中国スパイのボートが有事に東京湾封鎖?地方こそ潜む経済安保リスク
スパイに「無防備」横浜のマリーナ- 「地方こそ経済安保リスクがある」と筆者。横浜市議会の質問で注目される問題
- 横浜港内にアジア最大級のマリーナ。身元不確かな中国人の入会リスク
- 東京湾内には軍事的に重要な施設が集結。中国は世界で港湾を狙う
横浜市が誘致した外国企業の研究所が技術流出の拠点となっているとの指摘もあるが、大丈夫か――。
10月6日、横浜市議会で草間剛議員(自民党)が企業誘致と経済安全保障について質問をした。地方議会で経済安保がテーマになることは珍しいが、実は地方にこそ経済安保に関してのリスクがある。

地方の人と技術が狙われる
中国の大手通信機器メーカーのファーウェイや韓国の現代自動車は横浜市に研究開発拠点を置いている。現代の場合は研究開発拠点とは名ばかりで情報収集拠点の色彩が濃い。
一時、日本の大手企業の人事部担当者の間で「3000万円ショック」という言葉がはやった。ファーウェイが日本人エンジニアを引き抜き、30代半ばの人材に年収3000万円を提案していたからだ。筆者の知り合いの大手自動車メーカーの30代の技術者も、当時の年収の4倍近い年俸3000万円でファーウェイから誘いを受けたが、断った。
これは横浜市以外での話だが、自動車産業が集積する愛知県三河地方には定年したり、リストラされたりした技術者を採用する中国系企業がある。サムスンが交通の便が良いとは言えない大阪府箕面市に拠点を設けたのは、パナソニックの人材を狙っていたからだ。地方には優れた技術を持つ中小企業も多い。こうした企業が中国のスパイに狙われるのだ。
外国人のマリーナ入会に無防備
また、草間議員は、横浜市が51%、残りを民間企業14社が出資する同市の外郭企業「横浜ベイサイドマリーナ」についても、「入会の際に反社会勢力か否かのチェックはあるが、外国人に対するチェックはないが大丈夫か」などと質問した。

同マリーナは、横浜港内にアジア最大級の約1500艇のプレジャーボートが係留できる施設を持っている。マリーナへの入会を申し込む際に日本人の場合は反社会勢力か否かはチェックされるが、外国人に対しては事業拡大のために無防備に入会を認めてきた。しかも入会時に船舶内の設備のチェックもない。
横浜港を中心に東京湾内には軍事的に重要な施設が多くある。たとえば、横須賀には原子力空母を備える米海軍第7艦隊が駐留しているほか、瑞穂ふ頭(横浜市神奈川区)には米軍が使う物資や軍事郵便を陸揚げする「横浜ノースドック」がある。日本の海上自衛隊自衛艦隊司令部も横須賀に基地を構える。
岸信夫防衛相は10月5日、米軍の最新鋭ステルス戦闘機F35Bが、日本のヘリ搭載型の大型護衛艦「いずも」での発着試験に成功したことを明らかにしたが、横浜港には「いずも」を建造したジャパンマリンユナイテッド磯子工場があるほか、三菱重工業横浜製作所・本牧工場もある。同工場は、米軍艦艇の修理整備を引き受けている。
ノーチェックでマリーナに入会した中国人スパイが保有するプレジャーボートで東京湾を航行して見回れば、米軍の施設や日本の防衛関連施設の動向が一目瞭然だ。会員には身元不確かな中国人が増えているのではないかと見る向きもある。
3.11で大混乱した東京湾
防衛情報が筒抜けになるリスクだけはない。東京湾の入り口の浦賀水道航路と中ノ瀬航路付近は幅が約700メートルしかない。この狭隘な海域に、中国人スパイが大型プレジャーボートを何艇か意図的に停泊させるだけで東京湾を封鎖してしまうことができる。
東京湾入り口は狭隘なうえに世界有数の混雑する海域だ。過去の事故がその危険さを物語っている。1963年には護衛艦「でるづき」と貨物船が衝突し、自衛官5人が死亡したほか、88年には横須賀沖で潜水艦「なだしお」と釣り船が衝突して釣り客ら30人が死亡した。艦艇に限らず、コンテナ船、タンカー・液化ガス船、セメント砂利運搬船などの様々な民間の船種が航行しているため、東京湾が封鎖されれば経済活動にも大きな影響を与える。

東京湾の混雑の問題を受けて国土交通省は、海上交通安全法を改正して船舶に対して移動命令が出せるようにした。2011年の東日本大震災の際に東京湾にも津波が到達し、湾内の各港から船舶が避難したため、湾内が大混乱に陥った教訓を受けての対応だ。
しかし、移動命令は災害時のみを想定しており、有事は想定外。もし、台湾有事が発生すれば、第7艦隊は出撃する。それに関連する尖閣諸島防衛でも日本の自衛艦隊は出撃するだろう。有事直前に中国人が保有するプレジャーボートで東京湾入り口を封鎖すれば、その出撃を簡単に遅らせることができる。
中国は港湾を狙っている
横浜市に限らず大きな港湾を管理する自治体は経済安保に敏感になるべきだ。中国は港湾を狙っているのだ。スリランカのハンバントタ港は経済支援の見返りに中国に奪われ、オーストラリアのダーウィン港も管理する地方政府の隙をついて奪われてしまった。
横浜市の財政が悪化し、万が一、横浜ベイサイドマリーナの株式が中国系企業に売却されるような事態が起これば、横浜港の一部を中国資本に持たれることになるのだ。地方自治体はこうしたリスクを想定しておく時代に突入したからこそ、草間氏が横浜市議会で質問したのだ。
国内には横浜港以外にも重要な港がある。たとえば神戸市が管理する神戸港だ。ここには三菱重工業と川崎重工業の潜水艦工場がある。日本で唯一の拠点だ。海洋進出を目論む中国軍は、能力が高い海上自衛隊の潜水艦のノウハウを丸裸にしたいはずだ。神戸港関連施設は中国人スパイに狙われるリスクが大きいと見るべきだろう。
海に関わる行政を見ていくと、港湾管理は地方自治体、海上保安庁は国土交通省、海上自衛隊や米軍関連は防衛省といった具合に多省庁にまたがる。経済安全保障は縦割り行政の弊害を排除して取り組まなければ効果的な対応ができない。
しかし、経済安保に関する地方自治体の危機感に乏しいうえ、霞が関の省庁間の連携は得意ではない。そこに中国が付け込む隙がある。岸田文雄首相は新内閣で経済安全保障担当の大臣ポストを新設した。担当相には視野の広い対応が求められる。
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