松井大阪市長が猛反対する「特別自治市」制度、報道されない本来の意義とは?
「コロナ後」多様な大都市制度の実現を- 「指定都市市長会」が提言する新しい大都市制度「特別自治市」とは何か?
- 「覚悟が感じられない」松井大阪市長の神戸市長への反対論は、対立構造作るだけ
- コロナで自治構造の問題明らかに。時代や地域の実情にあった多様な制度構築を
全国の20政令市で構成する「指定都市市長会」(会長=鈴木康友・浜松市長)が11月16日、多様な大都市制度の早期実現を求める提言を行いました。
この提言のポイント・狙いは、①広域自治体(道府県)と基礎自治体(指定都市を含む市町村)という、「国-道府県-市町村」の二層制の地方構造を解消するため、新たに「特別自治市」制度を設ける=「二重行政の解消による市民サービスの向上」②効率的、機動的な都市経営を実現できる「特別自治市」を周辺圏域のけん引役にし、ひいては、東京一極集中の是正、日本の国際競争力強化を目指す--が挙げられます。

「特別自治市」とは?2つのポイント
上記の①②について補足します。①ですが、「特別自治市」は道府県の区域外の新たな自治体となり、「国-特別自治市」という一層制の地方構造となります。指定都市は道府県より住民に近く、ニーズに応える施策力があります。そうした“現場力”に加え、「特別自治市」制度によって財源や権限が大幅に移譲されることで、さらなる市民サービス向上が期待できるのです。
次に②です。「特別自治市」は決して、“一人勝ち”を目論んでいるわけではありません。提言では、「特別自治市」制度によって活性化されたエネルギーを圏域に波及させることが、大都市が果たすべき役割であると謳っています。「特別自治市」制度の創設が目的なのではなく、東京一極集中の是正・日本の国際競争力強化が目標にあるのはそのためです。
特別自治市制度の概要などは、指定都市市長会の最終報告にまとめられています。リンクを参照ください(多様な大都市制度の早期実現を求める指定都市市長会提言(総務省) | 指定都市市長会 (siteitosi.jp))。
「特別自治市」制度には重要な大前提があります。それは、従来の指定都市制度や特別区設置制度(いわゆる「都構想」)と「特別自治市」制度を、各指定都市が人口や経済規模などの実情に応じて選択できることです。
提言のタイトル「多様な~」にも、大都市制度を選択できるという意味を込めています。誤解されがちですが、「特別自治市」制度が法制化されたからといって、全20指定都市が一斉に「特別自治市」になるものではありません。指定都市が理にかなっていると市民が判断すれば指定都市のままでいいですし、「特別自治市」を望むのであれば「特別自治市」を選択できるというものなのです。指定都市の実情に応じて選択できるという点は重要な前提にも関わらず、報道等でなぜか抜け落ちていることが多いので強調させていただきます。
「覚悟が感じられない」大阪市長のミスリード

課題の一つが、「特別自治市」制度の周知、多様な大都市制度実現への機運の醸成だと痛感しています。「特別自治市」制度が十分に知られていない中、世間をミスリードしてしまいかねないやり取りが報道されたのです。
11月10日、指定都市市長会の提言が一度先送りとなりました。大阪市が反対したためです。指定都市関係者や報道によりますと、松井一郎・大阪市長(日本維新の会代表)が、提言をまとめる担当市長である久元喜造・神戸市長に「神戸市は兵庫県から独立する気はあるのか」などと迫ったというのです。久元神戸市長が「法制化された時点で判断する」と応ずると、松井大阪市長は「覚悟が感じられない」として提言に反対していました。
これは、先に述べた、各制度を選択できるという大前提を無視したものです。神戸市は何を選択するか独自に判断できます。ゆえに、久元神戸市長が「法制化された時点で判断する」という回答は真っ当と言えます。覚悟とかやる気といった低次元の話ではないですし、そもそも、大阪市が神戸市の判断に口出しすることが問題です。
さらには、今回の提言の主体は指定都市市長会であって、神戸市単体によるものではありません。神戸市の個別の判断が指定都市市長会全体の判断にもなりえませんので、久元神戸市長の「覚悟が感じられない」ことは反対の理由にはなりえないのです。
この報道を目にした時、「いつものあれだな」と感じました。つまり、複雑な政治的争点を単純化していたずらに対立構造を作り上げ、結果的に、本質から議論を逸らして真の政治的解決に至らなくする、いつものあれです。一言で表すならばポピュリズムです。
「対立」でなく「多様」な制度実現を
ただ、政治的背景や、「特別自治市」制度を含む大都市制度の議論に詳しくなければ、「覚悟がない」などという発言にポピュリズムを感じることは難しいと思います。ましてや、「覚悟感じられない」「独立する気か」などというセンセーショナルな見出しによって、提言や特別自治市制度が、”何やらよくないもの”という印象を与えられて、指定都市市長会が思ってもいない方向に話が進んでしまいかねません。もっとも、大阪市(日本維新の会)の狙いはそこにあるのでしょうが。
結果的に、11月15日に多数決が行われ、賛成19、反対1(大阪市)で提言を採択しました。この件に関して、11月16日付読売新聞朝刊は、「松井市長は15日、『(政令市が)独立するというと道府県と大戦争になる。本当にやろうという人がいるかが問題』と述べた」と報じています。この日は、「大戦争」という言葉で対立構造を作り、煽り立てています。
繰り返しますが、このたびの提言は、「特別自治市」制度を選択できるようする多様な大都市制度の実現を目指すということです。この提言に反対している大阪市以外の他の指定都市が「特別自治市」制度を選択するかしないかを論点にするのは、きわめて的外れであることがお分かりでしょう。
小難しいことを言いますと、「地方自治」の本旨の一つは住民自治です。その肝は、住民の意思決定にあります。ですから、各指定都市の市民が特別自治市を選択することは、地方自治の本旨を体現することにほかならず、大阪市長が他の指定都市に対して、「覚悟~」「道府県と大戦争になる」などと言うことは、地方自治の本旨に背くことと言えます。
コロナで見えた大都市運営の問題克服

賛成19の指定都市のうち、私の地元である広島市も、「特別自治市」制度を含めた多様な大都市制度の実現に向けて、やる気に満ちています。松井一実・広島市長は、「200万人広島都市圏構想」を打ち出し、圏域の発展を目指した連携強化策に取り組んでいます。これは、「特別自治市」制度を見据えた構想なのですが、公共交通の活性化のため、JR芸備線の沿線自治体との連携強化を図るなどしています。
新型コロナウイルス感染症の対応では、「国-県-市町村(政令市を含む)」という二層制の自治構造による弊害をもろに受けました。感染症は新型コロナウイルスだけではありませんし、大都市運営に機動性、即応性が求められるのは、感染症対策のほか様々な事例があります。
「国-県-市町村」の二層制の構造は明治期にできたものです。今や、国民の5人に1人が指定都市の市民です。時は流れ、社会構造や住民が求めているものは変化しています、時代や地域の実情にあった制度を構築することが、日本の将来に欠かせないのです。
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