「完全に別物」ネットで酷評された佐賀の大絵馬、修復の当事者に聞く
「文化財という意識はなかった。みんなに申し訳ない」10月14日、佐賀県の地元紙、佐賀新聞が電子版でこんな記事を掲載した。
勇壮な武者生き生きと 大絵馬修復、鹿島市の五の宮神社 杉光さん、中村さん1年半かけ彩色https://t.co/dcG8B9W4HY #絵馬 #鹿島市 #五の宮神社 #修復 #江戸時代
— 佐賀新聞ニュース (@sagashimbun) October 15, 2021
記事によると、江戸時代後期に作成された地元神社の大絵馬(大きな絵画)が地元の人たちによって修復されたという。私費を投じて修復を企画した織田博吉さん(72歳)は、
「地域の五穀豊穣(ほうじょう)を長年お願いしてきた神社に対して、感謝の気持ちがある。絵が、立派に修復されてうれしく思う」
と取材に答えている。一見、ほのぼのとした心温まるローカルニュースのように見えるのだが……。
専門家も「悪い意味で話題」
ネットニュースとして全国に広まると、ツイッター上ではこんな反応が相次いだ。
これは「修復」ではなく、どこぞのキリスト像と同じ事故のように感じるのは私だけでしょうか…
コレは酷い。完全に別物じゃ無いか。修復と言うか、歴史あるものをオリ絵で塗り潰した。って言うのが正確。スペインのキリスト画の修復から何も学ばなかったのか…
「スペインのキリスト画」とは2012年、教会の柱に描かれた約100年前のキリスト像を地元の高齢女性が修復した結果、「サルのようだ」と失笑を買い、「世界最悪の修復」とまで言われた騒動のことだ。
五の宮神社の絵馬について“修復の仕方が悪い”という批判の声は、一般のネット民だけでなく有識者の間からも出た。文化財修復の専門家で「株式会社 文化財マネージメント」社長の宮本晶朗氏もツイッターで「造形技術的に低レベル」と評価した。
修復は修復家に依頼してほしい。この事例は造形技術的にも低レベルなので、悪い意味で話題になる。他方、技術が高くても修復倫理を理解していない修復は、修復としてはNGだが、仕上がりの美観は整うのであまり話題にならないことが多い。こちらのほうも問題としては同じ。 https://t.co/hFnt4vb3wa
— 宮本晶朗 (@miyamonomiyamo) October 18, 2021
1948年創刊の美術雑誌『美術手帖』ウェブ版編集長の橋爪勇介氏も「創作では」でと苦言を呈した。
これは「修復」ではなく「創作」では…(担当したのは地元の画家とのこと)https://t.co/9Sf8s6ziBw
画像:元絵→修復後 pic.twitter.com/qSyYkCX5YR
— 橋爪勇介|美術手帖 (@hashizume_y) October 18, 2021
確かに、修復前と修復後の写真を比べると、馬にまたがっている人物の顔の向きが180度異なるなど、原型を失っているように見える。

喜び一転「申し訳ない」
当事者は、どう思っているのか。筆者は、修復を企画した織田博吉さんに取材し、話を聞いた。
「何年も前から傷んでいるなあと気になっていたんです。私が地元の役職を引退するのを機に、周りの人とも相談しながら、地元への恩返しのつもりで進めました」
明治のはじめ頃に修復があったという記録もあるようだが、定かではないという。同級生に美術の専門家がいたので、お願いしたとのこと。私費を投じたという修復費用については「内々にしておいて」と明言を避けた。
「10月15日が秋の例大祭だったので、それに間に合うようにしました。先人たちの思いを生かし、無事修復できて良かったです」
電話口の声からは、喜びと自負が滲んでいた。だが、「ツイッターなどネット上では『修復の仕方が悪い』という声もある」と伝えると、驚いた様子で声色が曇り始めた。
「私は普段はネットは見ないので、そんな話になっているとは全然知りませんでした。ただ、文化財として価値が高いという話は聞いたこともなかったし、そんな意識もありませんでした。修復を手がけた者とは、『今回は長く残せるようにしたいね』という話はしました」
オリジナルを生かせていないなどの指摘があると伝えると、非常に困惑した様子だった。
「そんな話、今初めて聞いたのでびっくりしました。なんとお返事したら良いか…。まさかそんなことになるとは、思いもしませんでした。みんなからは『良くやってくれた』と言われていて、私としては『いやいや、みんなの思いが伝わったんだよ』ぐらいに思っていたんです。お話を聞いて、がっくりです。みんなに申し訳ない」
五の宮神社の宮司に聞くと、こう答えた。
「色々な声があることは存じておりますが、修復に尽力下さった方々に感謝しています」
文化財修復のルール作りが必要か
知らなくて済むことまで知ってしまうという意味で、インターネットは時に非常に罪深い。当事者の話を聞いて分かったことは、“文化財としての価値”を認識していなかったということ。自宅のリフォームをするのと同じような意識で、地元の神社をきれいにしようと考えた様子だった。
だが、重要なのは「地元の人々は喜んでいる」という点だ。それなら、東京や大阪などにいる部外者がとやかく言うのは「余計なお世話」かもしれない。五の宮神社の大絵馬にどのぐらいの文化的価値があり、どの程度の費用をかけてどう修復するのが適切かは、判断が難しい。外部の目から見ればベストではなかったかもしれないが、地元の人に喜ばれたのなら、織田さんたちは“良いことをした”と言えるのではないか。
とはいえ、「文化財を正しく修復して欲しい」という考えも理解できる。五の宮神社の大絵馬と同じような事例は全国に多数あるはず。歴史的建造物を積極的に「文化財指定」するなどの行政介入や、神社仏閣の管理者に「修復時には役所に届け出をするよう周知する」など、何らかのルール作りが必要かもしれない。そうでなければ、同じようなことはまた起こりうる。
ちなみに「世界最悪」と評されたスペインのキリスト画にはその後、図らずも観光客が殺到し、観光名所として町を活気づけた。鹿島市は、福岡・博多駅から特急電車で約1時間。コロナ禍の収束後には、五の宮神社まで直接足を運んでみてはどうだろうか。
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