あのころ朝日新聞があった #1 朝日脳と私
あなたの会社にも思い当たる節?- 朝日新聞創業家の村山恭平氏が日本型組織の悲喜こもごもを論評する
- 「自分達のやることは非常識でも正義」と思い込む“朝日脳”の特徴
- 帝国軍人や徳川綱吉も“朝日脳”!? 古今東西あるある話をこれから展開
朝日新聞社は1960年代に第2代社主の村山長挙を追放して以降、創業家である村山家の影響力を排除しようと歴代経営陣が頭を悩ませてきた。昨年、3代目社主の美知子氏が100歳を目前に逝去。これで落着かと思いきや、元社会部のエース記者で、美知子氏の秘書を務めた樋田剛氏が『最後の社主 朝日新聞が秘封した「御影の令嬢」へのレクイエム』(講談社)を出版して因縁に再び注目が集まった。
…と物々しい書き出しとは裏腹に、創業家出身で元大株主でもある村山恭平さんが「朝日新聞」という題材を通して日本社会、日本的組織の悲喜こもごもを軽妙な筆致で論評します。(毎月第1、3木曜掲載)

さて何から書こうかと、いくら考えても頭がまとまりません。もうすぐ還暦を迎える私の人生に、朝日新聞社とのつきあいが大きな比重を占めていたことに間違いはないのですが、「朝日とはお前にとって何なんだ」と開き直って聞かれると、即答できそうな気がしながら、何も言葉が出てきません。
家族の者からは、「愛情と憎悪の両方があまりにも過激なので、統一したイメージが作れないのよ」と言われています。おそらく図星でしょう。さらに、最近になってもうひとつ別の思いがでてきました。「もう、いいじゃないか」「いずれにせよ昔の話だ」という、悟りのような諦めのような気持ちです。
「年をとって丸くなる」と言うのは、こういうことなのかも知れません。けれども老いたのは私だけではありません。新聞というメディア、もっと言えば雑誌・テレビなどを含む従来型のジャーナリズム自体が、落日を迎えているということは、もう、誰にも否定できません。「うまく電子化すればなんとかなる」というような、気楽なものでは決してありますまい。
今だから客観的に書ける
私自身に話を戻しますが、状勢が変化した今だからこそ、自分の来し方に多少なりとも客観性を持った視線を向けることが、可能になってきたとも思えるのです。
今回の連載に先立って、アゴラというウェブメディアに何本かの「朝日批判記事」を書きました。今読み返してみますと、自分でも驚くほど、冷たく突き放した筆致です。10年前に書いていたら、はるかに熱く「奴等の姿」を描写していたことは、間違いありません。
「朝日愛」という言葉…ご存じでしょうか。現役社員、OB、そして、社員のご家族の方からも何回も聞かされた言葉です。いまもし改めて聞いたら、臆面の無さに気恥ずかしくはなることを別にすれば、「素朴な愛社精神」や「滅び行くものへの哀惜」など、心情を受けとめられる部分が多大にあります。
けれども、ほんの数年前には、この言葉に虫酸が走るほどの嫌悪を感じ、口にした者の全人格を否定したくなるほど軽蔑していました。自分自身の中にある「朝日愛」的な心情への憎悪を投影していたのでしょうが、今では、良くも悪くも醒めてしまいました。
今更、朝日新聞批判を書いても、単なる弱いものイジメ、老人虐待の一種、ではないかという気もします。泣こうが叫こうが、紙は長くてあと10年。編集方針が今のままなら、電子記事も、商品としてはあと20年もたないでしょう。朝日に限ったことではありませんが、今の小学生には「紙の新聞を見たことがない」という子がザラにいます。購読者が激減しているのは、資源ゴミのトラックを見ても一目瞭然です。
「朝日」を通じて日本を書く
けれども今回、あえて連載を始めさせてもらう気になったのは、子供のころから見てきた朝日新聞社の姿を記録しておくことで、「ある組織(特に日本人の作る日本的な組織)が、長く権威や権力を持ったとき、最悪の場合どんなことがおこるのか」ということを考えるための、モデルケースを提供できるのではないかと思うからです。
一例を挙げましょう。「朝日脳」という言葉…これは、さすがに、ご存じないでしょう。私の造語だからです。差別語じみていますが当然です。差別するために作った言葉だからです。定義は、「自分たちのやることは、全て正義で、きっとうまくいく」と根拠もなく思っている状態ぐらいにしておきましょう。初出は前述のアゴラの拙稿です。

読者諸兄の中にも、朝日新聞の編集系(技術系や業務系は私の知る限り普通の会社員ばかりです)社員とつきあいのあった人には、きっと思い当たる節があるかと思います。
「記者が町内に引っ越してくると、部数が10減る」と有力販売店の店主がボヤいたという逸話(真偽不明ですが)が、その雰囲気をよく表しています。とにかく、一言で言えば、ウザい連中です。
21世紀とは、普通の日本人が「上から目線の既存メディア」に心底ゲッソリしはじめた時代で、その流れを先導しているのが朝日脳なのではないでしょうか。本家本元はもちろん東の築地・西の中之島ですが、他紙でも、思想の左右を問わず朝日脳記者が散見されます。
さらに言えば、「朝日脳」は新聞社とは全く関係ないところにも出現します。典型的なのは、今年亡くなりました半藤一利(はんどうかずとし)氏の著書に出てくる一部の大日本帝国軍人の姿でしょう。
「武士」にはみられない朝日脳
他にも、蘇我家・藤原家に始まり、新しいところではバブル期の大蔵官僚、最近ではIOC関係…日本では権力が腐敗すると朝日脳になってしまうのか、権力者を朝日脳的に描写するのが日本型風刺のパターンなのかは分かりませんが、事例は多数あるようです。
また、これが日本だけの現象なのかは、私の知るところではありませんが、面白いと思うのは、武士には朝日脳をあまり見かけないということです。あえて言えば徳川綱吉ぐらいでしょうか。帝国軍人にしても、幼少期に武士としての心構えを叩き込まれた日清日露当時の指揮官には、朝日脳型は皆無のようです。
このことは、武士道や騎士道、あるいはノブリティーオブリージュスの大切さを、裏側から物語っているのかも知れません。そういえば、朝日新聞の人で、私が今でも尊敬している人は、すべて古武士タイプだったように思います。
連載を始めさせていただくにあたって、私の立場上、朝日新聞社の話、それも昔や大昔の話が中心になりそうですが、そればかりだと、読む方も書く方も気が滅入りそうなので、よそ様の話題もとりまぜて行きたいと思います。山手線ゲーム風に言えば、「古今東西 朝日脳」という感じで進めるつもりです。
そういう主旨ですから、社員やOBが登場するとき、特に批判的に扱う場合、原則として仮名にするつもりです。私の興味はあくまで一般的な朝日脳なのであって、個人攻撃をしても仕方が無いからですからです。
ではでは、しばらくの間、お付き合いを願います。
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