外国人に住民投票権付与、武蔵野市長の「騙し打ち」不透明行政ゴリ押しの構造
政治的背景にやっぱり君臨するあの政治家東京都武蔵野市の松下玲子市長が12日、外国人に在留期間などの要件がなくても住民投票の権利を与える条例案を打ち出したことが波紋を呼んでいる。松下氏は、実質的な外国人参政権を懸念する声に対し「代表者を選ぶ選挙権とは違うので論理の飛躍」と反論した上に、産経新聞によると「夫婦別姓制度を実現すると『家族が壊れる』と言っている人に似ている」などと、明らかに保守層を念頭に挑発的な言動すら見せたようだ。
この問題、筆者は2つの問題点があると見ている。
なお、松下市長やその支持層から見ると筆者は“ネトウヨ論客”にカテゴライズされてるかもしれないが(苦笑)、筆者はトラディショナルな保守層とは異なり、選択的夫婦別姓にも中身次第では賛成だし、地方自治の外国人参画に関しては厳格な条件をつけた上でなら全面反対するものではない。

問題の一つ目は情報開示のあり方、行政の透明性で疑義が大きい点だ。
この問題は産経新聞が会見前夜の11日夜に特報して騒ぎが始まった。筆者も含め報道で知った人の方が世の中は圧倒的に多いのだが、産経の初報によれば、「10月の市長選で公約に掲げた肝いり施策」という。しかし市長選当時からその産経も含めて報道した形跡はない(日経テレコンで読売・朝日・日経・毎日・東京・NHKなど主要メディアを検索して確認)。
しかも松下氏自身の選挙公報を改めて見ても、あるいは公式サイトで公表していた公約集を見ても、彼女が掲げた8つのまちづくり宣言には「外国人も参画しての住民投票」についての記述はない。

松下市長や周辺としては、8項目のうちの「より進んだ市民参加に挑戦するまち」に含意を持たせたつもりかもしれないが、事は投票の主体に関わる話で、全国的にも極めて珍しい「挑戦」をするのだから「外国人への住民投票権付与」というトピックを公約集で明記しないのは理解に苦しむ。
報道されてこなかった条例案
一方で、実は産経の記事は密室の出来事を暴いた“スクープ”ではない。今年8月の時点で「武蔵野市住民投票条例(仮称)素案 」を公表し、市民には9月3日までの意見を公募済みでもあった。実際、リンクを貼ったようにネットでも読むことができる。素案では「投票資格者には、外国籍住民も含める」(P8)との方針を明記し、その理由を詳らかにしている。
もしかしたら松下市長ら推進派からすると、「すでに市民に対し公知の事実で、マスコミが報道しなかっただけ。今更騒ぎ始めて呆れる」という思いを持っている可能性も多少はあるだろう。確かにマスコミの報道が行き届いてないことに限っては松下氏側に「利」はある。
実際、東京の基礎自治体(区市役所、町村役場)については記者クラブを常設化して、毎日のように記者が出入りしているところはほとんどない。メディアの経営難による取材体制縮小で地方自治体への監視が届かなくなるエリアが増える「ニュースの砂漠化」が近年取り沙汰されるが、実は東京都内は、主要メディアの本社機能の「灯台下暗し」で、昔から区市役所などへの取材が行き届かない空白は続いてきた。
「騙し打ち」と言えるのか?
しかし、百歩譲ってマスコミの報道不足があったからと言って、市民の一定数が重大な変更を認識していない可能性がある限りは周知の努力を怠ってはなるまい。「より進んだ市民参加に挑戦」という言葉からしても事の重大性を松下市長は認識していたのは間違いないわけで、なぜわずか1か月前の選挙で選挙公報やマニフェストに明記しなかったのか。
筆者が当初ツイッターで「騙し打ち」と述べたところ、松下氏を支持する左派のネット民が「騙し打ちとは失当だ」と反論してきたが、松下市長の昨日の「不遜」な言動を見る限りは、このネット民と同じように開き直っているとしか思えず、やはり「騙し打ち」と言いたくなる。万一、明記しなかったのは選挙戦での再選を確実なものにしようと、選挙前にマスコミに騒がれないための政略的意図があったのではないか。
この疑惑を強く抱かせる事由はもう一つある。吉祥寺駅前の一等地にある市営駐輪場が不可解にも随意契約で性急に売却される騒ぎがあった。騒ぎの経緯は、週刊新潮の報道に譲るが、松下市政がそもそも情報公開や行政の透明性についてもともと後ろ向きと感じさせてしまう。

11年前の“火種”
冒頭で2つの問題があると言ったが、透明性に加えてもう一つは妥当性について簡単に問うてみたい。この件は今後さまざまな論争になっていくはずで、必要に応じて後日改めて述べてみたいが、外国人への投票権付与について松下氏は、投票結果が法的拘束力がないことを反対者への反論材料にしておきながら、「市民自治の推進が期待できる。市民参加の手法の一つであり、外国籍住民を対象から除くことに合理的な理由は見いだせない」と述べるなど意義を強調している(発言は産経)。
また、先述した条例案での市の考え方として「本市においては、外国籍住民にのみ在留期間などの要件を設けることには 明確な合理性がないと判断し、適法に在留資格を認められ本市に住民登録のある外国籍住民については、日本国籍を有する住民と同じ要件とすることが妥当であると考えます」(p44)と示しており、解釈によっては<武蔵野市民として投票権を持つにあたり、日本人であるかどうかは要件としてほとんど不要>と言わんばかりの相当リベラルな考え方にも思える。
しかし他方、ネットでも指摘されているように、1995年、外国人参政権を要求した憲法訴訟で最高裁は請求を棄却している。そもそもこれで司法的には決着したはずなのだが、この判決の傍論において以下の部分が「火種」を残した。
「憲法は法律をもって居住する区域の地方公共団体と特段に緊密な関係を持つに至った定住外国人に対し地方参政権を付与することを禁止していないが、それは国の立法政策にかかわる事柄であって、そのような立法を行わないからといって違憲の問題は生じない」
あの大物政治家との“因縁”
つまり、ここだけを読むと、地方参政権についての「部分的に許容している」ようにも読めるが、傍論の切り取りに過ぎない話を針小棒大に「最大限配慮しなければならない」と推奨する内容に拡大解釈して、2010年に国会での政府答弁として閣議決定をしたのが時の菅政権だった。菅は菅でも前首相の「すが」ではなく「かん」。つまり、民主党政権の菅直人首相だ。

そう、ここまで書けばお気づきと思うが、菅直人氏はこの武蔵野市を含む東京18区の選出。バリバリのお膝元であり、松下市長の政治的な後ろ盾。立憲民主党の最高顧問として今なお君臨している。菅氏の意向が今回の松下市長の動きに反映しているのかは不明だが、菅政権時代の閣議決定との「因縁」と言うだけでも、あまりにも色々なことを考えさせる政治的な背景がある。
筆者自身は、グローバル化が進む中で日本国内に長期滞在している外国人については年数や生活実態などに応じて、住民自治になんらかの参画をする考え方を全否定はしない。一方で、松下市長のガバナンスの雑さに呆れることもさりながら、岸田政権が経済安全保障担当相を設置するなど、米中冷戦が激化し、行政としてもインテリジェンス上の対応が求められる時流をあまりにも無視しているのではないか。松下市長に再考を求めたい。
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