失意の文在寅、孤独の金正恩 〜 朝鮮半島外交の行く末を展望する

重村智計「朝鮮半島コンフィデンシャル」#3
2021年05月12日 06:00
ライター・編集者
  • 重村智計氏の解説最終回。文在寅も金正恩も「トランプ・ロス」に苦慮
  • バイデンはオバマ時代より北に強硬か。核問題棚上げで日朝正常化なし
  • 文在寅政権と韓国民を同一視すべきでない。報道がこじらせた面あり

#1 #2はこちら)

ffikretow / iStock と 南北首脳会談(韓国政府撮影)を加工
ffikretow / iStock & 韓国大統領府公式写真

文在寅と絶交した金正恩も「トランプ・ロス」状態

――時に「北朝鮮シンパ」ともいわれる文在寅が、金正恩に絶交されたというのは驚きですね。

重村智計(しげむらとしみつ)1945年生まれ。早稲田大学卒、毎日新聞社にてソウル特派員、ワシントン特派員、論説委員を歴任。拓殖大学、早稲田大学教授を経て、現在、東京通信大学教授。早稲田大学名誉教授。朝鮮報道と研究の第一人者で、日本の朝鮮半島報道を変えた。著書多数。最新刊は『絶望の文在寅、孤独の金正恩――「バイデン・ショック」で自壊する朝鮮半島』(ワニプラス新書)。

【重村】金正恩は米朝会談の過程で「文在寅に騙された」と怒り心頭です。2020年6月には、金正恩の妹・金与正が開城の南北連絡所を爆破し、さらには文在寅を「正義のふりをしたみっともない姿」などと厳しく批判しました。

それ以前のトランプ時代は、金正恩とトランプが急接近し、文在寅もそこになんとか割り込むことで、「米朝対話を韓国が演出した」かのような体面を繕うことができました。

しかしバイデン政権でそうはいきません。実のない米朝会談には見向きもしない。しかも、そもそも北朝鮮に核廃棄を迫らず、人権状況の改善も迫らない韓国に対する信頼が失われている状況です。

また、北朝鮮に話を向ければ、金正恩も「バイデン・ショック」と裏表の関係にある「トランプ・ロス」状態に陥っています。

北朝鮮国内では「トランプの大統領選落選、バイデンの新大統領就任」は正式に報道されていません。あれだけ華々しい米朝会談を行った相手であるトランプが落選したとなれば、指導者である金正恩の見込み違いだったのではないか、と権威失墜につながりかねないからです。

北朝鮮は中露を中心に東南アジアの国々とも国交がありますが、中露のリーダーからは常に見下され、悔しい思いをしてきました。一方トランプは、ツイッターや国連演説で「ロケットマン」などと批判したものの、ある意味では対等に金正恩と接し、最終的にはトランプ大統領が退任するまでに実に30通以上の親書を交わし合う仲になりました。

――トランプ大統領がコロナに罹った時には、金正恩が「一日も早く全快することを心から願う。あなたは必ず打ち勝つ」という内容のお見舞いの電報を送っていましたよね。

【重村】こうした相手は金正恩にとってはトランプ以外にいませんし、バイデンとはこうした関係を築くことは不可能です。外交関係も、トランプ以前の高官外交に戻らざるを得ないでしょう。そのため、「トランプ・ロス」に陥っているのです。

当のトランプ前大統領は2021年4月23日に、「文在寅は指導者としても交渉人としても弱い」とする声明を出しました。どうやら文在寅がトランプの北朝鮮政策を米紙のインタビューで批判したことに対する「反撃」ではないかともいわれています。

一方でトランプは金正恩について「最も困難な状況下で知り合った(そして好きになった)」と言うと同時に、「(文在寅は金正恩から)全く敬意を持たれていなかった」とまで述べています。

韓国大統領府サイトより

踏んだり蹴ったり、絶望の文在寅

――文在寅としては踏んだり蹴ったりですね……。

【重村】いうまでもなく文在寅は日本との関係も冷え込んでいますから、文在寅は引き続き、アメリカに対しては「自分が間に立つことで米朝対話を前進させられる」と言い、中国に対しては習近平を立て、金正恩に秋波を送りながら、一方ではアメリカの圧力を受け、いやいやながらも日本との関係改善に踏み出さなければならないという、非常に難しい状況に追い込まれることになります。

しかも国内での支持も失いつつあり、2020年末には支持率が30%台まで落ち込みました。まさに前途多難です。

――こうした状況で、日本は韓国・北朝鮮、つまり朝鮮半島とどのような外交姿勢で相対していけばいいのでしょうか。

【重村】日本の朝鮮半島外交は、良くも悪くも、ひとえに日米同盟に左右されます。同盟の成立には「共通の敵」と「共通の価値観」が必要ですが、北朝鮮はまさに日米の「共通の敵」と言えるでしょう。

中国も日米の「共通の敵」となりつつありますが、中国は北朝鮮とは違って軍事力も経済力も強大です。安倍政権時代には、中国包囲網を広げる一方で、トランプ政権の対中姿勢が厳しくなると、日本の対中対立姿勢を緩めざるを得ない状況になりました。

バイデン政権の北朝鮮政策の基本方針が明らかになるのは2021年の夏以降ではないかと見ていますが、オバマ政権時代の「戦略的忍耐」という方針は捨て、新たな戦略を構築するようです。日本の基本姿勢は、北朝鮮との対話のドアを開き、日朝国交正常化と拉致問題の解決を同時に進めるというものですが、核問題を棚上げに国交正常化を進めることは、アメリカが許さないでしょう。

ただ、アメリカは外交戦略を突然変更したりしますから、「米朝首脳会談に応じる」可能性もあるとの留保を常に持っているべきです。

また北朝鮮も、対米・対中外交が最優先のため、日本との交渉を後回しにしているという現実があります。菅政権は難しい舵取りを迫られますが、かねて拉致問題に強い意欲と責任を表明してきた菅総理ですから、何とか難局を打開してもらいたい。

メディアの姿勢が日韓の国民感情をこじらせた

――日韓関係はどうでしょうか。

【重村】一般の韓国民と文在寅政権を同一視しないことです。文在寅政権と対立しても、韓国民と対立してはいけません。普通の韓国民は、日本に好意を抱いている、と判断すべきです。日本についての韓国の世論調査は、信用できません。「反日調査」には、誰も反対できないからです。

アメリカからの「日韓関係改善要求」の圧力は、日本側にもかかってくるでしょう。しかし徴用工問題、慰安婦問題をはじめ、問題は山積みです。また、そうした問題が、日本側のメディアの報道姿勢によってよりこじれた状況になっていることも事実です。特にリベラル系の新聞などは、以前は北朝鮮の立場を語り、その後は韓国の立場を語ることで、かえって日本人の朝鮮半島に対する心象を悪くしてきた経緯があります。

新聞記者だった経験から言えば、こうした報道が時に外交の行方を左右し、世論を誤らせてきたことを改めて知るべきでしょう。そのうえで、正しい情報に基づいた正しい判断ができるよう、記者や朝鮮半島の専門家たちは肝に銘じなければなりません。それが日韓関係進展の第一歩ではないでしょうか。(おわり)

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