日本の教育2030 #2 社会が変わっても「仕組み」を知れば怖くない
楽園がなくなっても生き抜くために- 連載2回目はバカロレア教育が重視する、物事の「仕組み」を知ることに着目
- 既存の仕組みが産業構造の崩壊とともに壊れる時代。仕組みを知る意義を考察
- 「仕事がない時代」は絶望の時代か?新たな仕事が生まれる可能性を示唆
「仕組み」を知ることの強みとはなんだろうか。
それは仕組みが分解された時に、真価を発揮することだろう。物事の「仕組み」を知る。バカロレア教育ではこのことが重視されているという。

バカロレアを実施する小学校には、小学校課程(PYP)に理科と社会がないのだという。理科的要素と社会的要素をあわせたひとつの「探求の単元」として学ぶからだという。
ここでは、理科と社会を別々に学ぶのではなく、ひとつの物事の仕組みを、あるときは科学的に、あるときは社会的な「仕組み」を視点から多面的に捉えるのだという。
「例えば『水』を学ぶ単元では、自然科学的なアプローチから自然のなかを循環している水の仕組みを学ぶ。社会科学的な視点からは、公共システムの中で循環する水を探求していく。
その中で世界には有限の資源があることや、人間は、これらの資源を共有しながら生きているという事実に理解を広げていくのです」(英数学館小学校校長永留聡氏)
必要なのはこうした身近なものの仕組みを知ることだ。仕組みが変わるこれからの時代、ブラックボックスに無頓着であっていいわけがない。知らないでいると傷つくのは自分だ。
サラリーマンが知らない“ブラックボックス”
バカロレア教育を実践する英数学館小学校には、様々な掲示物がある。
見学していてひときわ目を引いたのが、子どもたちが電化製品の内部構造(ブラックボックス)の仕組みを説明していた絵だ=写真、筆者撮影=。
子どもたち自身が電気製品の動く仕組みを、図解をもちいてブラックボックスを解き明かしているのだ。
ブラックボックスとは本来、電化製品で隠れている仕組み(ブラックボックス)のことを指すが、社会全体の仕組みにもブラックボックスは多数存在する。だが世の中の大半の人は、社会の仕組みを知らない。身近なものでさえも、その仕組みについては隠されている。何も知らなくてもよいとされているのだ。
これまでの日本のサラリーマンは、そんなブラックボックスを解き明かそうとしなくても生きていけた。税金、社会保険の支払い、老後の年金に至るまで会社が代行してくれた。サラリーマンは社会を知らない。会社とこの制度の背景にいる国家がいて、庇護に守られてきたからだ。
今ある6割の職業は子どもたちが大人になっている頃には無くなる。米デューク大学の研究者であるキャシー・デビッドソン氏は「2011年にアメリカの小学校に入学した子供の65%は大学卒業時に今は存在していない職業につく」と予測した。
仕事が無くなるという話が話題になると「それは海外だけのこと。日本は変わらない」という人も日本には多い。確かにこれまで日本企業は従来と何も変わらなかったのは事実だ。
いずれは技術の進展によって重厚長大産業を由来にした日本のピラミッド型組織構造はフラット型に変わっていくだろうと20年ほど前から予測はされていたが、日本では相変わらず維持されてきた。
この国には規制や補助金など、既存のシステムを維持する装置だけは潤沢にある。仕組みは、長い間維持されてきたのである。
それだけでなく、派遣社員や子会社社員など既存のピラミッド構造の下部が増えた。パイは減る中組織だけは拡大していったのである。
もはや「楽園」はない
「サラリーマンは気楽な稼業」ではなくなり、既存の仕組みは既存の産業構造の崩壊とともに崩れていく。
そういうと「我が子は公務員にしたい」と思う親がでてくるが聖域は存在しない。「安定」の最後の砦といわれてきた公務員ですら、今すでに「公務員試験」を廃止して、副業を推奨する自治体まで出てきているのだから。
「地上の楽園」はどこまで維持できるのだろうか。仮説として予測できる未来があるとするなら、既存の社会システムがその重さに耐えかねて維持しきれなくなり、破壊を迎えることだ。
歴史的に政治体制をみても、社会主義的な組織の仕組みは自壊していったものだ。
さらに旧来型の組織は、第4次産業革命で決定的に破壊されるとされている。なぜならフィンテックの本質が「中抜き」だからである。
ピラミッド型組織の中で上位にいられた「管理職」という仕事は無くなることになる。その証左にメガバンクはいま、数万人規模のリストラ計画を進めている。

銀行がこれほど店舗売却、ATM撤退を急いでいるのはなぜだろうか。それはフィンテックによって銀行という「管理者」が必要なくなることに気づいてしまったからだ。
ブロックチェーンなどの技術革命は近い将来あらゆる業界の収益構造を変化させる。そしてそれは、子どもたち世代の話ではない。大人の世界でこれから起こる現実である。
「仕事がない時代」は絶望なのか?
日本経済の先行きの不安を表しているのか、子供への詰め込み教育は早期化する一方だ。日本の子供は睡眠時間も世界的にみても極端に少ない。
小学生を対象にした「夜寝る時間と睡眠」に関するキッズニフティのアンケート調査(2020)では、小学生の就寝時間は10時が最も多く、深夜12時をまわっている子供も3割弱にのぼっていることが判明している。
欧米の小学生の就寝時間が7時間であることと比べると、極端に日本人の子どもたちが寝ていないことがわかる。
睡眠時間の原因は「勉強のため」だという。だが、睡眠不足であれば当然ながら、考える力は無くなる。
睡眠不足は体力も心も蝕んでいく。なぜこれほど日本人は余裕を失っているのか。
そもそも「仕事がない時代」は本当に絶望の時代なのだろうか。正確にいえば、今ある職業が消えるだけで、それは同時に新たな仕事が生まれる可能性を示唆している。
そもそも、リストラの語源もリ・ストラクチャー(再構築)だ。破壊のあとには、創造が生まれる。長期的に見れば悪いことばかりではないだろう。
子どもたちが生き抜くため本当に必要な教育とは何だろうか。未来を作るために、改めて問い直してみたい。
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