法人税15%ルール導入へ:日本はその“倍”で国際競争に勝てるのか?
それでも止まらない大国と新興国とせめぎ合い- G20の財務大臣・中銀総裁会議で15%以下の法人税は禁止の国際ルール合意
- 低税率で企業誘致する新興国に大国の同調圧力で歯止めをかける試み
- まだまだ日本の法人税率は倍以上。新興国への流れは止まらない
15%の法人税を最低水準とする新たな国際課税の枠組みが、米ワシントンで開かれた主要20カ国・地域の財務大臣・中央銀行総裁会議で確認された。約100年ぶりの法整備で、2023年より導入される。
この枠組みには現在136カ国と地域が合意。今年7月時点では猛反対していたアイルランド(12.5%)や、ハンガリー(9%)も、この枠組に合意することになった。ケニア、ナイジェリア、パキスタン、スリランカは現時点で棄権しているが、こうした一部の国を動くと、世界中のどこの国でも原則、法人税15%となるという。
下げても高すぎる日本の法人税
日本の法人税率は23.2%と、かつてよりもかなり下がってきてはいるのだが、法人事業税や法人住民税などを加えた、実効税率は29.74%(2018)と高い。かつてはアメリカやフランスの実効税率は日本よりも高い税率だったが、アメリカはトランプ大統領時代に35%から21%へと急激に減税。フランスも以前の33%から2022年までに25%に引き下げる予定となっている。ここ数年で多くの大国が法人税引き下げ競争を行ったために、日本の法人税実効税率は最も高い水準にあるのだ。
日本から近い香港は16.5%、やシンガポールは17%と、法人税の税率はさらに低い。香港では2018年以降、200万香港ドルまでの法人なら半分の8.25%の法人税率にしている。法人税率17%のシンガポールも、さらに優遇措置や控除を設けていたので、実際に企業に課されている税率は、17%以下となる場合がほとんどだといわれている。世界から成長中の企業が集まり賑わいがあるのは、まさにこうした法人税の仕掛けが功を奏しているからだろう。
こうした格安の法人税でグローバル企業を誘致してきた新興国の企みを、大国の圧力で潰してしまうというのが今回の合意の目的でもあったのだろう。ただ15%ルールになっても、大国と新興国の法人税の差はまだまだ開きがあるので、新興国には引き続き多くの企業が集まるのかもしれない。
今回の同意ではさらに、GAFAの様な世界で収益を上げている巨大グローバル企業に対し、本社所在地だけでなく、利益を生む現地の国にも課税権の網をかける。アマゾンなど、日本で利益を得ながらほとんど納税していなかった企業に対して、日本での課税権が新たに生まれることになる。日本のグローバル企業も例外ではなく、トヨタやソニーグループの様な企業にも、現地国への納税義務が生まれることになる。グローバル企業の活動に、より縛りが課せられることになるわけだ。
さらに今回、いま15%より低い税率の他国に子会社を置いて節税を享受していた企業は、15%以下の浮いた税金を、本社のある国に支払うという新ルールも生まれた。税率の低い国に国外移転して節約できた企業の収益の一部が税金として入ることになる。こうした一連の国際合意によって、日本の法人税収は増える見込みだという。
成長する新興国、焦る大国の“同調圧力”
今回の国際合意は大国の焦りを表しているともいえる。136か国の同調圧力で新興国による”抜け駆け”は許さないということだろう。近年、新興国に富を奪われつつあった大国側にとってこれは、大逆襲でもある。新興国に奪われた富と取り戻し、税収が増えるとなれば、日本を含めた大国の国税当局は高笑いが止まらないだろう。
法人税を9%に据えていたたハンガリーでは、国として世界一低い法人税率を武器に世界の企業誘致を行ってきた。自動車部品世界大手の独企業ボッシュや、日本企業のデンソーもヨーロッパ最大の工場を置いた。同社は最近ではAIの研究センターを同国に作った。製造業は現地での雇用規模が大きい。誘致がハンガリーの成長を支え、2021年の経済成長見通しは6%台を超える見込みだという。今後は15%以下が認められなくなるので、法人税9%は維持出来なくなるだろうが、15%に引き上げたとしても、まだまだ日本の税率などと比べると、はるかに開きがあるので、まだまだ企業誘致では優勢かもしれない。
新興国の企業の成長を促す方法と、大国の企業を縛り付ける方法、どちらが将来的に企業を成長させ、雇用を増やせられるのだろうか。新興国と大国の競争は、まだまだ続いていきそうだ。
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