日本人が苦手な”賄賂の誘い”の断り方とは?
「書面でいただけますか?」具体的な文言集世界中で賄賂の誘いに巻き込まれる日本企業。前回は、三菱日立パワーシステムズ(現在は三菱重工の一部門)の役職員3名が、タイの港で資材の荷揚げ時に現地の公務員から難癖をつけられ、賄賂を払ってしまったことで、のちに日本で懲刑や罰金を科せられた話をしました。
日本企業の役職員たちは、賄賂要求に負け、払ってしまったことで懲役を課されてしまったわけですが、実際のところ、現地の公務員から賄賂の誘いがあった際には、どう対応すべきだったのでしょうか?賄賂を断ってしまえば、荷揚げすらさせて貰えない、工事が止まるかもしれないのです。ガバナンスを守るために、企業は工事の中断を受け入れるしかないのでしょうか?
賄賂の多い現地の人たちはどうやって対処してるのでしょうか?賄賂を払うのが当たり前なのでしょうか、それともなにか別のうまい断り方があるのでしょうか。

腐敗をなくすための国際NGO、トランスペアレンシー・インターナショナルでは、2017年に、アジア各国で大がかりな調査で「賄賂をなくすために、何が一番有効だと思いますか?」という質問をしました。
あなたなら何を挙げるでしょうか?読者の方も考えてみてください。
アジア平均で一番多かった回答は、「断る」が21%でした。
「断る」と回答した人の率は、モンゴルで49%、インドネシアで33%、インドで30%、タイで23%、マレーシアで17%、ミャンマーで10%でした。
ところが、日本ではわずか5パーセントでした。
他の回答としては
アジア平均 | 日本 | |
告発する | 22% | 8% |
選挙で清廉な候補に投票する | 6% | 7% |
マスコミに流すなど、表沙汰にする | 4% | 2% |
家族や友人に話す | 4% | 1% |
請願に署名する | 2% | 0% |
腐敗防止機関に入ったり支援する | 3% | 1% |
デモに参加する | 2% | 0% |
断れない日本人は“カモ”

賄賂の少ない環境で暮らしている日本人の回答が、アジア平均と大きく違うのです。日本人が断ることに慣れていなくて、対処しないままでいる様子が浮き彫りになりました。賄賂の多いアジアの国の人々の考える、賄賂をなくすために有効なこととは、単純に「断る」ことなのです。
逆に各国ビジネスマンに接する機会の多い、汚職度の高い国々の空港や港湾、税関、許認可窓口の職員からみれば、日本人は賄賂を断ることが驚くほど少ない、あるいは断り慣れてない“カモ”なのです。
しかも日本企業は巨額事業を運営している“お金持ち”でもあります。賄賂要求の機会を窺う悪人なら、必ず賄賂を吹っかけてみたいと思う相手なのです。日本企業や日本人ビジネスマンはこのことを自覚して、賄賂は要求されるものだと覚悟を決めて、断る練習をしましょう。
トランスペアレンシー・インターナショナルでは国連開発計画(UNDP)や経済協力開発機構(OECD)、途上国政府と協力し、賄賂の断り方を研究しています。その成果物の中から、賄賂の断り方をご紹介しましょう。
賄賂を要求されたら、とにかく断ってください。断るのが難しい時は、相手の外国公務員にとって面倒なやり方になるように答えましょう。
「この支払が必要な理由を教えてください」
「書面でいただけますか?」
「あなたの上司とお話できますか?」
「お名前とご所属を教えてください(空港や警察など)
「私には予算外のお金を払う権限がありません」
「予算外の支払いについては上司に相談しなければなりません」
「特別な扱いや便宜は要りません」
「公的な領収書をもらえますか?」
「当社にはたいへん厳しい贈賄防止指針と職員規定があり、もし違反したらクビになってしまいます」
「この事業は、外部の監査事務所の監査(あるいは税務調査、会計検査)を受けるので無理です」
出典:Business Integrity – A handbook for Myammar Business, 2020 (筆者訳)
それでも、本当に賄賂を払わなくて、大丈夫なのかと気になる方はいるでしょう。
30~45日間を超えれば通常の対応に

少し古い調査になりますが、2007年にアメリカの非営利団体、TRACE(民間企業の腐敗防止支援協会)が、ビジネスマンを対象に、少額の賄賂を断った場合に、その後のビジネスにどう影響したかを調べました。すると「30〜45日間は手続きが遅れたり、通常とは違う官僚主義的な応対を受けたりする。けれども、その後は大なり小なり通常の対応に戻った」という結果がでました。
日本企業の担当者に聞いても、似たような回答が返ってきます。なぜなら、賄賂は要求する側にとっても犯罪であり、大きなリスクなのです。世界中のほとんどの国で、公務員が賄賂を要求することは、その国の刑法で違法です。さらに、2003年にニューヨークの国連総会で国連腐敗防止条約が採択され、今では世界のほとんどの国、182か国が締結し、贈賄罪として取り締まりが強化されました。
賄賂に応じないからといって、多少の嫌がらせを受けても、長く手続きを止めてしまえば、現地経済のとっても心待ちにしている事業が止まってしまうので、おおごとになります。そして、収賄が発覚した公務員には重い懲役刑が科されます。日本企業から収賄をしたベトナム交通局の職員は、懲役75年となりました。現地の悪徳公務員の一存で、日本企業の事業手続きを永遠に止めることなどできないのです。
とはいえ、手続きが30-45日も止まってしまうなんて、待ってはいられないという場合もあるでしょう。そういうときは、どうしたらいいのでしょうか。
続きは次号で。
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