三木谷氏が嘆く岸田政権「反改革」、最強の牽制策は「黒船」の活用
立民でも小池新党でもない「真の野党」はアメリカ?岸田政権が本格始動してからというもの、その経済政策について、新興企業の経営者や投資筋など、構造改革を志向する人たちからの評判は散々だ。株式市場の続落は「岸田ショック」と命名され、金融所得増税が特に槍玉に挙げられている(※追記あり)。新経済連盟の三木谷浩史代表理事(楽天会長兼社長)にはツイッターで「今までの新政権の発表は、新資本主義ではなく、新社会主義にしか聞こえない」と酷評される始末だ。

所信表明演説から消える「改革」の二文字
三木谷氏以外にも、著名投資家の藤野英人氏がフェイスブックで「投資家筋ではかなりゲンナリしていて、中国と日本がそれぞれグローバル投資家からお金が引き上げられることになりそうな展開」と投稿すれば、企業再生コンサルタントの冨山和彦氏もFB投稿で「減り行く所得を再分配しながら等しくゆったりと老衰国家になる、それが新しい資本主義と言うなら分かります。でも『所得倍増』とか言ってるんですよね、わからん」と、首を傾げる。
自民党総裁選の最中から「新自由主義からの転換」を掲げた岸田氏だが、日経新聞の分析によれば、所信表明演説で「改革」という言葉がゼロで、「創る」「拓(ひら)く」などへの言い換えに終始した。原英史氏が歴代首相の所信表明演説を分析したところ、規制改革や構造改革、行財政改革などの言葉が同演説から消えたのは1970年代以来という。
岸田氏は「反改革」「経済保守反動」政権なのか?皮肉なようだが、岸田氏が2007年、第1次安倍政権の内閣改造で初入閣した時のポストは、規制改革を含む内閣府特命担当相だった。しかし岸田氏が規制改革に熱心な印象を持つ国民はいないだろう。
一方で、今回の組閣メンバーをよく見ると、宏池会(岸田派)の若手エース、小林史明氏をデジタル、規制改革、行政改革の担当副大臣に据えてはいる。小林氏は、河野太郎氏が自民党の行政改革推進本部長だったときに本部長補佐を務め、漁業改革で養殖漁業への参入ルールの見直し、電波改革では公共用周波数の民間開放に道筋をつけるなど、自民党内で数少ない“行革族”とも言える改革派であることには違いない。
自律的改革が絶望的な日本
岸田政権が既得権側の論理に押され、改革が後退する可能性が危惧される中で、小林氏の存在は「一筋の光」と言えそうだが、しかし、この国で許認可の数が小泉政権時代以後の十数年で1.5倍に増加(※図表1)。トランプ政権時代のアメリカの「2対1ルール」(新しい規制を1つ作る代わりに既存の規制を2つ廃止する)があるわけでもない中で、小林氏ら希少な改革派が本気だったとしても、構造的に無理ゲーに終わる可能性がある。

