テザーというステーブルコインが、ビットコインの足をすくうかも?
利便性と背中合わせの「巨大」リスク- 注目のステーブルコイン「テザー」が、暗号資産(仮想通貨)市場全体の不安要因に
- 送金時の価格変動リスク回避などが人気だが、発行会社につきまとう疑惑が…
- 規制当局の動きによっては取り付け騒ぎとなり、仮想通貨市場全体が揺らぐリスク
ビットコインは、9月24日の中国の暗号資産全面禁止のショックを乗り越え、10月19日のニューヨーク証券取引所でのビットコイン先物ETF(上場投資信託)発行開始でさらに勢いづき、ついに10月21日には6万6000ドルを超えて史上最高値をつけた。その後やや反落しているが、依然として高値圏にある。
しかし、その一方でビットコインを始めとする暗号資産(仮想通貨)市場全体が大きな黒雲に覆われ始めていることに注意が必要だ。
その黒雲の正体は「テザー」というステーブルコインだ。ステーブルコインとはビットコインなどのように市場の需給によって価格が大きく変動するのではなく、その価格がドルや円、あるいは金などの価格に固定されるように仕組まれた暗号資産のことだ。テザーの場合は1テザー(USDTと単位が表記される)がほぼいつも1ドルで売買されている。
テザーが人気になった理由
2014年に発行が開始されたテザーは、2017年ごろから発行額が大きくなり、昨年以降コロナ禍で暗号資産取引全体が活発化する中で、テザーの発行も急増し、特に今年は年初からこれまでにテザーの時価総額は3倍以上に膨れ上がっている。今やテザーの時価総額は700億ドル(約8兆円)に迫り、全暗号資産中第5位となり、規模で比べると日本でいえば大きめの地方銀行の預金量ぐらいの大きさになっている。
しかし、ビットコインのように価格が大きく変動する暗号資産なら投機目的で購入する人が増えるのは分かるが、価格が1ドルに固定されているテザーがこんなに人気があるのはなぜかと思う人も多いだろう。
ビットコインなどでは送金をする際に価格変動によって思わぬ損失を被る心配があるが、テザーにはそれがない。実際、昨年夏ごろから中国の人民元を使って大量のテザーが購入されたが、その多くは厳しい外貨の国外持出し規制を迂回するためだったと言われている。テザーなら銀行や送金業者の窓口に行かなくても、また対ドルの為替変動を気にせずに、スマホをタップするだけで世界中どこにでも送金できる。
またビットコインやイーサリアムなど価格変動があるコインを買う際にあらかじめテザーを買っておいて、最適なタイミングですばやく他のコインに替えることもできるし、暗号資産取引所によってはドル預金口座を持っていないため、暗号資産の購入に当たってドルではなくテザーの使用が絶対必要になるものもある。
発行会社につきまとう疑惑
しかし、テザーにはこうした大きな需要がある一方で、ビットコイン相場のつり上げに使われているとかマネーロンダリングの手段となっているなど、様々な悪評ないし疑惑がつきまとっている。

こうした数多くの疑惑の中でも最大の疑惑が、テザーを発行するテザーホールディングス社(以下「テザーHD」)が、テザー発行の対価として受け取ったドルを、テザーの払い戻し請求があった時にこれに応じるための準備資産として蓄えておくのではなく、他の目的に流用しているという疑惑だ。
これを裏付けるかのように2019年4月ニューヨーク州司法長官は、テザーHDの実質的なオーナーが自分の所有するビットフィネックス(BITFINEX)という暗号資産取引所の損失850万ドルの穴埋めにテザーHDの準備資産を流用したとして裁判所に提訴した。
本件は今年2月に、テザーHDとビットフィネックスが1,850万ドル(約21億円)をニューヨーク州に支払い、一定期間定期的に準備資産の状況を報告するとともにニューヨーク州で業務を行わないことを約束して一応収まった格好となった。
そしてこうした経緯から今年8月、テザーHDの依頼を受けた会計事務所がテザーHDの6月末現在の準備資産の状況報告書を監査してその結果を公表した。
それによれば、テザーHDはテザーの発行額を上回る準備資産を持っている形になっているが、現預金の比率は約10%と多くない。また高格付けのものが多いとはいうものの無担保の短期の社債であるコマーシャルペーパーと譲渡性預金を約49%保有しているなど、1テザー=1ドルを保証するための準備資産としてはリスクの高い資産を多く含んでいることが明らかとなった。
その後さらに10月15日に、2016年から2018年ごろのテザーHDの準備資産の状況を調査していたアメリカの商品先物取引委員会(CFTC)が、テザーHDは準備資産の27.6%しかドルの現預金を保有していなかったが、そうした重大な事実を明らかにせず、偽りないしミスリードな発表を行う等の法令違反を犯したとして、テザーHDに4,100万ドル(約46億5千万円)、ビットフィネックスに150万ドル(約1億7千万円)の罰金を課した。
市場全体が揺らぐ危険性
しかし、こうした司法当局や規制監督当局からの締め付けにもかかわらず、依然としてテザーHDはどこの銀行に預金を置いているか、どこの会社のコマーシャルペーパーを持っているかといった具体的なことは一切公表を拒んでおり、このことがテザーに対して疑念を抱く人々をますます疑心暗鬼にしている。
今後何事も起こらなければテザーは安泰だろうが、何かテザーに対する投資家の信頼を揺るがすような事件が発生すると、銀行の取り付け騒ぎと同じくテザーをドルに換金する人がテザーHDに殺到する可能性は否定できない。

銀行などの場合は、財務状況を規制監督当局に定期的に報告し、当局も必要に応じて検査を行って財務の健全性は常にチェックされている。
しかし、テザーHDのようなステーブルコインの発行体には、こうした規制監督当局そのものが存在しない。テザーHDはタックスヘイブン(租税回避地)のイギリス領ヴァージン諸島に置かれており、上述の準備資産報告書を監査した会計事務所も同じくタックスヘイブンのケイマン諸島に所在している。
仮に、資産が約700億ドル(約8兆円)の規模を持つテザーHDが取り付けにあって破たんしたら、テザーの保有者が損失を被るだけでなく、テザーを使った暗号資産取引が盛んなことから、ビットコインなどの暗号資産市場全体が甚大な影響を受ける可能性がある。また、テザーHDが換金のために保有するコマーシャルペーパーなどを投げ売りすると債券市場などにも大きな影響が出るかもしれない。
このようなリスクを抑えるために現在バイデン政権は、テザーを始めとするステーブルコインに対して規制をかけようとしているが、規制の内容が厳しすぎると政府の意図とは逆にテザーから一気に資金が流出して、暗号資産市場全体が揺らぐ危険性もあり、当面アメリカ財務省等の動きは要注意だ。
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