ミャンマー「クーデター報道」に決定的に欠けているもの
国軍の真の狙いは何か- ミャンマーのクーデター、歯切れの悪さが目立つ日本のここまでの対応
- 日本のメディアも政府への追及姿勢も不十分、国軍の狙いも追いきれず
- 弾圧のアプローチを探る上で参考になるのがスリランカ政府の内戦
ミャンマーのクーデターが勃発して3か月。欧米各国が人権外交で厳しい対応をする中で、日本政府の対応の鈍さが国内外で議論を呼んでいる。現地在住の日本人ジャーナリストも拘束されるなど、事態が切迫しているが、国際情勢に詳しい地政学・戦略学者の奥山真司氏は、日本メディアの報道スタンスにも問題があるという。日本はどう対応すべきか、2回に分けてお届けします。
日本も「他人事」ではないミャンマーのクーデター
ミャンマーが内戦の危機にある。今年の2月1日に起こったクーデターでミャンマー国軍が政権を掌握すると、すぐさま大多数の国民は大規模なデモや不服従運動で抵抗を開始した。だが、それから3ヶ月以上たった今、軍部は国際的な多くの批判にもかかわらず、耳を貸すそぶりもない。
すでに今回のクーデター(正確には軍部の復権――60年代頃に中南米で頻発した「プロヌンシアメント」と定義できるものだが)が発生後、2月19日に首都ネピドーでデモ参加者から初の犠牲者が出て以来、死者の合計は700名、拘束された数も4000人を越えると言われている。
もちろん日本は中国とともにミャンマーに一、二を争う規模で直接投資を行っている国であり、日本企業が400社以上進出しているほか、歴史的にも日本政府とミャンマー軍部との間には、つながり(パイプ)があるとされる。
また、政府を通じた多額のODA(実態は円借款)による資金面などの関係性の深さから見ても、日本はミャンマーの現状を決して「人事」とみなすべきではない。
日本政府の姿勢追及も不十分
4月18日には、現地に住む日本人ジャーナリストの北角裕樹さんが治安部隊によって自宅から連行されている。「偽情報を拡散した」として拘束され、3週間が経とうとしている現時点でも釈放されておらず、日本の頼みの綱であるとされる「軍部とのつながり」も何の役にも立っていないことがわかる。
人権の価値観についても日本の対応は歯切れが悪い。たとえば4月9日に駐ミャンマーの15カ国の大使が共同声明の形でミャンマー軍を非難したが、この声明に日本は加わらなかった。
日本は普段から「民主主義・人権的な価値が大事だ」と連呼しているにもかかわらず、ひたすら弾圧に走り、価値観の蹂躙を行うミャンマー軍部に対して何もできていないし、何もする気がないように見える。
ミャンマー軍の非道や、それに対して実効的な対応を取ることのできない国際社会の歯がゆさを報じるメディアは見られても、日本政府の姿勢を問いただす論調は少ない。
国軍の狙い、メディアが追いきれず
もう一つ、ミャンマー報道には決定的に足りないものがある。それはそもそもミャンマー国軍の狙いや目的、それを達成するための手段はどのようなものであるか、という議論や解説だ。
言うまでもなく、ミャンマー国軍の狙いは、敵対勢力の徹底排除であることは想像に難くない。実際にミャンマー国軍は1988年と2007年に起こった民主化デモを徹底鎮圧したという「成功体験」を持っているため、今回の狙いもここにあることは容易に想像できる。
ただし外から見ている人間にとって見えにくいのは、その目的のためにどのような手段を用いようとしているのかという点だ。もちろん状況証拠的には「メディアの制圧を含めた徹底弾圧」ということになるのだが、それだけではわかりづらい。
そのため、本稿ではこれを明確にするため、インドの下に浮かぶ島国であるスリランカで内戦の勝利のために使われたとされる原則を紹介することで、ミャンマー国軍がどのような弾圧のアプローチを使用しているのかを推測してみたい。
スリランカの参考例とは何か
日本ではあまり知られていない事実だが、スリランカ(戦前は英領のセイロン)では、同国の人口の多数(約70%)を占めるシンハラ人の政府と、北部や東部を土台にしていたタミル人(約20%)が組織した「タミル・イーラム解放のトラ」(LTTE:タミル・タイガース)との間で、1983年から2009年という長期にわたる内戦状態にあった。
歴史的な詳細については避けるが、この内戦はいくつかの停戦を経て、第一次から第四次に至る「イーラム戦争」が行われたのだが、最終的に北部の半島に追い詰められたタミル・タイガー側の最高指導者が殺害され、遺体で発見されたこともあり、2009年5月にスリランカ政府側は内戦の終結を宣言している。
この戦いを指揮したのは現在も同国の大統領をつとめているゴーターバヤ・ラージャパクサであるが、「第4次イーラム戦争」の最終段階における2009年の攻勢の時に使われた対テロ戦略を、インド側の専門誌に自ら語っているものが興味深い。
(続きはあす10日掲載します)
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