創刊SP対談 山口真由さん #1 ポリコレ報道の罪深さ

メディアは“燃やして”終わりでいいのか?
2021年04月29日 06:01
  • 山口真由さんと新田編集長が昨今のメディア空間の「病理」を語る
  • 「ポリコレ」化する報道、問題の構造を解き明かしているか?
  • 見掛け倒しの反権力になっていないか?世の中は複雑なもの

山口真由さん対談

SAKISIRU創刊スペシャル対談第2回のゲストは、山口真由さん(ニューヨーク州弁護士、信州大学特任教授)。東大法学部を総長賞を受けて卒業し、財務省を経て弁護士に。テレビでの本質をつく鋭いコメントでもおなじみです。山口さんは以前の著書で、「極端な左翼でも右翼でもなく、他者の意見に耳を傾け、違いを尊重し、共有点を探す試みができるだろうか」と、“党派性の病理”を提起していました。共感した新田編集長が、昨今のメディア空間について山口さんと語らいました。

二極化では本質に迫れない

【新田】お会いするのは5年ぶり。ハーバード留学から帰国直後にテレビ番組で共演して以来です。翌年、アメリカでの体験を生かして上梓された『リベラルという病』(新潮新書)で「コンサバ(保守)VSリベラル」の問題を提起されていました。

党派的な論争ばかりで、当事者が置き去りにされ、問題解決が進まないことを、僕自身も痛感していたので、私も本を読んで共感したのですが、出版から4年。日本の首相もアメリカ大統領も変わり、世界的にもコロナ禍に直面するなど激変しましたが、かつての著書で指摘された党派性の問題は、さらに酷くなったと思いますか?

【山口】酷くなりましたね。欧米の、特にアメリカの二極構造はここしばらくあったと思うんですけれども、日本までこういう状況になってきました。最近でいえば森喜朗氏の女性に関する発言問題。全てのメディアが同じように「森叩き」に終始するばかり。なぜ構造なのか解き明かそうとするのが足りなく見えます。

山口真由(やまぐちまゆ)1983年北海道生まれ。東大在学中に司法試験に合格。卒業後、財務省で租税政策を担当。退官後の2009年から2015年まで、弁護士として企業法務を担当。その後1年間、米ハーバード大ロースクールに留学しニューヨーク州弁護士登録。帰国後、東大大学院に進み、日米の家族法を研究する。20年同大学院博士課程修了、現在は、信州大学特任教授。近著に『「ふつうの家族」にさようなら』(KADOKAWA)。

【新田】森発言問題、山口さんの見立ては?

【山口】五輪組織委員長は橋本聖子さんに変わりましたが、トップの顔だけ変えて、意思決定層の女性の比率を40%にすれば、あとはいいんですか?と思いますよ。やっぱり、ポリティカルコレクトネスは、構造的な問題を、表現の面に矮小化してしまった意味で罪深い

もう一つショックだったのが、多様性を標榜する人たちが、その多様性を理解しない人たちもその一部なのだと考えていないように見えたこと。「多様性」は全ての人に居場所を用意すべきで、森さんを攻撃するよりは自分の中にある“森さん的なもの”を問い直すべきだと思うんです。

【新田】なるほど!

【山口】メディアに出ていて怖いと思ったのは、私たちはある種の「踏み絵」を迫られ続けたこと。森さんを叩くテンションが少しでも低いと、擁護していると見做されてしまうように感じました。ある番組で、コメンテーターが「森さんのことを老害というのはちょっとどうか。その一事をもって彼がやってきた全てを否定することに対して、僕は社会の寛容性を失っていると思う」と仰った。

私も全くその通りとは思ったんですが、私もテレビで同じことは言いづらい。いまのメディアでは「擁護か批判か」「右か左か」っていう二択を突きつけられがち。世の中はもっと複雑なのに苦しい思いでした。

ネット世論に迎合?メディアの義務とは

【山口】お伺いしたかったのは、最近のメディアって、同じニュースをぐるぐる回すじゃないですか。文春が報じたらテレビや新聞が追いかける。一体どうなんでしょうか。構造的な問題にまで突っ込むべきじゃないですか。

【新田】何だろ、メディア空間の“DX”が、いびつな形で出ちゃったかな。SNSから世論が始まって、ネットニュースが取り上げ、それをテレビや週刊誌で取り上げて拡大していく。やがて社会問題として揺るがせなくなる。僕が20年前に新聞記者になりたての頃は、ネットの情報がゴミ扱いされていたのからすれば隔世の感(笑)

ところが2011年の震災後、SNSが社会の言論のインフラとして台頭してきてから、力を持つようになってきた。コンビニのバイト君たちが悪戯した投稿が炎上して店舗閉鎖に追い込まれた案件のように「社会問題化」してきた。

