天然ガス価格の爆騰で苦境に立つイギリスは、日本も他人事でない

エネルギー危機の「想定外」似た構造とは?
人間経済科学研究所 代表パートナー(財務省OB)
  • 天然ガス価格が爆騰。日本の家計は5%超の値上げ、欧州の先物は9か月で6倍!
  • 背景に各国の温暖化対策。石炭火力の代替物として天然ガスの利用が増加
  • 冬の寒波が長く、イギリスは危機的。発電の4割が天然ガス火力の日本も要注意

天然ガスの価格が爆騰している。東アジアのLNG(液化天然ガス)の指標価格(JKM)は1年前の約6倍に値上がりし、石炭価格の上昇も加わって日本の電気・ガス料金は9月分以降3か月値上げが続いている。東京電力の場合、平均モデルで8月の6,960円が11月には7,371円と5.9%の上昇となり、家計にとっては痛い値上げだ。

しかし、日本よりもずっと大変なのは欧州だ。欧州では今月5日に代表的な天然ガスの先物価格(DuchTTF、1メガワット当りの価格)が100ユーロを超え、年初から9か月ちょっとで約6倍になっている。当然各国で電気・ガス代が大幅に値上げされている。

世界的にガス価格が高騰(Sky_Blue /iStock)

爆騰の背景に温暖化対策

今回の天然ガス価格高騰の大きな要因は、世界経済のコロナからの景気回復過程で消費や投資が急激に盛り上がってエネルギー消費が増加する一方、供給がなかなか増えないためだ。

しかし、各国の温暖化対策も大きく関係している。

天然ガスは石油や石炭に比べて発電時の二酸化炭素排出量が少ないことからクリーンなエネルギーと位置づけられており、風力などの再生可能エネルギーの利用がまだ十分に拡大していない中で、各国は石炭火力発電を廃止する際の代替物として天然ガスの利用を増やしているのだ。

特に中国は、2020年9月に習近平主席が国連総会で、2060年に脱炭素社会となることを目指すと宣言して以来、石炭火力から天然ガス火力へ急速に転換を進めており、景気回復による需要増大もあって世界中から天然ガスを爆買いしている。今月中国は、年初からの輸入量の累計比較で日本を追い抜き、世界一の天然ガス輸入国になっている。

一方欧州諸国も盛んに天然ガスを買っている。欧州諸国は、早くから石炭火力発電を減らして再生可能エネルギーへのシフトを進めてきているが、まだクリーンなエネルギーである天然ガス火力発電も欠かせない存在となっている。

ところが、今年は冬の寒波が長く厳しかったため暖房用のエネルギー消費が増え天然ガスの在庫が通常の年以上に減少し、ガスの不需要期の夏になっても在庫水準を十分に回復できなかったのだ。

注目したいイギリスの「想定外」

※画像はイメージです(Evgeny Gromov /iStock)

欧州の中でも特にイギリスは危機的状況に追い込まれている。今年の冬が寒いと電気・ガスの供給がストップする恐れさえ生じている。その理由は、イギリスでは温暖化対策を進めて2020年には総発電量に占める風力発電のシェアが24%に達したが、今年は8月から9月にかけて地域によってはこの20年間で最弱の風しか吹かず、天然ガスによる発電で風力発電の減少をカバーせざるを得なかったのだ。

さらにイギリスにとって悪いことに、天然ガスの備蓄がドイツは約3か月分あるのにイギリスは約1週間分しかなく、もし輸入が滞るとたちまち電力やガスの供給がストップする状況になっている。

イギリスでは風力発電のシェアが増え、また天然ガスの価格も安定的に推移したため、2017年にイギリスの全貯蔵量の約7割を占めていた大規模な備蓄施設が廃止となったが、これに対して政府は何ら対策を講じなかった。イギリス政府にとって風力発電がここまで落ち込むことも、また天然ガスの世界的な需給のひっ迫が起こることも想定外だったのだろう。しかしそれは現実に起きてしまった。

こうしたイギリスの苦境は、発電の約4割を天然ガス火力に依存する日本にとって他山の石とすべきものだ。

今回イギリスでは、風が吹かないという天候要因がエネルギー危機の根本原因となったが、日本でも温暖化対策として太陽光発電や風力発電といった天候に左右されるエネルギー源を増やして来ている。しかし今年1〜2月は積雪によって太陽光パネルが破損して発電量が大幅に減少した地域もあった。蓄電や効率的な送電のための技術開発を進めるとともに、天候不順で出力が低下した時のバックアップ電源として原発のシェアをどうするのか、世界の天然ガス市場が中国やインドなどの需要拡大によって需給がタイト化しやすくなっているだけに、国としての方針をよく議論して固める必要がある。

日本もLNGの備蓄不安

一方、天然ガスの備蓄が心もとない点は日本もイギリスと同じだ。LNG(液化天然ガス)は気化しやすく石油のように貯蔵が容易でないという理由で、日本は天然ガスの国家備蓄を行っておらず、発電用のLNGは民間の貯蔵施設に約2週間分の備蓄しかない。このため輸入が何らかの理由でストップするとたちまち困ってしまうことになる。

これについては、日本は天然ガス輸入のかなりの部分を長期契約によっているので、原油価格に連動した購入価格の変動リスクはともかく、供給の安定は確保できているという意見がある。しかし、長期契約のデメリットとして、将来需給が緩んだ時に余剰のガスを抱えるリスクがあるし、長期契約の価格がスポットの天然ガス価格よりも大幅な割高になる可能性もある。

欧州諸国やアメリカでは枯渇したガス田・油田を使った天然ガスの大規模な地下貯蔵施設が整備されている。日本では新潟県に枯渇したガス田・油田を利用した小規模の民間の貯蔵施設があるのみだ。これからますます天然ガス調達確保の重要性が高まる中で、国がリーダーシップを取ってLNGの戦略備蓄を行う必要があるのではなかろうか。

 
人間経済科学研究所 代表パートナー(財務省OB)

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