高市早苗氏、矢野財務次官の「反乱」に激怒も、霞が関の深奥なうごめき
現職官僚「彼は首なんか飛ばされません」の見立ても財務省の矢野康治事務次官が先週発売の「文藝春秋」11月号に「このままでは国家財政は破綻する」と題した論考を寄稿したことが永田町・霞が関の波紋を呼んでいる。
矢野氏は現在のコロナ対策のもとで与野党問わず、バラマキ財政政策論が横行する日本の現状を「氷山に衝突寸前のタイタニック」に比喩。「心あるモノ言う犬」と覚悟を示した上で、
私は一介の役人に過ぎません。しかし、財政をあずかり国庫の管理を任された立場にいます。このバラマキ・リスクがどんどん高まっている状況を前にして、「これは本当に危険だ」と憂いを禁じ得ません。すでに国の長期債務は973兆円、地方の債務を併せると1166兆円に上ります。GDPの2.2倍であり、先進国でずば抜けて大きな借金を抱えている。それなのに、さらに財政赤字を膨らませる話ばかりが飛び交っているのです。
諸々のバラマキ政策がいかに問題をはらんでいるか、そのことをいちばんわかっている立場なのに、財務省の人間がもんもんとするばかりでじっと黙っていてはいけない。私はそれは不作為の罪だと思います。
などの苦言を呈した。
これについて自民党総裁選で、インフレ率2%までプライマリーバランスを凍結するという大胆な積極財政策を唱えた高市早苗・政調会長が猛反発。10日朝のNHK総合「日曜討論」に出演した際、司会者から矢野論文が「バラマキ合戦」と指摘していることを尋ねると、「大変失礼な言い方だと思いましたね」と露骨に不快感を示した。さらに「基礎的な財政収支に拘って、本当に困っている方を助けない。未来を担う子供達に投資しない。これほどバカげた話は無いと思っている」との認識を示し、「第一、名目成長率が名目金利を上回れば財政は改善していくし、そういう姿を目指している。自国通貨建ての国債ですからデフォルトも起こらない」などと反論した。
発行元の文藝春秋も「公益性の高い」勝負作と踏んだのか、ウェブ版で本来有料会員限定のはずのところをYahoo!ニュース配信版では特別に無料公開。矢野氏自身も財務相退任前の麻生太郎・自民党副総裁に許可を得たことも明らかにしており、矢野氏1人の暴走ではなく、周到な準備を重ねてきたことが窺える。
「次官が総選挙前に文藝春秋で実質的な与党批判を展開するお向かいさん、すごいな。。」
ツイッターでそう目を丸くしたのは、財務省庁舎と道路を挟んで反対側に立つ経産省の門寛子・通商戦略室長だ。門氏は硬軟織り交ぜたユニークな投稿で知られ、2万人を超えるフォロワーを擁するネット界では人気の現職官僚の1人。「中身について評するのは避けるけど(私が積極財政派なことは丸見えだと思うけど汗)」と立場を異にしていることを示唆しながらも、
同じ役人なので愚考巡らせるけど、彼の本当にやりたいことは多分寄稿文にそのまま現れてこないし、どっかから二の矢が来る、で、それは岸田総理のやりたいことに合致してるはずだとしたら、彼は首なんか飛ばされませんよ、って話。
彼の首は飛ばされるべきと脊髄反射で主張される方は一呼吸おいてみてほしいなぁ、と。お向かいさんで次官張ってる方なんで、多分そんな反応も予想してやってるでしょう。こら、次官の首を出せ、と言われることも当然考慮してる。これ以上かかないけど、これを組織でやれるのがお向かいさんの凄み。
などと、財務省得意の水面下での政治的な立ち回りが遺憾無く発揮されているとの見方を示した。
高市氏の発言に先駆けて岸田首相はフジテレビ系「日曜報道 THE PRIME」に生出演した際、
「いろんな議論はあっていいが、いったん方向が決まったら関係者はしっかりと協力してもらわなければならない」
と述べたが(発言は共同通信より)、門氏の長年の経験則からくる見立てが当たっていれば、政治側と財務省との間の阿吽の呼吸で、省のメンツやガス抜きをさせた上での深謀遠慮があったのかどうか、政治関係のプロたちには興味深いかもしれない。
いずれにせよ、矢野氏や財務省の組織としての覚悟、麻生前財務相が容認した「真意」などを巡り、総選挙直前の永田町・霞が関は週明けもさまざまな憶測が流れそうだ。
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