【山口】いわゆる「バカッター」ですね。

山口真由さんと対談する新田哲史編集長
山口真由さんと対談する新田哲史編集長(撮影:西谷格)

【新田】そうです。どこのコンビニかって(ツイートで)言ってなくても特定され、店舗閉鎖で実害が出るようになった。もちろん悪いのはバイト君だけど、ネット民が警察状態になって発火点になり、メディアが報道するフローができてしまいました。

文春が台頭している要因の一つもそこですね。紙の週刊誌が売れなくなっても本誌発売前日に予告編を流して反響を広げて購読につなげる。文春の“マーケティング”にハマってしまっています(笑)

メディアがネット世論に迎合してしまっていると思いつつも、ネットメディアはPV数が広告収入につながっているところもあるので社会的意義と経営の両立が悩ましい。

【山口】難しいですよね。社会的な分断が進んだ背景には、ネット世論があると思っています。自分に同調してくれる人が多くいると、世論がどんどん強まっていく。炎上が起きると、大学や病院、ときには就職先に問い合わせやクレームが来るらしいんですが、ネットのコメント欄がきっかけだったりします。

私はそこでやっぱりテレビと新聞にはパブリックな義務があると思うんです。視聴者や読者に「みんな」に大事だと思うものを流している「義務」があったはずなのに、最近はニュースの順番を論理的に並べていませんね。

2019年、高速道路で煽り運転をしたうえで、相手の運転手を殴る事件がありました。それはひどいけど、同じ時期にあった強盗殺人のほうが刑法で罪が重いのに「画(え)が面白いから」と煽り運転のほうを延々と報じる。ニュースの優先が論理ではなくて感情で決められている。でも、そこにメディア側に葛藤がないといけないはず。

「反権力」がファッションでいいのか?

【新田】山口さんのテレビ出演が増えたきっかけといえば財務省のセクハラ問題。事務次官(当時)がテレビ局の女性記者との“サシ飲み”でひわいな発言をしたとされ、あのときも表層的な問題で炎上しただけ。

財務省
kawa*******mu/PhotoAC

もちろん、セクハラ発言はダメなんですが、僕が若い頃から女性記者の夜回り取材先でのセクハラみたいな話はあって、なぜそういう問題が起きるのか、記者の取材体制、働き方、ひいてはメディアと権力の距離の問題とか本質的な問題があるのに、テレビや新聞は触れようとしない。かつては財務省にもいらして、問題当時はメディアにも出演していた中で、不満はありませんでしたか?

【山口】私はマスメディアよりはむしろ財務省の中にいた人間だったので、構造的な問題で言うと、元次官は財務省の製造物責任と思いました。元次官を叩いて終わらせる話ではなくて、背後に大きな構造がある。財務省は一つの男社会で、ああいう形で記者をいなすことを一つの能力として見ている面がある。

逆にメディア側からすると、ある意味「若い綺麗なのがネタを取ってこい」、「距離感なんてお前が考えろ」っていうのを続けてきた。その構造と構造がぶつかった一つの事象なのに、次官だけを叩いて終わらせてしまう。でも、それはジャーナリズムがやるべきことなのか、ただの劇場じゃないかと思うところはあります。

【新田】日本は記者クラブメディアが本質的な話に踏み込めていない。で、文春が記者クラブができないことを攻めて、スクープの破壊力は満点なんだけど、破壊した後は完全に焼け野原にして、そのあと積み上げやソリューションがない。それが次の問題ですかね。

東京新聞記者の望月衣塑子さんって僕と同じ年(1975年生)なんだけど、いかにも記者クラブ的な、政治家との阿吽の呼吸で「しゃんしゃん株主総会」的な記者会見を壊した点は評価しています。だけど、あの壊し方だと生産的には思えない(苦笑)。「反権力」がファッションと化してしまっている。

対談:山口真由&新田哲史
(撮影:西谷格)

【山口】SNSは、左か右に偏った方が「いいね」がつきやすい。でも私たちは、世の中はもっと複雑だと意識しないと。森さんの問題でいえば「この人は別の文脈にしたら被害者になりうるのかもしれない」という複層的な視点を持ってなきゃいけない。それが薄っぺらくなっている。SDGs関連の言論もなんか薄っぺらいのが多い(笑)。

【新田】SDGsだけじゃなくて、脱炭素も微妙ですよね。

【山口】ファッションですよね。エネルギーの複雑な問題をすっ飛ばして、原発反対と安易に言っている人たちとダブって見えてしまいます。

(※続く。後編は、家族の問題から見えてきた「変われない日本」の問題について大いに語ります。あす30日に掲載します。)

 

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