年金と老後資産を直撃 !? 岸田ショックが中間層の未来を襲う
「1億円の壁」金融資産増税の正体とは- 岸田首相が撤回した金融所得増税の負の影響。「貯蓄から投資へ」の流れに冷や水
- 「1億円の壁」を問題視しているが、見えてくる「大衆増税の実態」とは
- 明らかに負担が大きいのは社会保険料。民間重視の政策を掲げる政党は?
岸田新首相は「新しい資本主義」として『成長と分配』の好循環を掲げ、金融所得課税についても考えていく必要があるのではないかと言及しました。歳出と歳入によるプライマリーバランス堅持の方針をもつ岸田政権で、再分配政策の原資は金融所得への増税と見られています。
これに対し楽天の三木谷氏を代表理事とする新経済連盟は「リスクマネーの供給を大きく阻害し課税計算対象である株価等にも大きな影響を及ぼす金融所得課税の強化は、明確に反対」と表明。日経平均株価は自民党総裁選決定後、8日間続落しました。
これらの動きからか10日、岸田首相は「当面触れることはない」と方針転換。しかし2016年からじっくり準備されてきた増税案が白紙撤回になるというのは楽観的です。
中間層を結果的に直撃
政府はこれまで「貯蓄から投資へ」という政策を進めており、金融庁は「老後資金2000万円不足問題」などで投資による資産形成を促進。金融所得課税は富裕層への負担増だけではなく、老後資金を投資という形で積み立ててきた中間層をも直撃します。
また年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)と日本銀行は多額の公的マネーを株式市場へ流入させ、株価を下支えしてきたと言われています。国内株式市場が冷え込んだとき、これらの巨大な機関投資家が日本株を売却するならば株価は不安定に。結局身動きの取れないまま損を被り、年金財政はさらに悪化しかねません。
それだけのリスクのある中で金融所得課税を現行20%から25%程度へ増税することで、不公平の解消となるのでしょうか。
国税庁の標本調査に基づくと、確かに課税所得1億円での30%弱をピークに税負担率は低下し、所得課税100億円以上では20%を下回ります。その原因は課税所得1億円を超えると所得のうちで株式譲渡所得の割合が増すためと言われています。これが岸田総理のいう「1億円の壁」です。
課税所得1億円を超える者は2万人程度ですが、その税収は全体の23%、約1.5兆円に相当します。大和総研の試算によると金融所得課税を25%へ引き上げることにより、1億円超からの税収は約1050億円増加します。
しかしこの時、1億円以下からの税収は約4450億円増加となり、特に所属人数が多い課税所得400-700万円の階層で、課税強化の影響が大きいとされています。
たった2万人の「1億円の壁」の向こうの税率に注目を集め、個人株主約6000万人(日本証券取引所発表)を巻き添えにする、「大衆増税」が金融資産増税の正体です。
中間所得層での株式保有は老後資金を充足させるためや、自社株を保有することで企業の成長による利益をストックオプションとして共有するためであり、贅沢な不労所得を得ているイメージとはかみ合いません。
せっかく醸成してきた「貯蓄から投資へ」の風潮に対し、アフターコロナで景気回復を狙う局面で冷や水をかける妥当性はどこにあるのでしょうか。岸田首相は「市場や民間に任せればいいという時代は終わった」といいましたが、民間の自助と共助を応援しなければかえって高齢者福祉は高くつきます。
もし年収1臆以上に公平な税負担を求めるのなら、日本維新の会が衆院選に向けて提言している、フラットタックスとする考え方もあります。税の簡素化は法人や行政コストの削減に寄与します。
しかし、実は現状でも所得税だけでなく消費税や社会保険料を含めた総合的な負担率でみると、ほとんどの世帯が属する総収入1200万円以下で25%程度と概ねフラットになっていることをご存知でしょうか。
フラットタックス導入により低~中間所得層の負担は変わらず、税収全体としては概算で約3%、1800億円の減収というイメージをもつと良いでしょう。
民間重視の政党はいないのか
複数の野党が共産党と連携し左傾化を強める中、リアリストである冷静な一般市民が対案として検討に値する政策は、わずかに維新からしか出てきません。しかしその政策に税と社会保障の簡素化という建設的な着眼点はあっても、ストック課税の新設、財政規模の拡大をしてベーシックインカムで再配分を目指すならば、それは選挙の争点として明確ではありません。
例えば世帯総収入400万以下の低所得層にとって、明らかに負担が大きいのは社会保険料です。過日議論されたように国営年金を最低補償年金に一本化するならば、低所得者への支給はほぼ変わらないまま、年金保険料の一律減も可能です。
高福祉による高負担にはかつてのイギリスも英国病として苦しんだ道です。三木谷氏の言葉を借りるなら、自民党までもが「社会主義」へと偏った今だからこそ、明確に民間重視の政策を掲げる政党が待望されています。
関連拙稿:衆院選のテーマは年金改革 ⁈「おいしい話」はもうお終いへ – SAKISIRU(サキシル)
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