日本の教育2030 #3 大学入試が問う「知」とは
暗記力から思考力へのシフト- 連載最終回は、日本と海外の大学入試の違いから「知」の評価を論じる
- マークシート方式、暗記力重視の日本型では、AIの時代に通じなくなる
- バカロレアは思考過程、個人の達成度重視。日本でもできることは?

「知」の評価基準、海外と日本の違い
『オックスフォード大&ケンブリッジ大学 世界一考えさせられる入試問題』(ジョン・ファーンドン著 河出文庫)ではイギリスの名門である両大学の入試問題が紹介されている。
「運命とはなんですか?」(古典学、英語英文学)
「蟻を落とすとどうなりますか?」(物理学)
「歴史は次の戦争を止められますか?」
「なぜ海には塩があるのですか?」(生化学)
「あなたならりんごをどう説明しますか」(社会学、政治学)
「火星人に人間をどう説明しますか?」(医学)
「毛沢東主席は今日の中国を誇りに思っただろうと思いますか?」(東洋研究)
「コンピューターは、良心を持つことができるでしょうか?」(法学)
これらの問いに、答えようと思うとアタマがぐるぐる回転してしまいそうだ。これらは一体、どんな力を測ろうとしているのだろうか。
同著によると、問われるのは暗記力ではなく思考の過程なのだという。
いわゆる「正解」を出す力ではない。こうした設問をみていると、海外における「知」の評価基準と、暗記主義の日本のそれは、まるで違うということがわかってくる。
「考える力」評価に戸惑う日本

日本の教育でも変化の兆しがないわけではない。今年度から従来の大学入試センター試験は廃止され、「大学入学共通テスト」というものが実施された。
ところが、当初は、思考力や表現力を測る記述式を導入されるはずだったが、採点システムにおける公平性の確保などに、疑義がかかって見送られたという。「考える力」という目に見えない力を測ることは確かに難しそうだが、日本は戸惑っているのだろうか。
現実的には試験において教師側が生徒たちの考える力を、どう客観的にかつ公平に評価するのかについては課題はあるだろう。
教師の立場にたてば、生徒の評価をマークシート式でやるほうが手っとり早いのだろう。ただ手っ取り早さという大人たちの都合のために、日本人の思春期の貴重な時間が犠牲になっているのだ。
バカロレアがめざす人間像
日本であたり前になっている相対評価は、そもそも意味はあるのだろうか。点取りゲームで暗記力ばかりで勝負する能力が実社会で本当に役に立つのだろうか。
なにより、AI社会になれば、真っ先に切り捨てられる能力でもある。そんな特殊な能力の育成にばかりに特化する日本を続けて、どんな未来が待っているというのだろのか。
ところで、バカロレア(IB)教育のような世界基準の教育カリキュラムでは、こうした強化という課題にどう対処しているのだろうか。
バカロレアでは、そもそも偏差値が存在しないのだという。偏差値のような自分と他人と比べる相対評価がそもそも存在しないという。評価基準は個人の達成度でもって測るという。
その評価基準はユニークだ。バカロレアでは予め『IBの学習者像』という、目指すべき10の要素を持った人間像を、あらかじめ明示しておくというのだ。
「探求する人(Inquirers)」「挑戦する人(Risk-takers)」など、バカロレアで理想とされる人物像があり、その人間像に近づくために努力するよう仕向けるのだという。年齢に応じたゴールがあるという。生徒はその達成度で加点される。評価基準は明確なのだ。

社会での「課外活動」が評価に繋がる
IB教育では高校3年生の11月に「世界統一テスト」というものがあり、数日間に渡って試験があるという。そこで取った点によって、入学出来る大学のレベルが決まるというののだ。
「ただ、世界統一テストが仮に満点だとしても、高3で卒論を書かなければ大学には合格できません。CASという実社会での課外活動も評価の中に入っています」(日本でバカロレア校の立ち上げに3校関わった永留聡・英数学館校長)
CASというのは3分野の社会活動のことで、社会での“課外活動が進学の条件”ともなっている。舞台に出演するなどCreativety(創造性)、運動部などのスポーツ活動のAction(活動)、社会奉仕活動を示すService(社会奉仕)だ。
この一つの活動を最低でも週3時間する必要があるという。学校外の活動も評価に入るというが、こうした大学入学にいくには、まず「社会性」が問われるというのである。
「借り物の意見」が入り込めない仕組み
IBでは日本のような定期テストもないという。そのかわり日常的なレポート提出やプレゼンが評価の対象になるという。
ただこうした提出物というのは、引用ですませたり、第三者が書くというようなリスクも伴いそうだ。そういう可能性はないのだろうか?
「他人の意見の引用はいいけれど、コピーはいけない。IBのレポートでは、盗用率15%以下というルールがあり、専用のソフトで機械にかけ調べます。またレポート提出では、企画の立ち上げ時から完成までの記録を動画で撮って、すべてを記録しておきます。それをシンガポールのIB支部に送って、チェックしてもらうのです。その過程には、借り物の意見や主観的な評価の入る余地など、全くありません」(同)
工夫すればこうしたやり方は、日本でも取り入れられるのではないだろうか。
「生徒と同様に、教師も必然的に学び続けなければ、このシステムは維持できません。生徒とともに、教師も学んでいかなければならないのです」と永留氏は語る。
もっと、日本の教育は子どもたちの能力を伸ばすことに寄り添ってもいい。
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