極超音速ミサイルだけじゃない!米中韓を翻弄する北朝鮮の策謀とは?

北朝鮮国内も暗闘、「金与正談話」の意味深
2021年10月01日 06:00
東京通信大学教授/早稲田大学名誉教授
  • 中国が9月29日の北朝鮮「極超音速ミサイル」発射を非難しない理由とは
  • 中国は今年に入り韓国に傾斜。韓国・文大統領の終戦宣言も北を刺激
  • 終戦宣言を巡る金与正談話のウラ。韓国と米中双方を混乱させる戦略とは

中国は9月29日の北朝鮮「極超音速ミサイル」発射を非難しない。その理由は「対中包囲網」打破にある。

問題の始まりは、米軍のアフガン撤退、日米豪印4カ国の「クアッド同盟」首脳会談と米英豪3カ国の「AUKUS」同盟発足による、中国包囲網の強化だ。中国の王毅外相は9月15日にソウルを訪問し、鄭義溶外相、文在寅大統領と会談した。韓国訪問前にベトナム、シンガポール、マレーシアを訪れ、米国の「反中包囲」に協力しないよう求めた。

作・はむぱん/Photo AC

韓国は王毅滞在の日に、SLBM(潜水艦発射ミサイル)の発射実験を行い、中国にSLBM保有を黙認させた(詳しくは前回拙稿)。韓国はすでに「軽空母保有」「原子力潜水艦建設」を明らかにしている。

王毅訪韓の成果はすぐに現れ、韓国の鄭義溶外相は9月23日にニューヨークでの米外交評議会との対話で、「米韓豪日の反中ブロック」について聞かれ「中国は強圧的でない」と述べ、「中国の代理人」と批判された。つまり韓国は中国に従う姿勢を見せていることになる。

中国は韓国に傾斜

北朝鮮は、この中韓関係に不満だ。そのため、ミサイル発射で中国に対し「主体性」を示す姿勢を示した。

まずは9月15日の文在寅・王毅会談の直後に新型の短距離ミサイルを発射。この時の背景は以前にも書いた通りで、中国への不満を表明するものだった。北朝鮮は続けて「極超音速ミサイル」実験も行った。

中国はこれまで、北朝鮮を重視してきたが、今年になって韓国傾斜が目立つ。北朝鮮に対しては、中朝国交70周年の式典を行わず、対朝食糧支援も回復していない。王毅外相の韓国訪問でも、北朝鮮への仁義を無視した。不快な北朝鮮は王毅外相訪韓中の9月15日に合わせミサイルを発射したのである。

しかも文在寅大統領は、王毅外相との会談で、自身の中国訪問と中韓首脳会談、さらに北京冬季五輪への南北統一チームでの参加を話し合った。北朝鮮は無視された格好になる。

二度の「金与正談話」の意図

さらに北朝鮮を刺激したのが、文大統領が23日に行った国連総会演説での「朝鮮戦争終戦宣言」提案だ。北朝鮮の外務次官は24日に、提案は「時期尚早」と否定的な声明を出したが、7時間後に与正氏が「興味深い提案」と前向きの談話を出しなおしている。さらに翌25日には南北首脳会談に言及した。このやりとりから、平壌指導部内の勢力争いと混乱が読み取れる。

金与正氏(韓国大統領府撮影)

なぜ、与正氏は内容の違う声明を連日、発表したのか。まず、与正氏は対南政策の責任者である。それなのに、外務省が自分を無視して声明を出したのは越権行為だ、と批判した。外務省は、国連は自分たちの管轄だと抗弁した。だが外務次官声明の7時間後の「与正談話」は「興味深い提案で良い発想」と、正反対の表現で、与正氏の感情が読み取れる内容だったが、翌25日に、与正氏はこれを修正する談話を再び報道させたのである。いったい何が起きているのか。

与正氏の前日の談話は最初に「文在寅大統領は第76回国連総会で終戦宣言の問題を再び提案した」と書き出していた。北朝鮮は、大韓民国の存在を公式には否定しているため、「文在寅大統領」を最初の言葉にするのは、問題が生じる。そのためか2回目の談話は、「終戦宣言」の言葉と「文在寅大統領」の表現は、全く使われず、在韓米軍の存在と米韓合同軍事演習を強く非難し、その撤退と演習中止を求める内容となった。

「越権行為」叱られた金与正

なぜ「終戦宣言」の言葉まで消えたのか。実は「終戦宣言」は、軍部の権限である。与正氏の言及は権限逸脱だ。与正談話には「指導者の委任を受けた」との表現もなかった。こう軍部が反発し、高官たちも批判したのだ。

こう考えないと、与正談話の「訂正」報道は、理解できない。

それでも2回目の談話で、米韓の対北敵視政策と米韓軍事演習などの非難を繰り返しながらも、南北首脳会談と自らが爆破を命じた南北共同連絡事務所の再建の早期実現への期待を表明した。最後に「どこまでも、個人的な見解だ」と付け加えたのは、明らかに、自分の最初の談話にケチをつけた軍部首脳や党高官たちへの嫌がらせである。なんとも人間的だが、やや「若いな」と思わせる表現だ。

北朝鮮の労働新聞は9月30日、金与正氏が国務委員に選出されたと報じた。労働党での地位は、なお中央委員のままだが、国務委員会は政府の最高政策決定機関で、金与正氏は「ナンバー2」の実力者としての地位を確認させたことになる。

平壌の金日成広場(Goddard_Photography /iStock)

米中韓を混乱に陥れる北朝鮮の戦略

北朝鮮の相次ぐミサイル発射に、韓国政府は「遺憾」と反応しただけで、「国連安保理制裁違反」とは非難しなかった。国連安保理も非難決議を採択できなかった。これは、「南北対話再開」を強調した中国の立場と一致する。

米国は「国連安保理決議違反」を指摘しながらも、「南北対話再開」は求めた一方で「終戦宣言支持」を表明しなかった。米国は「終戦宣言」の権限は、韓国にはないとの立場だから支持できないのだ。

韓国は朝鮮戦争の休戦協定に調印していない。それなのに「終戦宣言」を提案するのは、在韓米軍撤退を求めるためだと米国は受け止める。終戦宣言の次には、平和協定が問題になる。平和協定では、在韓米軍撤退が要求されるから、簡単には「支持」できないのだ。

一方、北朝鮮は、米中の「南北対話再開」要求に応じる姿勢を示すために、「終戦宣言は良い発想」と述べたが、その裏には「在韓米軍撤退」の要求が隠されている。さらに、相次ぐミサイル発射への非難を避けるために、南北首脳会談と南北共同連絡事務所再建設の可能性に言及したのだ。さらに金正恩は29日の最高人民会議演説でアメリカに「敵対政策の変更」を求める形で、米朝交渉の意向があることを強調した。

したたかに計算した、韓国と米中双方を混乱させる戦略、と言えるだろう。

東京通信大学教授/早稲田大学名誉教授

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