岸田首相は「変節漢」、規制改革・構造改革を巡る発言録をサルベージしてみた
2年前の国会で「規制改革は力強く前へ」- 「小泉改革以降の新自由主義的政策を転換」という岸田氏の過去の国会発言は?
- 規制改革や構造改革については前向きな姿勢。23年前は「小さな政府」志向
- リアリスト?変節?「流行に合わせて主張を変えたように見える」と渡瀬氏
岸田文雄内閣総理大臣は「小泉改革以降の新自由主義的政策を転換する」と主張し、規制改革推進会議を改組し「デジタル臨時行政調査会」に移行するものと想定されている。
しかし、岸田氏自身は過去に「小泉改革以降の新自由主義的政策なるもの」を推進してきた当事者である。日本に新自由主義政策が実際に存在したか否かは脇に置いておくとして、今更自らが過去に推進してきた政策を否定することは政治的にあまりにも無責任であり、今後も規制改革を断行することを要望したいところだ。
以下、岸田氏の過去の国会での注目すべき発言を幾つか取り上げたい。
国会発言「努力する人間が報われる国」
<第196回国会 衆議院 予算委員会 平成30年(2018年)5月14日>
(自民党政調会長時代)
これは既に申入れを行っておりますが、経済構造改革戦略について、そして、これからも、財政改革、財政再建等について、党としてもしっかり政府に申入れを行わさせていただきたいと考えております。政府にあっては、こうした党の提言、申入れにつきましても骨太の方針その他の諸施策にしっかりと反映していただきますよう、努力をお願いしたいと思います。
<第195回国会衆議院本会議、平成29年(2019年)11月20日>
(代表質問、自民党政調会長時代)
一部の国家戦略特区に絡む問題が指摘されたことによって、特区制度に向けた議論が萎縮し、規制改革全体の進捗に悪影響を及ぼすことがあってはなりません。規制改革自体は引き続き力強く前へ進めていくこと、そして、公文書管理の適正化等を通じて行政の透明性を高めていくことを強く求めます。
<第189回国会 衆議院 外務委員会 第4号 平成27年(2015年)4月1日>
(外務大臣として答弁)
経済連携を進めることが、翻って国内のさまざまな規制改革ですとか構造改革にもつながる、こういったこともあり得るでしょうし、こうした観点から外務省としてやるべきことをしっかりやり、我が国の国内のそうした規制等についても考えていく、こういった取り組みを進めていくことは大事なのではないか、このように思っております。こうした経済連携協定、投資協定等の締結、あるいは関係省庁の連携も大事でありましょうし、またさらには、3月17日の対日直接投資推進会議で決定をいたしました、日本に重要な投資をした外国企業に各省の関係副大臣を相談相手としてつける企業担当制という制度が打ち出されましたが、こういった制度を通じてさまざまな取り組みを進めていく。こうした企業担当制において、直接、外国企業から日本の規制ですとか構造の問題点を吸収することによって、それを政策に生かしていく、こういった取り組みも重要なのではないかと考えます。ぜひ、外務省の立場から、御指摘の規制ですとか構造の改革に向けて資するように努力をしていくことは重要なのではないかと認識をいたします。
<第143回国会 衆議院 予算委員会 第4号 平成10年(1998年)8月19日>
そして、先ほど来、努力する人間が報われる国ということを再三申し上げておりますが、その当然の帰結としまして、小さな政府を目指すということが出てくるわけでありますが、私、小さな国を目指すということに関しまして、一つ大変注目している法律がございます。それは、特定非営利活動促進法案、いわゆるNPO法案であります。これは、さきの通常国会を通過いたしまして、ことしの12月1日から施行されるわけでありますが、私は、小さな政府を目指す保守政党としまして、この法案は大変重要な法案だという認識を持っております。
「小さな政府」志向だった“青年議員”岸田文雄
言うまでもなく国会での質疑応答は、政府の一員または議員として政治的責任を伴うものだ。平成10年とは1998年であり、若かりし頃の岸田総理は「小さな政府」を目指しており、自民党は小さな政府を目指す保守政党であると定義していたのだ。これはいささか驚きである。
また、平成19年(2007年)からの福田内閣では規制改革担当大臣を務め、平成27年(2015年)、平成29年(2017年)、平成30年(2018年)の国会答弁及び代表質問などにおいても、規制改革や構造改革については前向きな姿勢を示している。一応、下記の通り、規制改革担当大臣時代は小泉改革に懐疑的な見解を示しているものの、やはりそれは小泉政権が終わったという「当時の空気感」がその発言に影響を与えただけと見るべきだろう。
<第168回国会 衆議院 内閣委員会平成19年10月26日>
小泉政権における市場原理という物差し、我が国が自由主義経済をとっている以上、市場原理というこの物差しも大変重要であると私も認識をしております。ただ、日本の国はさまざまな政策課題があります。社会保障、教育、その他さまざまな政策課題、すべて一つの物差しを当てるということには多少無理があったのかな、そんなことは感じております。また、地域におきましても、いろいろな地域があり、いろいろな課題があります。それもすべて一つの物差しで考え方を整理しようとしたところ、少し無理もあったのかな、そんなふうに思っております。やはり物差しの使い分け、丁寧さ、こういったものは求められているのかなと思っております。自立と共生、福田内閣におけるしっかりとした物差し、そして物差しの丁寧な使い分け、こういったことは心がけていかなければいけない、そのように感じております。
岸田氏は「小泉政権意向の新自由主義政策なるもの」を推進してきた中心人物の一人と言っても過言ではないが、筆者にはその場の雰囲気に合わせて自らの主張を変節してきた人物という理解が正確だと思える。
流行に乗って突然の変節?
実際、岸田氏の変節ぶりには飽き飽きする。新自由主義路線からの転換を打ち出した岸田氏が「新自由主義」という言葉を発して国会で問題提起をしたのは、下記の平成31年(2019年)の1回だけだ。(冒頭にも示した通り、その前年、2年前は国会で構造改革・規制改革の念押しをしている。)最近になっての突然の変節であり、流行に合わせて主張を変えたようにしか見えない。
<第198回国会 衆議院 予算委員会 平成31年2月8日>
(自民党政調会長として)
言うまでもなく、異常気象ですとか大規模災害の頻発など、地球環境の持続可能性、これも問われています。さらには、資本主義、これは、ポスト新自由主義などと言われますが、要は、資本主義の物差し、これを改めていくべきではないか、ESG投資とかSDGsとか、こういった動きの中で、資本主義の持続可能性、これも問われている、こういった指摘もあります。
岸田氏は自らが保守本流としてリアリストであることを理由にその変節を正当化するだろう。しかし、保守本流やリアリストとは政治的な理念がないこととは異なるはずだ。岸田氏が述べる保守本流とは「世論の動向に合わせて政治的主張が180%変わる風見鶏のような政治」のようなものだ。政治家は「その場の雰囲気」だけでなく「過去の国会での発言」を厳しく精査されるべきである。
<第189回国会 衆議院 外務委員会 平成27年3月27日>
最近は保守本流という言葉は余り使われなくなりましたが、リベラル、あるいはリアルな政策提言、また謙虚な姿勢、こういった姿勢につきましては、私自身もこれからも大事にしていかなければならない大切な姿勢なのではないかと考えております。
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