「ITの民主化」は日本の中小企業のチャンス!マイクロソフト三上執行役員に聞く

「DX化に不可欠なマインドセット」(前篇)
2021年10月08日 06:00

コロナ禍を契機に,多くの企業がリモート勤務を経験した。ウェブ会議も日常の光景となり、ついに日本もデジタルシフトに向かっているように思える。ところがその動きは、世界の動きと比べるとかなり遅れているという。

世界では「ITの民主化」が起こっている--。高性能な最新の技術は低価格で手に入る時代となった。その恩恵を享受するには、それには新たなことを学び、取り入れる進取の気性が必要だ日本の中小企業には、こうした”学び取る”動きはまだ少ない。日本における「生産性」改善や、「成長」のヒントはどうすれば見つけることができるのだろうか。

日本の中堅・中小企業のデジタルシフトを支援している日本マイクロソフトの執行役員の三上智子氏に、日本企業が克服すべき課題と、成功に向かうマインドセットについて聞いた。

lemono /iStock

いま弊社では、全国の中小企業のお客様のDX(デジタルトランスフォーメーション)をご支援していますが、現状はまだまだ入り口に立ったばかりのところで、DXの前の段階にあるお客様が多い状況です。とはいえ、コロナ禍以降、クラウドという概念を多くのお客様にご理解いただけるようになったのは大きな進展だと思います。

以前は、地方に講演に行くと「クラウドってなんですか?」という反応でした。それがコロナになってから、クラウドの説明をする必要が無くなりました。コロナ禍で在宅勤務を体験された方が多く、今では誰もがリモートやウェブ会議の意味をぱっと理解されています。

やってみれば出来たリモート化

三上 智子(みかみ・ともこ)日本マイクロソフト執行役員。2001 年Indiana University – Kelly School of Business (MBA) 修了。デル株式会社を経て2005年日本マイクロソフト株式会社入社。経営企画、米国本社 Strategic Finance Planning、グローバルOEMパートナーマネジメント部門を経験。2014年 windows及びSurface製品マーケティング部門統括責任者。 2016 年 業務執行役員。2020 年 執行役員 コーポレートクラウド営業統括本部長、同年5 月執行役員 コーポレートソリューション事業本部長。

日本企業のお客様には「新しいことをする際に石橋を渡りたがる」方が多いと感じています。以前は「他はやっていないから」とか、「やらなくても日々の業務が回るから大丈夫」とかいろんな“やらない言い訳”を聞くことが多かったのですが、コロナ禍になって、外に出で行けなくなったらもうやるしか無いわけです。

以前は、リモートワークも「ルールが…」「就業規則があるから駄目」などとおっしゃっていたお客様もやらざるを得なくなった。ビジネスを継続するためには、何らかの形で人と繋がらなければならない。となると、やるしか無いですよね。やらざるを得ない状況になると、動き始めるのです。そして今では5割、調査によっては9割もの中小企業がリモートワークを続けられているといいます。やってみれば出来るということです。

日本と比べると、海外の企業は新しいことをするハードルが低く、何でもまずはやってみようというお客様が多いです。海外企業では、最初から100%出来なくても良いと考えます。Plan Do Seeをして模索しながらやっていくのが基本なのです。5年後の未来に何が流行っているかなんてわからない。だからこそ今いろいろやってみて、商売の種を見つけて、それを検証して良いものを見つけ出そうとする。

こうした考えが日本企業には足りないと感じます。オーストラリアの企業では、最新の技術を使うことが根付いているので、当たり前になっています。ところが日本では、レガシーなものが根付いているので、気づいた時には他国に追い越されているということもあります。

ITを外注する日本企業、社内に分かる人がいない

こうした海外企業と日本企業との違いは産業構造に問題があるのではないかと思っています。その違いとして大きいのは、日本の大企業はITを外注していることです。そして中小企業ではクラウドの活用が遅れている。大企業はITを全てアウトソースして、外部のITサービスに頼り切っていて、その技術が古いままでも気が付かないというケースを目にします。

さらに日本の特徴として、社内にITスキルのある人材が少ないことも挙げられます。海外企業には、自社にITスキルがある人が多いです。なぜなら、分かる人がいなければ指示も出来ませんし、分からないとITベンダーから提示される金額と内容の妥当性も判断できないからです。

