前澤友作氏が各政党にベーシックインカム実験結果を「提言」、その学術的な価値は?
バラマキ政策論争に一石?ZOZO創業者としておなじみの前澤友作氏が26日、ツイッターを通じて10億円の私費を投じたベーシックインカムの社会実験の結果を公表し、各政党代表への「提言」としました。ベーシックインカムを公約に掲げる国民民主党の玉木代表や日本維新の会の松井代表がこれに返信。
研究協力として関与した大学教授らの経歴も公開されており、学術畑の人間からは論文での公開の期待が高まっています。なぜならば現時点で公開されている情報は、実験結果の実像に迫るには不十分だからです。これらは論文という形式であれば必ず記載しなければならない情報で、著しく不足していれば査読者からリジェクト(掲載拒否)の判定を下されます。
(参考)前澤式ベーシックインカム社会実験 (yusakumaezawa.com)
調査票・実験デザインは秀逸
「前澤式ベーシックインカム社会実験」は経済学専門家らが関与していることもあり、実験計画部分である調査票項目選択や給付対象者のグループ分けに関して妥当性の高いものとなっています。
アンケート調査票では学歴や年収といった、一般的な社会統計学に求められる要素を網羅。給付方法も3通りに分けられ、ランダムにグループ分けがされているようです。これは正しくランダム化比較研究の手法で、原著論文としては最高のエビデンスレベルに当たります。
(参考拙稿)感染拡大と戦う武器、社会統計学の教育について(アゴラ)
不十分な部分はフェアな指摘を
一方で受給しないグループは後から追加募集したものと思われ、各グループのサンプル数にも大幅な違いが見られます。より厳密なランダム化比較研究であれば、応募した中から受給者と非受給者に分ける必要があります。
給付を期待して応募した母集団と、社会実験に関心をもち給付なしで参加した母集団の「属性」、例えば平均所得や就労形態などは異なる可能性があり、それぞれ独立したグラフを作成した上で比較検討したいところです。
またアンケートの回答率というのも重要で、大幅に返信率が低い場合は集団の属性に偏りが生じている場合があります。特に受給しないのにアンケートを返信してくれる人というのは希少であるため、全てのデータを揃えることができたサンプルが何名であったかは必要な情報です。
多様な解釈可能な興味深い結果
分析結果に関して論文未発表のためごく一部の公開であると考えられますが、既に40才以下が6割を占めていること、約半数が未婚であること、会社員が約4割であることがわかっています。
意識変化においては起業と結婚の意欲向上がありましたが、これは受給者に会社員という定額所得者が多かったためと推察できます。
100万円を起業資金としてか、準備期間中の生活費の確保として見られたかは更なる解析が必要です。起業資金の確保であるならば政策金融公庫で最大1000万円の創業融資があるので、どちらかと言うと生活保護制度や失業保険でカバーできない準備期間中の生活費としての意義が大きいと考えられます。
また離婚率が低下することについては、本来のベーシックインカムが夫婦それぞれに定額給付がある一方で、前澤氏の社会実験では夫婦のうち一方が定額給付をうけたという相違が指摘できます。おそらく世帯所得の向上という形で離婚率をさげたのではないかと推察されます。
政党代表の皆様へ@kishida230 @yamaguchinatsuo @edanoyukio0531 @shiikazuo @gogoichiro @tamakiyuichiro @yamamototaro0 @mizuhofukushima @tachibanat
1000人に100万円を個人で配った調査結果を共有します。
お金はどう配るかが大切そうです。
僕は宇宙から配ります。https://t.co/paotLP7oZE pic.twitter.com/pfK9WDdGAR— 前澤友作@MZDAO (@yousuck2020) October 26, 2021
社会実験として高い価値
今後前澤氏の社会実験が論文化すれば、様残な角度から多角的に検証・批判的吟味をすることができるようになります。前澤氏の私費を投じた挑戦は、慈善事業というより研究寄付として価値が高く、大いに評価されるべきです。
例えば高度経済成長期を除き、官民ファンドや公営事業は構造的に赤字となることが殆ど。岸田首相が掲げるような政府主導の経済成長、労働者の所得向上には限界があります。
実際官営ファンドが関与したジャパンディスプレイは赤字体質を改善することなく、2019年には中台企業連合からも出資を渋られるというありさまです。
(参考)日の丸液晶JDIで思い知った、「変わらない」という大企業の病:日経ビジネス電子版
「前澤式」成果をどう生かす?
例えば創業融資は政策金融公庫から受けられたとしても、起業や転職というリスクを選んだ本人とその家族の生活保障は、現時点の社会保障制度ではカバーされていません。
雇用維持や産業投資に関わる予算を、起業やスキルアップによる人材の流動化・再配置のための一時金へと変えていくのは、有効な施策かもしれません。
例えば既存制度である一時生活再建費(上限60万円)などを活用しやすくし、確定申告に基づき一定割合で返済不要にする等とすれば、前澤式ベーシックインカム社会実験の結果を活かすことができるのではないでしょうか。
各政党が求めるような大規模なベーシックインカムではなくてもできる、現実的な経済政策を兼ねるセーフティネットの再構築を検討すべきです。
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