データ不正事件:中国に忖度しすぎた世界銀行首脳
増資交渉がアダに...- IMFトップのゲオルギエバ専務理事が世界銀行CEO時代の不祥事で窮地に
- 世銀のビジネス環境報告書のランキングで中国のデータを操作指示か
- 増資交渉中に中国側がランキングに不満表明。金の力に物を言わせた格好
今、IMF(国際通貨基金)のトップのゲオルギエバ専務理事(Dr.Kristalina Georgieva)のクビが危うい。10月11日から始まるIMF・世界銀行年次総会という大イベントを前に各方面からの批判が高まっているため、この記事が掲載される頃には、もういなくなっているかもしれない。

中国データ不正発覚
彼女が窮地に立たされているのは、世界銀行(以下「世銀」)のナンバー2のCEOだった時にドゥーイング・ビジネス報告書(Doing Business Report, 以下「ビジネス環境報告書」)に関して不正を行ったためだ。9月16日、世銀は、ビジネス環境報告書の2018年版と2020年版のデータに不正があり、今後この報告書は廃止する旨の声明を出した。
世銀は、発展途上国の経済発展を助けるために、長期低利の融資をするほか、技術支援や政策助言も行っているが、政策助言の一環として毎年ビジネス環境報告書を作成・公表していた。
この報告書は、加盟各国のビジネス環境を点検して点数化し、点数の高い順に各国をランク付けすることによって、各国がランキング上昇のための政策努力をすることを期待して2003年から作られていたが、2018年版では中国について、2020年版ではサウジアラビアについて、点数が操作されたと言われている。
中国の場合、2018年版では本来はランキングが前年の78位から7位下がって85位になるべきところを前年と同じ78位に引き上げ、サウジアラビアは点数の改善幅で1番のはずだったヨルダンと2番のはずだったサウジアラビアの順位が入れ替わった。
昨年6月にこれらのデータ不正について内部告発があったのを受けて、世銀の倫理・行動オフィスが調査していたが、さらに今年1月から世銀は外部の法律事務所に委託して調査を続けた。それが9月15日になって外部調査の報告書が公表され、不正の実態が赤裸々になった。
中国のデータ不正について外部調査報告書によれば、当時のキム世銀総裁(Dr. Jim Yong Kim)が総裁室のスタッフに不正をするように指示を出したことが推認されるほか、ゲオルギエバCEOは、彼女自身が不正に直接関与したとのことだ。現在のところ、ゲオルギエバIMF専務理事は疑惑を全面的に否定しているが、この外部調査は約8万点の書類のチェック、40名近い関係者への聞き取りに基づく客観的なもので、信ぴょう性は高いと言わざるを得ない。

世銀の増資交渉中の出来事
本来なら世銀全職員の模範となるべき総裁やCEOが、世銀の倫理・行動規範に反して自ら不正に手を染めるのは、何かよほどの事情があったのだろうか。
この疑問を解くカギは2018年秋に承認された世銀の増資にある。2018年版のビジネス環境報告書の中国のデータに不正が行われたころは、ちょうど世銀の増資交渉の真っただ中だったのだ。
世銀首脳にとって今後の世銀の活動を維持・拡大させるために、増資はぜひとも実現させなければならない最重要課題で、各国からの出資を喉から手が出るほど欲していた。しかし、当時最大出資国アメリカのトランプ政権は、最終的には増資に賛成したものの、当初は中国など所得水準が高い国に融資を続ける世銀に冷淡な態度を取っていた。一方出資比率第3位の中国は、世銀での自国の投票権の比率を世界経済における中国経済の大きさに見合って引き上げるように要求しており、そのための増資に応じることには前向きだった。
こうした背景の中で、複数の中国政府高官が当時のキム総裁やゲオルギエバCEOをはじめとする世銀幹部に再三面会し、その度にビジネス環境報告書での中国のランキングが低いことについて不満を表明したため、世銀首脳たちは中国の意向を忖度することとなったのだ。
金に物を言わせるチャイナ流
外部報告書によれば、キム総裁の首席補佐官とゲオルギエバCEOは、ビジネス環境報告書作成部局の幹部と何度もやり取りを行って、中国のランキングが上がる算定方法を見つけるように指示したが、なかなか満足のいく答えが返って来なかった。
業を煮やしたゲオルギエバCEOは自分と同じブルガリア出身でビジネス環境報告書の最初の考案者の一人であるジャンコフ氏(Dr.Simeon Djankov)をビジネス環境報告書作成部局に合流させて、むりやり中国の点数を上げる方法を見つけ出し、なんとか中国のランキングを前年と同じ78位にしたという。
今回の世銀のビジネス環境報告書のデータ不正事件は、世銀のトップとナンバー2他の幹部が関わっていたという点で衝撃的な事件だが、中国が各種国連機関などで、お金の力に物を言わせて自国に都合の良い政策や見解を採用させることは、かねてより各方面から懸念や批判が表明されているところだ。今回の事件は、そうした黒歴史にさらに1ページが書き加えられただけとも言える。
日本としては今後、他の国々と連携して国際機関の中立性をいかに確保していくか、今回の事件を踏まえてよく作戦を練っておくことが必要だ。
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