ミャンマー国軍、「スリランカ」モデルから見える出方
メディア・情報統制がカギか- 奥山真司氏が今後のミャンマーを占う上でスリランカの内戦対応を指摘
- 国軍を当時率いた現大統領は「8つの原則」で対応。情報統制がカギか
- 日本は欧米の人権外交と同調すべきだが、中国も意識した戦略が必要
ミャンマーに対する外交のあり方が問われる日本。国内メディアについても同様で、奥山真司氏は、前回、「ミャンマー国軍の狙いや目的、それを達成するための手段はどのようなものであるか、という議論や解説が足りない」と指摘する。ミャンマー国軍の今後を占う上で奥山氏が注目するのが近隣のスリランカ軍の対テロ戦略だという。後半はその続きです。
「ミャンマー『クーデター報道』に決定的に欠けているもの」はこちら
“最高の男たちに仕事をさせる”スリランカモデル
前回の結びで、スリランカ内戦で国軍を率い「タミル・イーラム解放のトラ」(LTTE)に勝利したゴーターバヤ・ラージャパクサ(現大統領)が、内戦の最終局面となる2009年の攻勢時に使った対テロ戦略について、自ら「ラージャパクサ・モデル」として、インド側の専門誌に語っているものが興味深いことを述べた。
これを要約すれば「LTTEの支配地域を取り戻し、LTTEのトップリーダーを排除し、タミル人に政治的解決策を与えること」ということになるが、ラージャパクサによれば、これは「8つの原則」によって成り立っているという。具体的には以下のようなものだ。
- 揺るぎない政治意志を持つ
- 国際的な意見を聞かず、目標達成を邪魔させない
- テロ勢力との交渉は決してしない
- 紛争情報に関してはこちらから一方向に伝えるだけ(メディア独占)
- LTTEの完全な敗北を邪魔するような政治介入を阻止する
- 治安部隊に完全な作戦上の自由を与える:最高の男たちに仕事をさせる
- 若手指揮官に任せる
- 近隣にも関与させる(ループに入れる)
これらの原則の大前提にあるのは「テロリズムは軍事的に一掃されなければならず、政治的に対処することはできない」というものであった。
「情報統制」が鍵を握る理由
このアプローチで大きなカギを握るのは、個人的には上記の(4)にあたるメディアや情報の統制にあると感じている。ミャンマーでは、すでに速い段階から夜間のインターネットの通信が遮断されていたが、現在では携帯電話はほぼ使用不可能となっており、3月8日には地元メディア5社の放送ライセンスが取り消しとなった。
これにより、ミャンマー市民だけでなく国際的なメディアも現地で何が起こっているのか、リアルタイムで知ることが不可能となっている。前述した日本人ジャーナリストの拘束も、この方針の延長にあることは明白だ。
実はこのようなメディアの遮断は、アメリカも中南米に介入する際に行っており、CIAが実行したグアテマラやエルサルバドルでの作戦は、自国のメディアを極力排除した形で行われている。苛烈な作戦において最も邪魔になるのは、非人道的なゲリラ戦を世界に発信してしまうメディアの存在だからだ。
一般的な西洋的な感覚からすれば、このようなスリランカ式のアプローチは実に苛烈なであり、ほぼ虐殺(ジェノサイド)に近い手法ではないかと憤る方々もいるだろう。実際にこの手法は国際的にも問題視され、内戦後に国連や人権団体が報告書をまとめている。
ところが不都合な真実として、このような徹底した弾圧は「成功」してしまっているのであり、スリランカだけでなく、ミャンマー国軍自身も似たような成功体験を持ってしまっている。
もちろんスリランカとミャンマーの状況は違う。それでも本格的な内戦の開始が囁かれるいま、武力を持っている軍事政権側が行おうとしている原理・原則は、基本的にスリランカが行ったものとそれほど変わらない。これは容易に推測できるものだ。
日本に迫られる複雑な対応
このような人権的に非常に憂慮すべき事態が進行中のミャンマーに対して、日本は何ができるのだろうか?
ここでも参考になるのは、やはりスリランカである。というのも、日本は人権的に問題のあった内戦中も、スリランカ政府との関係は絶やしておらず、ミャンマーと同じくODAなどを通じて道路や橋の建設、さらには(内戦前ではあるが)総合病院の建設、そして内戦中にも看護学校の創設などを進めている。
もちろん日本が進めているとされる人権・価値観外交において、ミャンマー国軍の行っている弾圧に対しては、日本も欧米などの価値観をともにする国々と足並みをそろえ、積極的に非難をすべきであろう。とりわけスリランカ式の虐殺的アプローチがとられるであろう状況下では、なおさら人権侵害を訴えていくべきだ。
一方で、豊富な労働力と潜在的な大きな市場から「アジア最後のフロンティア」と呼ばれるミャンマーの利権をめぐって中国と争わねばならない「地政学な現実」があることも事実だ。
日本は今後も「二重規範の外交」と批判されながらも、粛々と人的交流は続けるであろうし、またこうした関係を戦略的に続けるべきなのかもしれない。
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