中国・ロシア軍艦が津軽海峡ダブル通過!日本への「ミリハラ」深化にどう対抗するか
注目すべき潜水艦の動向10月7日の拙稿「ロシアが日本のEEZ内にミサイル訓練。岸田新政権は断固とした姿勢を!」において、ロシアの日本海におけるミリタリー・ハラスメント(ミリハラ:軍事的嫌がらせ)について触れたところであるが、これに続いて日本海や津軽海峡などで今度は中露が合同で軍事プレゼンスをアピールしている。
「海上共同-2021」
ロシア軍機関紙「赤星」や中国共産党系の国際紙「環球時報」などによると、10月14日から17日までの間、日本海北部ウラジオストック沖のピョートル大帝湾付近の海域で、中露が合同軍事演習「海上共同(筆者訳)- 2021」を実施した模様である。
これらによると、この演習にはロシア側から、対潜駆逐艦「アドミラル・パンテレ―エフ:8,500トン級」、フリゲート「アルダル・ツィデンザポフ:2,200トン級」等2隻、キロ級潜水艦「ウスチィ・ボリシェレツェク:3,000トン級」、及び掃海艇、ミサイル艇、救難艇など8隻以上のほか、空軍の戦闘機や海軍航空部隊の航空機が参加した。

一方、中国側からは、中国海軍レンハイ級ミサイル駆逐(NATOでは巡洋)艦「南昌(なんしょう)」(13,000トン級)、ルーヤンⅢ級ミサイル駆逐艦(7,500トン級)、ジャンカイⅡ級フリゲート(4,000トン級)2隻、フチ級補給艦(23,000トン級)及び潜水艦救難艦とディーゼル潜水艦(艦種不明:キロ級又は元級などの攻撃型潜水艦と推測)の7隻が参加した模様である。

この「海上共同」と呼称される中露二国間の合同軍事演習は、2012年以来、年1回を基準に実施されている。当初、今回と同様の海域から始まったこの演習は、徐々にエリアが拡大され、2016年には南シナ海で、2017年にはオホーツク海で、2019年には黄海の青島(チンタオ)沖で行われた。
訓練内容についても、当初は通信訓練など相互の意思疎通と連携行動から始まり、相互の救難訓練などを経て、2015年には初めて共同での着上陸訓練を実施するなど、次第に軍事色の強い戦術訓練へとその様相を変えていった。そして、2019年に黄海で行われた本演習には、中国側から潜水艦や航空機も参加し、共同での対空戦、対潜戦、不審船への臨検及び救難活動などに関わる演練が行われた。
昨年(2020年)は新型コロナの影響で中止となったが、今回はこの2019年の演習をさらに深化させたような形で場所を日本海に移し、(初めて外国との共同訓練に参加した)中国最新鋭のミサイル巡洋艦「南昌」を始め、両軍の潜水艦や航空機も参加して、水上砲射撃や対潜戦、機雷掃海などの分野における共同訓練を実施した模様である。
拡大する中国潜水艦の行動範囲
前出の報道機関に見られるように、中露双方とも本演習を参加艦艇の写真などを掲載して大々的に外部に向けてアピールしているが、今回興味深いのは、1か所中露で大きく異なるところがあったことだ。それは、ロシアの報道が双方のディーゼル潜水艦の参加を伝えているのに対し、中国の報道は「自らの参加艦艇の中で一切潜水艦には触れていない」という部分である。