「ITの民主化」で中小企業にチャンス

でも世界ではいま、“ITの民主化”が起きています。クラウドによって、ハイパースケールのコンピューティングパワーを中小企業でも安価に使える。これはまさに「革命」です。ITベンダーが多大なコストを掛けて作っていたものが、今ではクラウドで中小企業が月数百円から安価に使えるのです。これは中小企業にとって大きなチャンスといえます。

最新のIT環境を安価に導入するには、やはり自分で勉強して理解するしかありません。そして社内にはIT人材が必要になります。デジタルスキルの内製化です。日本企業にとってこれからデジタルのスキリングは、大きな課題になるでしょう。少なくとも社内に分かる人がいないといけません。それは大企業も中小企業も同じです。

もちろん日本企業でもこれに気づいて、すでに内製化を始めているところもあります。ツールを使いこなすためには、使い方が分かる人がいないと成り立たないからです。外注するにしても、内部にスキルがある人がいないとうまくいきません。生まれた時からデジタルに囲まれていた若い世代の皆さんにとって、ツールを使いこなすのは抵抗無いでしょう。技術の革新が進み、ローコード、ノーコードでプログラミングを知らなくてもアプリケーションを作れる時代になっています。「ITの民主化」でITは身近な存在になってきているのです。

一方で、クラウドやツールが普及したからといってすぐに企業が変わるわけではありません。技術が変わっただけでは何も変わりません。技術を使って会社のカルチャーをも変革する必要があります。

lukbar/istock

やるかやらないかで、今後は二極化

正直なところ今後中小企業は二極化していくと思っています。波に乗るか、乗らないか。「使い方がわからない」などと、躊躇しているところは成長機会が限られてしまうでしょう。新しいことを取り入れていこうとする会社の成功の確率は確実に上がります。

弊社としても、どんどんクラウドを使っていく日本のお客様を増やすために、導入を支援する人を増やしていきたいと思っています。東京と地方の格差も大きく、地方ではクラウドの使い方を理解されている方が少ないという調査結果もありますので、パートナー企業と連携しながら理解を高めていきたいと思っています。

でも結局、企業がそこで変われるか、変わらないかは、厳しい言い方になりますが、自分次第です。中小企業は、大企業よりも、古いレガシーや壊せない強固な仕組みが少ない場合が多く、迅速に判断しアクションできるという強みがあります。

今の時代、いろんな業務をデジタル化するSaaSアプリは沢山あります。それを使ってみようとするか、使わないか、この最初の一歩を踏み出せるかどうかで、今後の展望が大きく変わってきます。是非中小企業の経営者の方には思い切ってチャレンジしていただきたいです。大阪の中小企業の製造業では、今コロナで大変な中で『現場で働いている人がいるから、デジタル化なんて出来ない」という企業もあります。そうした考え方にすがるか、変革に取り組むかは経営判断にかかっています。

立ち止まるか、変革に取り組むか

変革を起こすにあたって、新しい企業か古い企業であるかは、あまり関係がありません。同じ業種であっても経営者の意識というのは、人によって大きく違います。例えば、『武蔵精密工業株式会社』様は、海外の工場の生産ラインを立ち上げる際にコロナ禍で海外に行けないからといって、弊社のHololens2というデバイスを利用して、本社からリモートで現地を支援して立ち上げました。この企業はスタートアップではなく、1938年創業の歴史ある会社です。

また、当社では昨年10月に『株式会社山口フィナンシャル・グループ』(YMFG) との連携を拡大し、FMFGの営業エリアをはじめとする地域のお客様のDX推進をご支援しています。いま広島周辺の企業ではクラウド化の関心と需要が高いのですが、その理由として、広島で水害がおこったことが関係しているそうです。「水害が再び起これば、紙ベースで保存しておくと無くなってしまう」という危機感が生まれたと聞きました。災害があったとしても全部デジタル化しておけば消えないことから、クラウド化の需要が高まったそうです。

SaaSアプリを中小企業が導入することは、決して大変なことではありません。最新技術でもユーザーが必要とするスキルはLINEを使う難易度と、さして変わりません。普段、日々の生活でみなさんが使っているようなアプリを仕事でも使うだけなのです。最初の設定はちょっと勉強した人が社内に1人、2人いれば済みます。どんな会社であっても言い訳して何もやらないことより、今日スタートする、そのマインドセットが大切だと思います。

(次回はビジネスパーソン個人がこのDXの潮流にどう向き合うべきか、話を伺います。続きはこちら

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