起業家を大企業で育成 ⁈ 国の支援策がズレまくりなワケ

「本丸」のアノ改革を避ける迂回策?

日本経済の長期停滞は、先進国の中でも特に起業が盛んでなく、次代をリードするメガベンチャーが少ないことが挙げられてきたが、経産省は来年から大企業が起業家を支援・育成することで打開する支援策を考えている模様だ。

ところが、読売新聞の特ダネでこの構想が明らかになった直後、有名なベンチャー企業の経営者からは「ズレている」などの不評の声が次々と上がった。何が原因なのか。

rudall30/iStock

読売新聞が25日付の朝刊一面で「起業家を大企業で育成、政府が雇用協力に費用補助へ」との記事を特報した。アメリカで広がっている、起業家が大企業で働きながら新規事業の立ち上げを行う「客員起業家制度」(EIR)を日本の大企業でも導入。さらに、人材不足に悩むスタートアップに対して大企業側が幹部候補生の武者修行先に送り込むウィンウィンを形作る構想で、今年度の補正予算に関連予算8.6億円を計上すると報じている。

経産省はこの日、正式に発表しておらず、読売記者にリークしての観測気球の可能性もあるが、ツイッターでは報道を見た名だたるベンチャー経営者らの反応は至って総じて不評だった。

昨年、デザイン会社として初の上場をしたグッドパッチ土屋尚史CEOは「なんでこうズレた事をやるのかなー」と疑問視。元ミクシィCEOの投資家、朝倉祐介氏は「あたかも企業起業家育成する機能があるかのような施策に見えます。随分と大胆な仮説ですね」と痛烈に皮肉った。

具体的な問題点を指摘する声も。音声プラットフォーム、Voicy緒方憲太郎代表が「大企業とスタートアップの相互支援の現場ってほとんどうまくいってないのに、そこにヒアリング行ってもいい案出てこないよね」と指摘すれば、IT印刷事業、ラクスル前田大輔執行役員は「そんなことをやるなら規制緩和や経済特区作るとかに時間を使うべきではないかと思うのだけど。。政府の想いは買うけど意味があるとは思えない」との見方を示した。

他方、日本の起業率が低迷する要因として、経済学者などが長らく指摘しているのが人材流動性の低さだ。最近では、政策研究者の鈴木崇弘・城西国際大学特任教授は今年8月、ヤフーニュース個人に投稿した論考で以下のように指摘している。

日本は、脆弱な社会的労働市場、つまり社会的人的流動性が低いので、会社(組織)にいる人材は、改革や変革の必要性を感じたり理解しても、仕事や収入のことを考えると、組織内の視点やルールあるいはレガシーを優先しがちになる。その結果、会社(組織)はズルズルと劣化し、日本の経済や社会自体も、低迷していくことになる。

ひと頃、「サラリーマン・イノベーター」という言葉が流行ったことがあった。会社員として働きながらリスクを取らずに新たな仕掛けをする存在に期待する向きもあったが、これもまた労働市場が硬直したまま変わらない現実を受けての「苦肉の策」。そして、今回、経産省が編み出した「起業家を大企業が育成する」という政策アイデアも、大企業という既存のフレームワークに頼りきってしまうあたり、政府が労働市場改革という「本丸」突撃を回避し続ける迂回策に過ぎないとの指摘が出てきそうだ。

 
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