、都市(機能)の集約である。

簡潔に言うなら、人口減少が加速的に進むとき、各都市には空洞化する無駄な区域(無居住エリア、未利用エリア)が生まれるので、中長期的な視点で都市機能や居住エリアを集約(誘導)してコンパクトな都市を作り、持続可能な地域(自治体)を目指すという試みだ。

SeanPavonePhoto/iStock

ただし、これはあくまで「行政目線」での話である。個人目線で考えた場合、各市町村レベルで取り組む都市のコンパクト化を待つよりも、生活利便性や経済面で不利になっていくエリア(市町村)から、魅力ある大都市へ個人単位で移動する方が、問題解決が圧倒的に早く合理的と言える。

これらの背景を考えれば、たとえコロナの影響下にあっても、人口減少によって行政サービスの質の低下や生活利便性が悪化していくエリアが増え続ける限り、今後も大都市にはさらに人口が集中していくだろう。

今後の地価動向は?

公示価格が下落したことで、マスコミはコロナの影響による地価下落の不安を煽る形になった。実際には首都圏の不動産市場で需要は減少せず、取引価格の下落も起こっていないが、コロナ禍による行動制限、消費制限が長引けば活況の首都圏の不動産市場もどうなるかは分からない。

筆者は30年以上に渡り、首都圏の不動産市場の動きを見てきた。過去の景気クラッシュで地価が下落にいたる局面や上昇にいたる局面も見てきたが、パンデミックの長期化がどう市場に影響していくのかは予測困難だ。

ひとつだけ確かなのは、世界の主要都市ではコロナ禍であっても住宅価格が上昇を続けているということだ。そして東京はまぎれもなく世界主要都市のひとつなのである。

 
住宅・不動産ライター/宅地建物取引士

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