政府は「脱中国」を支援せよ!ビジネスの専門家が指摘する「経済安全保障」の盲点

【連載】『経済安全保障リスク』著者、平井宏治氏に聞く #3(最終回)
ライター・編集者

(編集部より)経済安全保障を巡る新しい動きが日経新聞の一面トップに載ることも珍しくなくなってきた。ビジネスの現場からどう備えるか。新刊『経済安全保障リスク 米中対立が突き付けたビジネスの課題』(育鵬社)で、経済安保の事業リスクについてM&Aのプロの立場から警鐘を鳴らす平井宏治さんに、企業側から見た時の課題や対策を聞くインタビュー最終回。

行政とビジネスの隙間を突かれるな

――日本も2019年に改正外為法を成立させ、投資や提携によって外国企業やその背後にいる国家の意思を受けないよう、対策する姿勢は見えます。ただ楽天・テンセントの例を見ると、すぐさま抜け穴を通過されているように思え、心配です。

【平井】日本の国家安全保障局経済班の担当者が、ビジネスの実務経験に乏しいのではと懸念するのはここです。

アメリカでは、政権が共和党と民主党の間で頻繁に交代し、政府スタッフもそれに合わせて官民の間で職場を移す。つまり政府にいた人間が民間に行き、一定期間を経てまた政府に戻ってくるという仕組みです。これにより、アメリカの役人のトップは政策的な観点だけでなく、ビジネスの現場での経験を踏むことができるのです。

平井 宏治  株式会社アシスト社長
1958(昭和33)年、神奈川県生まれ。早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。1982年、電機メーカー入社。外資系投資銀行、M&A仲介会社、メガバンクの証券子会社、会計系コンサルティング会社勤務を経て、2016年、株式会社アシスト代表取締役社長。1991年からM&A助言ならびに事業再生支援業務を行う傍ら、メディアへの寄稿や講演会を行う。日本戦略研究フォーラム政策提言委員。著書に『経済安全保障リスク 米中対立が突き付けたビジネスの課題』(扶桑社)がある。

ところが日本の場合は公務員試験に受かれば、定年まで同じ役所にいることがほとんどです。もちろん他省庁や民間への出向もありますが、経験としてそれで十分と言えるほどではない。だから民間企業から「問題ない」と言われると、表向きの形式が一見、整っているからと見過ごしてしまいがちなのですが、専門家の目からするとそうではありません。

また、現在は民間技術の輸出の際には、その企業が「軍民両用技術」を持っているかどうかが判断基準になり、経産省がその審査を行っていますが、これも同じ理由で不十分と言わざるを得ません。「転用」が大きな問題であり、武器や兵器の技術に関する審査は、知見のある防衛省の人間に任せるべきでしょう。そうでなければ、いくら法律を作っても、抜け穴ができてしまう。私は今、この点を最も恐れています。

対中ビジネスは行くも退くも地獄

――一方では、対中ビジネスの締め付けを行う旗が振られている。しかし一方では、今でも「中国13億人市場」にビジネスチャンスを見出す企業人がいます。

【平井】対中ビジネスのリスクは以前に比べれば理解されてはきました。しかし「何とかギリギリまでタイミングを見て、これ以上は危険だというところまではビジネスを続けたい」と思う企業もあるでしょう。

また、実際に中国からの撤退を決めても、機械や施設という「財産」を置いていくよう当局から迫られるなど、圧力をかけられる事例には事欠きません。そうなると企業としては、引くも地獄、引かぬも地獄という状況に追い込まれてしまいます。

日本が本当に国を挙げて経済安全保障に乗り出すのであれば、例えば中国撤退を決めた企業に「撤退費用」を出すとか、財産放棄で生じた損失を補償する、同額を減税するなどの施策を打つべきです。国が率先して企業の「脱中国」を支援する動きが必要だと考えます。

――欧州は人権の観点から「脱中国」の動きを見せています。

【平井】ウイグルでの強制労働、奴隷労働の問題ですね。安価な「新疆綿(コットン)」が問題視されていますが、価格の安さが奴隷的な強制労働によるものとみなされれば、消費者も離れてしまう。西側諸国の「人権重視」の流れは止まらないのではないでしょうか。人権問題に保守もリベラルもない。日本もこの点での意識をもっと高めていかなければなりません。

中国国旗とウイグルの旗(Achisatha Khamsuwan /iStock)

中国の「狙い」は明らか

――政策的なアプローチだけでなく、世論形成も大事ですね。

【平井】はい。岸田政権下では、経済安全保障に詳しい小林鷹之氏が初代担当大臣になりました。中国との関係でビジネスを重視しがちな経産省には萩生田光一氏が大臣として座りました。同様に、自民党内でも問題に詳しい甘利明氏が幹事長、中国への警戒を怠らない高市早苗氏が政調会長と、かなり強力な布陣になりました。

中国の狙いは明らかです。

端的に言えば「経済安全保障」とは武器を使わない戦争のことで、経済の流れの要所を中国が抑えることで影響力を持ち、相手国に圧力をかけたり、優位に立ったりし、さらにその経済力を外交や軍事にも反映させる。まさに中国軍人が2001年に提唱した「超限戦」そのものです。

ビジネスの現場ではまだ中国との付き合いがある人もおり、なかなか直截的なことが言いづらい風潮が根強くあります。その点、私は中国との取引はありませんから、何の忖度もなく警鐘を鳴らしていくつもりです。

(おわり)

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