小型EV「価格破壊」の大波!大手自動車メーカーの足元を脅かす新興企業の挑戦
斬新な生産ビジネスモデル「ファブレス」とは?(編集部より)日本の大手自動車メーカーを脅かす世界のEV(電気自動車)の旗手といえば、アメリカのテスラ社や中国メーカーの躍進が知られていますが、すでに日本国内でも和製スタートアップによる異次元の挑戦が始まっています。ジャーナリストの井上久男さんがその現状をレポート、自動車産業の近未来を占います。
生産設備を持たないEVベンチャー
物流大手のSBSホールディングスは、国内配送用の1トンクラスのトラックにEVを導入する。11月から本格導入に向けての実験をしている。このEVは、ベンチャーのフォロフライ(本社・京都市)が設計、開発し、製造は中国の東風汽車系企業が行い、フォロフライが輸入する。
SBSグループで22年1月から順次5000台を導入し、さらにフォロフライと協力して5000台を他社にも売っていく計画。合計1万台が輸入される見込み。価格は約380万円で、補助金を入れれば同じクラスのエンジン車のトラックよりも安くなるという。
こうした生産方式は、生産設備(ファブリケーション)を持たないことから「ファブレス」と呼ぶ。「ファブレス」の代表的なケースとしては米アップルの「iPhone」が挙げられる。アップルはスマートフォンを自社で企画・開発し、生産は台湾の鴻海精密工業などに委託している。
「こうした設計、生産手法で輸入されたEVが国土交通省から認可され、ナンバーの交付を受けて配送用に用いられるのは国内では初となる」とSBSでは説明している。
SBSではアマゾンの配送を請け負っており、宅配用のラストワンマイルでこのEVを利用する。アマゾンは協力企業に対しても、二酸化炭素の排出削減を求めてきているという。SBSは鎌田正彦社長が佐川急便のドライバーから1987年に裸一貫で起業し、今では東証一部に上場している。SBS自身も株主からカーボンニュートラルへの取り組み強化を求められている。
EV導入の経緯について鎌田社長がこう説明した。
「トヨタ自動車やいすゞなどの日本メーカーに、積載量1.5トンから2トンクラスの小型のEVトラックがないかと聞くと、価格は同じクラスのエンジン車の2倍以上の1300万円ならできると言うが、その価格では運賃と見合わないからEVを導入できない。そうした時にフォロフライの小間裕康社長と知り合って、共同でファブレスのEVを日本に導入していくことを決めた」
また、人手不足の物流業界では、普通免許を持つ主婦がアルバイトで乗ることができる小型車のニーズがあり、かつ投資家や顧客から二酸化炭素の排出削減を求められているからEVのニーズがある。しかし、日本の大手自動車メーカーは総じて新たにできようとしている「商用車小型EV」のマーケット対応に力が入っていない。このため、新興企業が新たな生産ビジネスモデルを構築して、市場のニーズに答えようとしているのだ。
「いいものを安く」ヤマダ電気流ASFの挑戦
小型EV導入を目論むのはSBSだけではない。佐川急便も22年半ば以降に軽ワゴン約7200台を順次EVに切り替えていく計画だ。そのEVを提供するのも昨年に設立されたベンチャー企業のASF(本社・東京都港区)だ。
家電量販最大手ヤマダ電機の副社長だった飯塚裕恭氏が創業。その狙いは自動車の価格破壊にある。「『いいものを安く』という考え方がヤマダ電機に務めた30余年間で身に付いている。いずれ価格破壊が自動車産業にも及んでくると見て起業した」と、飯塚氏は筆者の取材に対して語った。ASFが提供するEVの価格は、これまでのクルマの購入費用+ガソリン代よりも低くなるように設定する計画だ。
ASFは現在、大手商社の双日から出資を受けている。双日がリードインベスターとして資金を提供、同社が持つネットワークも活用して小型EVを普及させる目論見だ。今年6月30日には大手石油会社のコスモエネルギーホールディングス傘下のコスモ石油マーケティングとも資本・業務提携。コスモ石油はガソリンスタンド網を使ってEVの販売やリース、再生エネルギーの提供、車両整備を新規事業として計画している。そこにASFが小型EVを提供する。
ASFの取り組みの特徴は、「made by Japan」であることだ。企画、開発は日本のASFが主導し、製造は中国企業に委託するというSBSと同じ「ファブレス」の形態を取る。佐川急便向けEVを生産するのは、中国・広西市に本社を置く広西汽車集団傘下の柳州五菱汽車。同集団傘下の上海GM五菱は昨年、50万円のEV「宏光MINI」を発売し、割り切った設計ながら上海などで若者向けにバカ売れしている。
性能、品質を担保するために、佐川急便向けEVには、日本電産製のトラクションモーターの採用が決まったほか、日産自動車でかつてe-POWERを担当した技術者も開発に協力している。さらに補修やサービスは、JAF関連の仕事を請け負っている日本ロードサービスが協力する。
こうした手法の利点としては、ASFは設備投資の負担が避けられ、資金を企画、開発に集中でき、受託する柳州五菱が大量生産することでコストを落とせることだ。役割を分担して得意分野に集中できるため、市場投入のスピードも早まると見られる。
日本電産・永守氏「クルマの価格は5分の1に」
クルマはこれまで値段が下がらない唯一の工業製品をといっても過言ではなかった。自動車メーカーは「付加価値」として称してクルマに新たな機能を付け加えていくことで価格下落を防いできた一面がある。しかし、それはあくまでメーカー側の勝手な言い分であり、利用者の立場からは不要な機能や付属品を押し付けて値下げを阻止してきたと見ることもできる。
ところが時代の変化に合わせて消費者の価値観は大きく変化している。かつて個人は住宅とクルマを買うことが一種のステータスとなっていたが、そうした価値観が崩れていることは明白だ。クルマをビジネス用途で使う企業も、カーボンニュートラルの動きの中で、二酸化炭素排出の抑制を求められ、EV利用を促進したいと考えている。実際、ASFには佐川急便以外にも、クルマで移動する現業サービス部門を持つ企業から引き合いが来ているという。
EV向けモーターの事業を成長させている日本電産の永守重信会長も「クルマの価格はいずれ5分の1になる」と語っている。フォロフライやASFの動きを見れば分かるように、いよいよ自動車産業にも、価格破壊を誘発する「ファブレス」の流れが迫っている。
大手自動車メーカーは、時代の流れを見極めながら商品開発に取り組まないと、価格破壊の渦に呑み込まれてしまうかもしれない。
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