「金正恩は自民党の応援団か?」選挙前にミサイル発射する北朝鮮の真意

金正恩氏に“代わって”上野千鶴子氏の疑問にお答えする
東京通信大学教授/早稲田大学名誉教授
  • 衆院選公示日の北のミサイル発射に上野千寿子氏の「自民党の応援団か?」が話題
  • 北の声明文「米国と南朝鮮は我々の主敵ではない」は「歴史的転換」と重村氏
  • 金正恩氏はすでに対米交渉に反対の軍部を人事刷新。韓国のメンツも潰す

日本で衆議院選挙が公示された10月19日、北朝鮮は潜水艦発射ミサイル(SLBM)の発射実験をした。韓国の新聞は「総選挙中のミサイル発射は、自民党を勝利させる」と報じた。米朝の秘密接触が行われ、国連安保理は3回連続で非難声明を出せず、発射を黙認した。岸田文雄首相は「安保理決議違反」と非難したが、米韓の大統領は沈黙した。韓国の米朝仲介を嫌う北朝鮮の意図が、ミサイル発射に込められている。

narvikk/iStock

北朝鮮のミサイル実験は自民党を利する

元東京大学教授の上野千鶴子氏が〈北朝鮮がミサイル発射。金正恩は自民党の応援団か?いつもタイミングがよすぎる〉とツイートし、話題になっている。

面白いことに韓国の新聞も「総選挙中のミサイル発射は、自民党を勝利させる」と報じたが(参考:中央日報「北朝鮮の相次ぐミサイル発射、選挙目前の岸田首相には好材料か」)、事実、国民の危機意識を刺激すれば、ミサイル対処を訴える政党を利する。

北朝鮮は、9月の自民党総裁選の告示前後にも2回のミサイル発射を行った。過去には2017年の衆議院解散直前にミサイルを発射し、自民党が勝利した。

当然だが、総選挙に北朝鮮が介入、との分析やコメントは筋違いだ。北朝鮮は「日本再軍備非難」や「日本軍国主義復活批判」を展開するなど日本を全く理解していない。そもそも朝鮮戦争が日本の「再軍備」を推進した事実を理解していないし、日本の防衛力増強は、北朝鮮の核開発やミサイル実験のおかげだとの事実も、わかっていない。まして、在日コリアンが困るだろうとの配慮もない。

さらに言えば、「北朝鮮の核とミサイル、SLBMは日本を狙っている」との在日専門家の発言には問題がある。日本国民を脅して、北朝鮮に譲歩させる意図がアリアリだ。北朝鮮の指導者は「日本は主敵である」とは言わない。危機管理の視点から軍事的対応は準備すべきだが、軍事判断と政治・外交判断を混同してはいけない。

「米国は許してくれる」と判断

北朝鮮の真意は何か。

北朝鮮外務省の報道官は、国連安保理がSLBMについての会合を開いた10月21日に声明を発表した。

「SLBM発射実験は米国を狙ったものでなく、純粋に国家防衛のための事業である。米国と南朝鮮は我々の主敵ではない」

この声明は、国連安保理決議の阻止を狙ったもので、安保理は3回続けて非難決議を採択できなかったため、北朝鮮の作戦勝ちになった。

北朝鮮は①核実験をしない②長距離ミサイルの実験をしない――のであれば、米国と国連安保理は動かず、新しい制裁もないとの教訓を得たと思われる。また、日本のEEZ(排他的経済水域)内に着弾しなければ、日本も反発しないと判断したようだ。

「米国は主敵ではない」の歴史的転換

北朝鮮はこれまで「米国は主敵である」と公式に表明してきたから、対米政策の歴史的転換になる。新政策は、金正恩総書記が10月11日に国防発展展覧会での演説で明らかにしたものだ。この政策転換は、「米帝国主義」を非難した金日成主席と金正日総書記の意向に反する、と軍が反発しクーデターを起こしかねないほどの問題で、米国はなお慎重に真意を見極めている。

金正恩氏(米政府公式flickr:Public domain)

金正恩演説には「米朝首脳会談に応じる用意がある」との意図が込められていた。これに応えるように、シャーマン米国務副長官はSLBM発射の19日に「北朝鮮と既に接触している」と明らかにした。

北朝鮮では、2019年のベトナム・ハノイでの米朝首脳会談の失敗を受け、軍部を中心に「主敵米国に二度と騙されてはならない」との教訓が語られた。米朝首脳会談に応じるには「主敵は米国」の方針を転換しないと、軍部が反発する。金正恩は、今年春から反対しそうな朝鮮人民軍の軍団長、師団長を大幅に入れ替え、ナンバー2の軍事委副委員長を更迭する激震人事を断行した。

SLBM潜水艦搭載は成功したか?

11日の国防展覧会は、最新兵器開発を国民に示して、金正恩総書記の軍への支配力と指導者としての「偉大な業績」を誇示する狙いがあった。金正恩総書記は、指導者の条件である「偉大な業績」が欠けていた。国防展覧会場には、金正恩総書記の写真だけが飾られ、金日成主席と金正日総書記の写真はなく、祖父と父親の権威を必要としない自立を演出していた。

国防展覧会では、大型のSLBMに並んで大幅にスリム化したSLBMが展示されたが、これが今回発射実験したSLBMと見られている。 大型のSLBMは、過去に発射実験の成功が報じられたが、胴回りが太すぎて北朝鮮の潜水艦への収納はまず無理だ、と専門家は分析していた。

今回の発射実験は、そうした専門家の判断を証明するもので、相当にスリムにしないと潜水艦搭載が不可能な事実を認めたわけだ。

それでも疑問が指摘される。潜水艦発射のミサイル実験は、通常は海面に浮上した状態で行い発射確認の写真を公表するのに、それがなかった。発射後に、海面に浮上する潜水艦の写真しかなかった。

文在寅はメンツ丸つぶれ

北のSLBM発射で、文在寅大統領はメンツを失った。大統領はSLBM発射直前まで、米朝首脳会談実現と朝鮮戦争終戦宣言に応じるように、米国説得に涙ぐましい努力を重ねた。これに北朝鮮は「余計なことをするな。韓国の仲介はいらない。米朝で直接やる」とのメッセージを送ったのだ。ここ数週間、韓国政府高官は韓国で日米韓三国の情報責任者会合を開催し、米国で北朝鮮担当高官会議を開いたうえ、韓国政府高官も別途米国を訪問した。

北朝鮮は、これらの高官会合の日程を狙いSLBMを発射し、文在寅大統領の顔に泥を塗ったことになる。

※クリックするとAmazonページへ
東京通信大学教授/早稲田大学名誉教授

関連記事

編集部おすすめ

ランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事