こちらも「一人勝ち」朝日新聞、情勢調査報道で的中も、立民・枝野体制にはもっと厳しく

数学の専門家擁し本領発揮
報道アナリスト/株式会社ソーシャルラボ代表取締役

今回の衆院選で話題になったのが、大手メディアの選挙情勢報道にバラツキが目立ったことだ。フジテレビなどのFNN系は31日夜の特番冒頭で「自民、単独過半数割れ」との予測を提示(単独過半数は233)。実はほかにも共同通信なども夕方の時点で自民が単独過半数を割り込んで220台に沈む見立てが永田町界隈で取り沙汰された。

撮影:編集部

際立つ朝日の「独自」予測

選挙戦最終週になっても、産経新聞が投票2日前に「接戦区で立民優勢、自民苦戦」、読売新聞も同日「自民党は単独過半数が微妙な情勢」とそれぞれの見立てを報じたように、自民の議席減を前提に厳しめの予測を立てている社の方が多かった。筆者は全ての議席を予測するリソースを持ち合わせてないため、いくつかの注目選挙区の情勢分析で通底する傾向を把握した上で、それらの社の調査も参考に「勝者なき選挙」と予想した。

そうした中で際立ったのが朝日新聞だった。終盤情勢は各社の中で比較的早めの25日に、「自民が単独過半数確保の勢い、立憲はほぼ横ばい」と報じた。この直前、静岡の参院補選で野党候補が逆転勝利したとはいえ、今年夏の東京都議選のように、無党派層が投票日までの最後の3日間にどう動くか読みづらい近年の選挙のことを考えると、いささか「早まった」のではないかとすら思えた。

しかも波紋を呼んだのが調査方式の変更だ。朝日新聞は今回、「選挙区はインターネット調査で、比例区は電話調査で情勢を探った」(記事より)という。旧来型の固定電話に携帯電話を掛け合わせる方式に加える試みは、この10年近く続いていたが、選挙区を全てネットに切り替えたのはなかなか大胆な舵の切り方だ。定量的なデータに加えて、過去選挙の動向把握、現在進行形の情勢への現場記者の取材を加味して「総合的に判断」すると言うらしいのだが、ネットではアンチ朝日の人たちを中心に「朝日ロジックでねじ曲げるのではないか」と言った見方が浮上。果ては、日頃、自民に厳しい朝日が堅調に数字を伸ばすと報じたことで、むしろ「野党支持層に危機感を植え付けて投票させる腹づもりではないか」と言った憶測すら飛び出した。

しかし、先日、筆者が生田よしかつさんの動画番組でも話したように、朝日新聞は新聞各社の中でも随一の調査能力を伝統的に誇っている。10年ほど前のことだが、読売時代に筆者の同期の記者が世論調査部にいた時代、「朝日は統計学を専門的に学んだスペシャリストがいて、この水準に到達するのは簡単ではない」と一目置いていたことを思い出す。

「思い込みでゆがめない」?

蓋を開けてみれば、自民党は議席数は減らしたものの、単独過半数を悠々と確保して261。「公示前の276議席より減る公算が大きいものの、単独で過半数(233議席)を大きく上回る勢い」と見立てていた朝日の予測は見事に的中した。選挙戦の維新のように、報道各社の情勢調査の予測レースでは、まさに朝日の「一人勝ち」だ。

朝日新聞の世論調査のスペシャリスト、前田直人記者(編集担当補佐・コンテンツ戦略ディレクター)は夜明け前のツイッターでこう胸を張った。

朝日新聞の情勢調査は、大まかには外れませんでした。オートコールが主流のなかで唯一、異なる数字が出ましたが、朝日の矜持はあらかじめ準備した予測モデルの数字を、思い込みでゆがめないこと。世論調査部に数学の専門家を擁する朝日ならではの手法です。いずれ理解される日が来ると信じます。

そう。この「数学の専門家」が他社にはあまりいないのだ。数字は嘘をつかないし、「角度」をつけようがない。山本一太群馬県知事も選挙中にブログで、調査方式の精度の高さについて「自民党調査→NHK・朝日新聞→その他」という趣旨の話を経験則に基づいて書いていたが、筆者も全く同意だ。改めて「調査の朝日」の凄みに脱帽させられた。

ところが朝日がいただけないのは、せっかくいいデータを集めても、肝心要の論調がアレでは、新聞の質を損ねてしまうのではないか。旧知の他社記者のSNS投稿で知ったのだが、この日、朝日の朝刊早版の見出しの一つが「立憲、共闘に一定の成果」だったそうだ。画像も現認した。デジタル版では最終版の見出しに修正されていて、現在は「立憲後退、共闘生かせず」となっているが、もしかしたら新聞制作の途中で、自民・甘利幹事長を選挙区落選に追い込むなどした時点でつい力が入ってしまったのだろうか(笑)。

本音ベースでは贔屓の政党であっても、機関紙ではないのだから、読売が「惨敗」とまで見出しにつけた枝野体制に「総括」を迫ると言うのが“育ての親心”ではないのか。枝野氏は頰被りして代表職を続投しようと言うのだから、これでは党全体で求心力が生まれようがあるまい。野党第一党が無責任体質では、自民党に対峙しての緊張感ある政治は遠い夢になってしまう。

いずれにせよ、朝日新聞のデータ解析能力は報道各社随一のものなのだから、前田記者が「思い込みでゆがめないこと」と語ったように、論調のほうも、妙な角度の付け方をせず、表層的な「反権力」ありきではなく、本質を射抜くような報道にシフトしていただくことを引き続き期待している。

【追記】共同通信は27日時点で記事化していたときには「与党、絶対安定多数が視野に」と報じている。朝日の「一人勝ち」は言いすぎではないかとの意見があるようだ。ただし、共同が当日行った出口調査で自民の減少幅が大きい情報が入っては来た。実際振り幅は共同の方が朝日より大きい(自民議席予測は共同が「218〜297」、朝日が「251〜279」)。朝日は新しい調査方式に挑み、共同より早い段階で見極めて当てに行った結果を出しており、精度の高さで上回っており、そこも含めて評価を変えるものではない。

 
報道アナリスト/株式会社ソーシャルラボ代表取締役

関連記事

編集部おすすめ

ランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

人気コメント記事ランキング

  • 週間
  • 月間

過去の記事