衆院選のテーマは年金改革 ⁈「おいしい話」はもうお終いへ

「河野案」と「維新案」から将来展望
歯学博士/医療行政アナリスト
  • 自民党総裁選で河野氏の年金改革案が話題。関心背景に衆院選も争点に?
  • 河野氏が掲げた最低保障年金導入は増税の理由になるか
  • 維新のベーシックインカム案なども検証。年金議論の盛り上がり背景は?

自民党総裁選にて河野太郎氏が取り上げた年金制度改革は大きな話題を呼びました。

時を同じくして9月10日、厚労省は厚生年金を基礎年金に振り替える、実質「年金二階建て部分縮小」の検討を開始。

現状でも49兆円の年金給付に対して、保険料収入は国民年金と厚生年金あわせて33兆円。12兆円程度が消費税等を財源とした国庫(一般会計)から拠出されていますが、一般会計全体としては毎年数兆円程度の赤字を国債として積み上げ続けています。

出馬会見する河野氏(公式YouTubeより)

この赤字体質の年金制度について国民が不安視するのは当然であり、河野氏の出馬会見の通り「若い世代は年金保険料を払っているけど、まともに受け取れるとは思っていない」はあながち誇張した表現ではありません。

国民負担率50%に届こうという今、これ以上の負担増を認められない現役世代を中心に年金制度改革には大きな関心が寄せられており、総裁選の後に控える衆議院議員選挙でも争点になりそうです。

最低保障年金は増税理由になるか

この中で河野太郎氏は出馬会見にて、「基礎年金給付の財源を消費税に変更する」「高所得高齢者への給付は見直す」「二階建て部分は個人運用で」とかなり踏み込んだ具体案を示しました。

基礎年金とは年金加入高齢者全員に給付される月6.5万円部分。二階建て部分とは高額な年金保険料を払った人に対し、支払額に応じて平均+約8万円、最大+約58万円まで増加する報酬比例部分のことを指します。

高齢者の貧困対策としては基礎年金給付の役割のほうが大きく、税などを財源として基礎年金のみは全高齢者に支給しようというのが最低補償年金という考え方です。

消費税10%は税収27兆円に相当しますが、ここには地方交付税・医療費・保育園無償化分が含まれており、最低補償年金財源としては不足。ただし、現行制度でも一般財源から不足分を拠出されているため消費税増税をする理由にはなり得ません

(図)令和元年度年金特別会計(厚生労働省)に基づく概略図(端数不揃いは省略部分)

https://www.mhlw.go.jp/wp/yosan/kaiji/nenkin01.html

消費税財源で最低保障年金 2階部分は個人口座で運用―河野氏:時事ドットコム

いっぽう二階建て部分に関して厚労省はその必要性を「退職後急に所得が減るのは問題があるため」としていますが、いまや70才定年延長を検討している中で無理がある理屈です。むしろ二階建て部分を多く受給するのは現役時代の収入が良い者で、資産形成や貯蓄の機会に恵まれてもいたことにもなります。

もし二階建て部分をやめて最低補償年金のみとするならば、国民負担は33兆円から27兆円ほどに減少。この差6兆円で国民負担を軽減し、確定拠出年金をはじめ教育投資や資産形成として自由に個人運用できるようにすれば、可処分所得が増加したことになります。

このとき既に人生設計の変更が効きづらい50代以上の既得権益はある程度守らなくてはなりませんが、年金積立金186兆円を解体的縮小しながらどのように移行期を設計するかであり、ここでは論じません。

30-40代では既に支払った年金保険料分損となりますが、現状のまま厚労省に任せていれば働き続ける限り重い保険料負担はそのままに、二階建て部分は確実に減らされていくことになります。

「年金をまともに受け取れると思っていない」のならば、既に払った分は諦める「損切り」も一つの選択肢ではないでしょうか。

維新が提起するBI案とは

もう一つ具体的な試算にて公表されたのが日本維新の会ベーシックインカム(BI)案で、基礎年金給付・生活保護者の現金支給部分・子供手当・雇用保険を合流させたものです。上図のように日本の税や公的移転による再配分効果はOECD加盟国では下から5番目。本当に必要なところに公平な再分配をするのは重要な論点です。

その中で高齢者に関する部分は「基礎年金を廃止するかわりに一人6-10万円をBIとして給付」「二階建て部分は維持される(具体案なし)」「過剰支給分は税で回収する」としています。

有権者としてはどれだけ税で回収されるかが気になりますが、日本維新の会は年収500万円までの世帯ではトータルで手取りが増えるとしています。これはかなり「サービス精神旺盛な」設計になっており、既出の様々なBI試算では手取りが増減しない水準をボリュームゾーンである年収300-400万円とするのが一般的です。

社会保障に関する財政規模も膨張し100兆円に。維新は大阪での予算削減の実績から、コストカットつながるとアピールしています。しかし国政維新はまだ単独で政権をとれず、制度を完全な形で実現することは不可能。

国民の信頼を勝ち得るためにまずは維新自身が公約でかかげる「2対1ルール」に基づき、社会保障の一部統合によるコストカットを達成するなどスモールスタートで実績を積み上げる必要があるのではないでしょうか。

Yusuke Ide /iStock

他にも日本で最初にBIの提案をした国民民主党も一律10万円の現金給付をかかげ、年金に関しては独立財政機関を設立するとしています。ただし財源は新規国債などによる積極財政とし、制度自体の変更案などは聞かれません。

業界団体やネットの声はともかく、冷静な有権者はもはや国債頼みや歳出削減なき負担軽減に対し不安に思うことが多いのではないでしょうか。

これまで倦厭されがちだった年金の議論がここまで盛り上がるのは、いよいよ問題の先延ばしができなくなってきただけでなく、もとは政府が提案してきた「おいしい話」に対し国民が損も覚悟で是正を求めるようになってきたためかもしれません。

 
歯学博士/医療行政アナリスト

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