株式市場の反応や衆院選を強く意識してか、所信表明演説には金融所得増税は盛り込まれなかった。演説の直前には、かつてアベノミクスを支持していたリフレ派のジャーナリストが、岸田氏の成長と分配の二兎を追う経済政策について「安倍政権のパクリと思えるほど」と、ネットメディアへの寄稿で擁護していたが、第3の矢(成長戦略)が折れたアベノミクスの亜流であることを事実上認めたようなもので、三木谷氏や投資家らの批判や疑念に応えるどころか「開き直り」の言説には失笑するしかない。
OECD35か国で唯一未実施の電波オークション(電波改革の本丸)にしろ、あるいはG7で唯一未解禁の解雇規制緩和(労働市場改革の本丸)にしろ、結局、諸外国より周回遅れになり、規制・構造改革が停滞することで新陳代謝が進まず、30年も低成長にあえぐ要因の一つになったのは、世界的に見ても我が国の政治・行政が自律的な改革が絶望的にできないからだ。このあたりは日本人の歴史的宿痾だ。黒船が来るまで倒れなかった幕藩体制しかり。平成以後の日本も、怖いお父さんにお尻を相当強く叩かれないと変われない“駄々っ子”となった姿だった。
「日本改造」外圧の歴史
それならば非常に不本意なことではあるが、ガイアツを求めるしかあるまい。現代の黒船もまたアメリカだ。実は90年代以後のさまざまな規制改革の底流にはアメリカからの要求があった。政治の玄人にはおなじみだが、クリントン政権時代の1993年からブッシュ政権の2008年まで毎年、日米政府は年次改革要望書を出し合い、それぞれ規制の改革の要望を出し合っていた。日本からの対米要求は形だけで、実際は対日要求ばかりが実現してきたと言われる。主なものでは郵政民営化、労働者派遣法改正、司法制度改革(法科大学院の導入など)、大店法(大規模小売店舗法)の廃止と大店立地法(大規模小売店舗立地法)導入による大型商業施設の立地規制緩和などが知られている。

ただし、これらは「失敗」例として語られることも多い。特に左派も右派も端っこにいくほど反米気質と結びつき、「日本が改造される」などの攘夷論や「マスコミではタブー」などの陰謀論としてネットではウケやすい。もちろん、規制改革には光もあれば影もあり、かんぽ生命の不祥事や派遣社員の増加による雇用の不安定化などが深刻な社会問題になってきたのも事実だ。アメリカの要求に唯々諾々と従うだけでは思考停止だし、ある意味、売国の誹りを言われても仕方がない。
しかし、道路公団の民営化がなければファミリー企業との癒着によるコスト高が放置されていただろう。派遣社員の身分固定化も、正社員の既得権を温存して「真の」流動化をさせなかったことも原因だった。結局は自民党政治が既得権との抱きつきでシステムを硬直化させた時、風穴を開ける起爆剤的な存在が日本国内の政界やマスコミ界にいない。筋論からすれば、国内の自浄作用で野党やマスコミが建設的に改革案の論陣を張って与党を揺さぶるべきだ。
ところが、労組に支えられた野党はむしろ労働市場改革の抵抗勢力であり、マスコミも既得権の顔色ばかりを見て、新興勢力の足を引っ張り、育てる意識がないから、偏った世論形成につながる。つまり、改革推進という点では野党が不在に等しい。たまに第三極がにわかブームを起こすが、みんなの党は消え、維新は大阪では無類の強さを誇るが、首都圏では弱小だ。
次期アメリカ大使に注目
結局、情けないことだが、日本国内の「開国派」は外圧をしたたかに使って「攘夷派」が裏支配する岸田政権の反改革を牽制・対抗するしかないのではないか。その点、圧力のインパクトに期待できるのが、次期駐日大使に内定しているラーム・エマニュエル氏だ。

前任のキャロライン・ケネディ氏と違い、名誉職的な存在では全くない。投資銀行出身で、ビル・クリントン氏が大統領選に出馬した際の選対の財務責任者として巨額の選挙資金調達で頭角を表した。その後、クリントン政権で上級補佐官。投資銀行に一時務めたのち、下院議員、オバマ政権の首席補佐官、シカゴ市長などを勤め上げるなど、バリバリの政治家兼投資家だ。気性の激しさから「ランボー」の異名もある。
エマニュエル新大使自身も構造改革を迫るだろうが、その影響力を逆手にとりつつ、国益を守りながら必要な改革を浸透させるような「大攘夷」の発想・行動ができるキーパーソンが政界や経済界で出現することに、淡い期待を寄せたい。
■
【※追記:13時】 岸田首相は10日朝、フジテレビの「日曜報道 THE PRIME」に生出演し、「当面は金融所得課税に触ることは考えていない」と述べ、見送りの方針を明言した。
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