トヨタ、ソフトバンクも巻き添え、独禁法処分乱発する中国政府の意図
チャイナリスクが止まらない- 中国政府がトヨタに独禁法違反で罰金命令
- トヨタは配車サービス「滴滴出行(DiDi)」と協力関係にあり巻き添えとなった
- 中国IT企業への処分は今後も続くと見られる
中国企業と合弁企業を設立するにあたって必要な届け出をしなかったとして、トヨタ自動車が中国当局から独占禁止法違反で罰金を命じられた。3月にはソフトバンクも独禁法違反で同様の処分を受けた。中国政府が大手IT企業への締め付けを図る中、中国市場開拓を目指す日本企業も巻き込まれる形になっている。
合弁会社設立の届け出漏れで罰金
中国国家市場監督管理総局が4月30日に発表した処罰決定書によると、処分対象はトヨタと、中国配車サービス大手「滴滴出行(DiDi)」の全額出資子会社で海外投資を手掛ける嘉興創業環球。両社は2019年7月に合弁会社を設立したが、独禁法が求める事前届け出を行っていなかったため、それぞれ500万元(約8400万円※)の罰金を科された。
トヨタは同年7月25日、配車ドライバー向け車両関連サービスを展開する合弁会社をDiDiと設立し、さらにDiDiと合弁会社に計6億ドル(約660億円)を出資すると発表しており、この取引が中国当局から問題視されたようだ。
実はソフトバンクも今年3月、中国当局から独禁法違反で50万元の罰金を科された。2018年にDiDiのグループ会社とタクシー配車サービス「DiDiモビリティジャパン」を設立した際、当局に事前報告しなかったことが処分理由だ。
IT企業締め付けに転じた中国政府
日本の自動車、IT業界のトップ企業が相次ぎ処分されたわけだが、中国当局が標的にしたのは国内配車市場をほぼ独占するDiDiであり、同社と協業を深めていたトヨタ、ソフトバンクは巻き添えになったと言える。
中国政府は2020年以降、メガIT企業への締め付けを強めており、独禁法改正も進めている。背景には、2008年の同法制定時には想定していない状況、つまりインターネットビジネスの成長とIT企業によるデータの独占行為が看過できなくなったことがある。
2010年代に消費や経済のけん引役と見なされてきたIT企業は、人工知能(AI)やビッグデータの発展で消費者の情報を吸い取り、政府や銀行の脅威になりつつある。
プラットフォーマーの独占が進むにつれ、取引業者や消費者からの不満も大きくなった。例えば2019年にはDiDiのドライバーによる殺人事件が2件発生し大きな社会問題になったが、DiDiに対抗できるプラットフォームが存在しないため、消費者はDiDiを使い続けるしかなかった。
中国政府はプラットフォーマーの支配力を弱めるため、消費者の支持も追い風にIT企業への締め付けに転じた。今年4月にはEC最大手のアリババグループが、独禁法違反で過去最大となる182億2800万元(約3000億円)の罰金を科された。
見せしめ、警告的な処分は今後も継続
アリババが取引先に対して同社の競合企業と取引をしないよう迫るなど、「市場支配力の濫用行為」が認定されたのに対し、トヨタ、ソフトバンクはあくまで手続きの漏れを指摘されたに過ぎず、罰金の額もさほど大きくない。
ただ、当局が以前は黙認していた行為を遡って処分している点は注意する必要がある。
中国独禁法は第21条でM&A関連取引の事前届け出を義務付けているが、実際には厳格に運用されず、条文が形骸化していた。
状況が一変したのは2020年12月だ。中国当局がアリババなどIT企業3社に対し、M&Aの事前届け出を怠ったとして50万元の罰金を科したと発表し、その後、トヨタやソフトバンクを含む多くの企業が五月雨式に同額の罰金を命じられるに至った。
トヨタの合弁会社設立は2019年、ソフトバンクは2018年、アリババに至っては2014年の企業買収が処分対象とされた。
つまり、当局は過去のM&Aから小さな違法行為を洗い出し、次々と処分することで、「どの企業も独禁法の網から逃れられない」とのメッセージを発していると考えられる。
アリババに対する巨額罰金は中国当局による見せしめであり、締め付けの「号砲」でもある。今後も中国IT企業の過去のM&Aに対する処分は断続的に行われると見られ、中国市場進出を視野に現地の有力企業と合弁企業を立ち上げた日本企業が一緒に処分されるケースは出てきそうだ。
※金額訂正しました(7日22:58)
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