新党ファーストの会、なぜこんなにグダグダで中身のない会見になったのか

国政進出「大義」なき船出で座礁リスク
報道アナリスト/株式会社ソーシャルラボ代表取締役

小池百合子東京都知事が特別顧問を務める地域政党、都民ファーストの会は3日、東京・紀尾井町のホテルニューオータニで国政政党設立に関する記者会見を開いた。党名は「ファーストの会」で、代表は都民ファと同様に、荒木千陽都議が務める。

筆者も会見場に足を運んだが、ニュースと言えるのは結党の事実と党名だけ。焦点となる小池氏の衆院選出馬について、荒木氏は「要請もしていない」と否定。出席したのは荒木氏と、都民ファ総務会長代理の入江のぶこ、広報本部長を務める龍円愛梨両都議の3人だけ。他に藤井章都議が姿を見せていたものの、登壇せず。そして、合流の可能性が取り沙汰された、上田清司参議院議員の「上田新党」の関係者や国民民主党の現職議員などゲストもいないという「目玉不在」だった。

新党名のフリップを手に写真撮影に応じる荒木氏ら(筆者撮影)

ホテルで「ムダ遣い」会見の謎

さらに政党の要である政策綱領については3日中に公式サイトで発表するとしたものの、その場で明らかにされず、それどころか荒木氏以外の役員人事、ニュースとして不可欠な衆院候補予定者の発表なども持ち越しとなり、報道陣の機嫌を損ねたり、呆れさせたりなど、グダグダな結党会見になってしまった。

けさの記事でも述べたように、国政政党でない都民ファーストの会は政党交付金もないため、台所事情は苦しいはず。会見でも荒木氏が公式サイトから寄付のお願いをすることも述べていたが、会見場が無料で使える都庁の記者クラブではなく、都心の一流ホテルの宴会場をわざわざ選んだことがはたから見ていてもムダ遣いにしか見えない。

会見場となったedo ROOM(筆者撮影)

ホテルの公式サイトに出ているルームプランによれば、会見場となった地下1Fの「edo ROOM(エド ルーム)」は今日の記者会見のようにスクール方式の机の並びなら150名が使用できる中宴会場。コロナ禍で流行りのオンラインも交えたハイブリッド型ミーティングプランを平日昼に実施し、edo ROOMでは映像配信を自前でやった場合で75万円だそうだ。この日、都民ファ側が中継を自前でやっていたようには見えず、コロナで利用客が減少傾向のご時世だからもう少しリーズナブルかもしれないが、会見場で名刺を受け取る受付担当をホテル従業員に任せるあたり、人件費が上乗せされているはずで、少なくとも50万円以上はかかっているのではないだろうか。

記者たちの挙手が多く、残念ながら時間内で司会の龍円氏に指名されなかったので聞いてみたかったのだが、週明けまで待って都庁内ではなく、この日にホテルの会場をなぜ使わなければならなかったのが謎が深まるばかり。他の記者たちとも話したが、本来は、この日発言のなかった入江氏の席には、上田氏らのベテラン国会議員が座る可能性を想定していて、それが流れてしまったのかと思えなかった。

そして、このあたり、もう少し精度の高い仮説で浮上したのが、とにかく露出ありきでコトを進めたシナリオだ。会見後、都民ファの内情を知る政界関係者に確認すると、週明けの4日は岸田新政権の発足と組閣で政治ニュースが埋まってしまう。さすがに組閣にぶつけるわけもいかず、さりとて組織のない新党としてキックオフのメディア露出は不可欠。まずは何としても報道されることありきで、細かい中身は後から何とでもなるというわけだ。この辺りの学生スタートアップの起業を彷彿とさせるドタバタぶりは、ネット選挙のある専門家が、ファーストの会の公式サイトのドメイン取得が2日前の10月1日だったことを特定してツイートしていたことからもうかがえる。

ファーストの会に大義なし

筆者も選挙の陣営内の業務を経験したことがあるので、組織のない無所属や新興政党だとありがちな話だ。だから決してドタバタすることが悪いことではないのは指摘しておきたい。だが、政党として最も大事な政策理念、成し遂げたい政策目標は何なのか。これも質問されていれば、聞いてみたかったが、都市型地域政党の国政進出の先例である維新は、大阪都構想の実現が一丁目一番地にあり、国政からも推進するという大義名分があった。

ファーストの会のこの日記者会見で荒木氏は、「保守本流路線から大きく離れる政党や選挙目当てに左旋回を強める野党、この国の分断すら懸念される中で、強い危機感を持って立ち上がらせていただいた」「左右に偏らない国の真ん中を行く」などと、保守中道志向の「ポジショニング論」こそ述べた。肝心の政策は「毎年7600億円もの都民の税金が国に吸い上げられている」と、いわゆる地方との“偏在是正措置を問題視し、都民益を追求するような素振りを見せたものの、どこか説得力がない。

ぶち上げた偏在是正措置の問題は決して悪い発想どころか素晴らしい着眼点だ。これを政策的に掲げられるのは都民ファーストの会を起源とする国政政党(今は政治団体)だけだ。しかし、(日本の中で比較的)豊かに暮らしている一般都民からすると「地方に税金を持っていかれている」という実感を持っている人は少なく、大阪都構想のように一般庶民の津々浦々まで認識されている課題ではない。別に維新を持ち上げるつもりでいうわけではないが、維新は大阪の政治・行政を改革したいという哲学があり、その象徴が都構想実現であり、そこに至るまでの住民投票をはじめとする政局ストーリーが良くも悪くも熱電導していったという「課題オリジン」の経緯がある。

小池氏の真意はいかに?(東京都サイト「知事の部屋」より)

若手都議の「青年将校化」説も

これに対し、「小池新党」には何かが欠けている。小池氏が今回は表に出てきていないとはいえ、「都民ファースト」という言葉が虚しく響いて感じられるのは、詰まるところ、この国政進出も小池氏が当面は都政に専念するにせよ、遠くない将来、国政に復帰して初の女性首相の座を落とすという「政局オリジン」になっているからではないか。これは筆者がアンチ小池だから決していうのではなく、都議選で奇跡的な逆転での第2党確保をしたばかりでの唐突な国政進出に違和感を覚える都民は私だけではないだろうと思うからだ。

この記者会見の状態なら、「記者会見でどういう方針なのかまず見定めたい」と述べていた国民民主党の玉木代表も尻込みしてしまうのではないか。新党構想に突き進む上田氏もこの荒削りぶりには困惑したはずだ。お金があるだけの鳩山家の心情は庶民の筆者に想像もし得ないが、いずれにせよ、政局でも政策でも空洞を感じた報道関係者、いや都民も多かったのではないだろうか。衆院選に向けて候補者を公募しても集まるのか疑問符がつく。

ここまでグダグダだと小池氏が主導しての新党計画なのかすらも疑わしく思える。小池氏側近の都議で、ツイッターでも多数のフォロワーを持つ若手が小池氏の衆院選出馬を止めたとの情報が記者たちの間で駆け巡ってるようだが、「主戦論」は他にも都民ファ内で主導しているのがこの夏の都議選で2選した若手が多く、民主党出身のベテラン中堅との温度差が著しいとも漏れ聞こえてくる。それが事実であれば、「青年将校化」した都議たちの暴走を小池氏が抑えきれていないという意外な構図の可能性もあるが、この新党は、船出早々に座礁のリスクも感じさせる危うさしか感じられなかった。

 
報道アナリスト/株式会社ソーシャルラボ代表取締役

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