中国の潜水艦が日本海のエリアで活動しているのが(公に)確認されたのはこれが初めてだと思われ、しかもこれがロシアとの合同演習であったことは、極めて注目すべき事象だ。わが国のメディアはどうしてこれを取り上げないのだろう。中国が報道しないのは、自国の潜水艦の活動をなるべく隠蔽したいという思いと、何よりも対馬海峡を密かに通峡して日本海で活動していることを知られたくなかったからだと思われる。それならば、なおさらわが国の報道機関は声を大にしてこれを内外に伝えるべきではなかったのか。
この演習に先立つ10月11日、海上自衛隊の艦艇及び哨戒機が、対馬海上を北上して日本海に入る「中国海軍レンハイ級ミサイル駆逐艦1隻、ルーヤンⅢ級ミサイル駆逐艦1隻、ジャンカイⅡ級フリゲート2隻、フチ級補給艦1隻及びダラオ級潜水艦救難艦1隻」の、計6隻を確認し、防衛省はこれを公表している。前述のようにこれらはすべて今回の参加艦艇である。しかしここに潜水艦の姿はない。この事前にも対馬海峡を通行した中国の潜水艦は確認(公表)されていない。
当然ではあるが、潜水艦は水上艦艇とは速力も航行形態も異なるため、艦艇群とは行動を共にしない。恐らく、先行して艦艇群の航行ルートを偵察しながら移動したものと推測されるが、ここで注目すべきなのは、「対馬海峡をいつどのように通峡したのか」、「自衛隊はこれを把握していたのか」、「把握していたならばなぜ公表しなかったのか」「いつごろから中国の潜水艦は対馬海峡を通峡して日本海に入るようになったのか」、などということである。
見逃した警鐘を鳴らすチャンス
わが国の領海内にある5つの国際海峡は、特定海峡に指定されて、領海は3海里に縮められているため、中央部分は公海となっている。したがって、外国の軍艦も自由に通峡ができるのはもちろん、潜水艦の潜没航行も問題とはならない。しかし、わが国に隣接する安全保障上重要な海域を友好国ではない他国の潜水艦が潜没航行して出入りしているとすれば、これを見逃してはならないことは言うまでもない。

あくまで推察ではあるが、海上自衛隊の対潜哨戒能力からすれば、今回もこれを探知していた可能性は十分にある。しかし、南西諸島における企図不明の接続水域の潜没航行とは異なり、特定海峡の通行という観点と、わが国の情報収集能力に関わる保全上の観点から、公表は差し控えていたのであろう。だとすれば、今回の日本海における演習に中国の潜水艦が参加したことを取り上げて、対馬海峡というわが国に隣接する隘路を潜望鏡深度か潜没航行かは不明ながら、密かに通行することの危険性とわが国に及ぼす脅威について指摘し、内外に警鐘を鳴らすチャンスだったのではないか。
津軽海峡通過は演習後だが…
10月17日に「海上共同-2021」が終了したあと、これに参加した中国海軍のミサイル巡洋艦「南昌:13,000トン級」など戦闘艦艇4隻とフチ級補給艦が、同じく演習に参加していたロシア海軍の対潜駆逐艦「アドミラル・パンテレ―エフ:8,500トン級」など戦闘艦艇4隻とミサイル観測支援艦とともに、計10隻で隊列を組んで津軽海峡を通峡して太平洋へ向かった。

中露の艦艇が隊列を組んでわが国の特定海峡を通峡するのは初めてのことであるが、これは、わが国が特定海峡を航行する中国やロシアの艦艇を(海上自衛隊が)監視して、(防衛省が)写真付きで公表することを承知の上で、「海上共同-2021」の延長線上に行われたデモンストレーションと見られる。日米共同訓練や多国間共同訓練などで最後に行われる(双方の艦艇群や航空機が参加する)フォトミッションを意識したものであろう。しかし、これが津軽海峡の通峡という形で行われたことには着目しなければならない。
特定海峡を活用する戦略・戦術は必須
今回の「海上共同-2021」が対潜戦や掃海訓練を主としたものであることを加味すると、この中露両海軍の津軽海峡の合同通峡というのは、いかに彼らがわが国の特定海峡を意識しているかということに結びつく。
逆に言えば、わが国は「有事の際、いかにこれらの海峡を戦略的かつ戦術的に有効に活用するか」を熟考しておかなければならないということである。
中露の軍事協力は今後も深化を続けるだろう。これは、中国軍の外洋における戦闘能力を向上させるというだけではなく、東アジアにおけるロシアの存在感を強め、相対的にわが国の立場を弱くすることにもつながる深刻な問題である。特に、日本海において、わが国に与える脅威は重大である。
中国軍などによる尖閣諸島への上陸や台湾海峡有事の際などに、中国艦艇群などが対馬海峡を北上して日本海に入り、ロシア軍と合流するような形でわが国に対峙(たいじ)すれば、自衛隊はかなりの兵力を日本海正面に拘置しなければならなくなるであろう。つまり、2正面作戦を余儀なくされるということだ。日本海からの侵攻脅威を減殺するための「特定海峡を重視した(政治や軍事的な)戦略及び戦術(作戦)」の構築が急務である。
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