岸田首相で話題の「弱者への現金給付」は、経済学的に「あり」か?

格差是正、景気回復に見込みはあるが...
経済評論家
  • 岸田新政権で話題の「弱者への現金給付」。一般論として経済学視点で見ると…
  • 格差是正、景気回復に見込み。子育て世帯対象の場合は消費性向が高く景気対策に
  • そもそも景気対策は必要なのか?財源はどうするか?富裕層への課税は?

岸田総理が弱者への現金給付を検討しているようである。筆者は岸田総理案の詳細を知らないが、一般論として弱者への現金給付について考えると、発想としては悪くないが、細部の検討課題は少なくない。

官邸サイトより

はじめに、本稿では日本国民の2割程度を経済的弱者、数%を経済的強者、それ以外を「庶民」と呼ぶことにしたい。その上で、現在の日本では弱者が支援を必要としているとの認識に立ち、細部について検討してみたい。

弱者に現金を配ることは、間違いなく支援であり、弱者にとって有益であるが、景気にとっても良い効果が見込まれる。それは、恵まれていない人ほど収入があれば使うので、弱者への資金配布は需要増に直結するからである。

したがって、大筋では望ましいのだろうが、実際の政策を考える際には弱者の定義が難しい。女性、学生、非正規労働者は弱者である割合が多いかも知れないが、彼らを弱者と定義するのは乱暴すぎる。女性にも強者はいるし、強者の子女、強者の配偶者もいるからである。

子供に配ると少子化対策になるか

子供に一律に配るという考え方もあろう。弱者の子に限定するなら上記と同様だが、庶民の子にも配るとなると、話は大きく異なり、子供は国の宝だから子育てを支援しよう、ということになるだろう。

これは、貧富の格差の是正にはつながらないが、景気対策にはなろう。庶民であっても子育て世帯は普通の庶民より消費性向が高いであろうから、受け取った金が消費に回る率は高そうだからである。

子供に配る政策は、少子化対策としても有効かも知れない。もっともそれは、時限立法では効果が薄く、「あなたが子供を産めば、子供が大きくなるまでメリットが続きます」という政策である必要があろう。そこの目的意識と政策の時限制をどう考えるのか、議論が必要だろう。

Gomaabura/Photo AC

そもそも、景気対策は必要なのか

景気が冴えないのが新型コロナによる自粛によるものなのであれば、このまま新型コロナが収束して自粛ムードが弱まることで景気は回復すると期待される。

株高で潤っている強者はもちろん、庶民も「10万円はもらったし、飲み会にも出ていないので、懐は暖かい」わけで、旅行や飲み会が激増するかも知れない。そうであれば、景気対策は不要だ、という考え方もあろう。

もっとも、新型コロナは簡単には収束せず、今後も波状攻撃があるだろうから、景気対策は必要だ、ということであれば、資金配布は新型コロナの被害者、すなわち観光業者や飲食店等々に優先的に配布されるべきであろう。非正規労働者全般に薄く配るよりも、飲食店での仕事が激減した人に集中的に配る、といった工夫である。

財源はどうする?

景気対策であれば、財源のことは景気が回復してから考えれば良いであろう。不況期に増減税同額の政策を打っても景気対策にはならないからである。しかし、政策目的を貧富の格差の縮小や消費者対策と考えるのであれば、財源のことも考える必要があろう。

サキシルの愛読者は小さな政府志向で増税に反対する人が多いと聞くので、本サイトで筆者は少数意見かもしれないが、不労所得である遺産に課税する相続税と、東京一極集中を是正するための固定資産税の増税が望ましいと考えている。さらに岸田政権では、金融所得課税を検討しているといった話も聞こえてくる。

いずれにしても、強者への増税であれば、貧富の格差の是正には貢献しよう。もっとも、「貧富の格差が小さすぎると人々が働かなくなる」ことを考えながら、貧富の格差のあるべき姿について国民的な議論が必要であろうが。

財源を論じる際に「子ども手当は富裕層を除くことで支給額を減らす」といった議論をどう考えるか、も考えておきたい。結論から言えば、あまり有効とは思われない。富裕層は人数が少ないので支給総額がそれほど減らない上に、富裕層を除くための事務作業が膨大で支給のタイミングが遅れたりしかねないからである。

富裕層の問題は、累進課税の税率の傾きをどうするか、相続税、金融資産課税等をどうするか、ということで議論すれば良かろう。制度はできるだけ簡潔であることが望ましいからである。

「弱者」「強者」の定義も難しい

経済的強者というと、日本では高額所得者をイメージする人が多いようだが、実際には「所得は小さくても巨額の金融資産を持っている高齢者」なども大勢いるわけだ。そして、彼らは弱者として住民税を免除されたりしているわけだ。それは国民感情からしても妥当とは思われない。資産と所得を総合的に勘案して弱者と強者を定義する必要があろう。

その際に重要なことは、各自の持つ資産を当局がしっかり把握することであり、そのためには金融資産や不動産などをしっかりマイナンバーで紐付けすることが不可欠であろう。マイナンバーの利用拡大には否定的な意見も多いようだが、行政の効率化という観点からも国民的な議論は避けて通れないはずだ。

 

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