北京冬季オリンピック:一筋縄で行かない「外交的ボイコット」複雑すぎる事情

【連載】北京2022「世界」を悩ます3つの争点 #1
ジャーナリスト、大和大学社会学部教授
  • 民主主義国家で高まる北京五輪「外交ボイコット」の複雑な背景とは?
  • 岸田政権が大いに参考になりそうな2014年ソチ冬季五輪外交の出来事
  • ソチ大会の外交ボイコットの中で競技場に現れた他国首脳が習近平

来年2~3月に北京で実施される冬季五輪・パラリンピックの開幕が迫ってきている。11月に入り各競技・種目で代表最終選考が佳境を迎えているが、合わせて国際社会で中国の人権弾圧、軍備拡張問題などへの批判の声が相次ぎ、開会式などへの政府要人派遣を拒否する「外交的ボイコット」の動きが高まっている。開幕3か月前の習近平政権をめぐる軋轢は、ロシア・プーチン政権が担った7年前の2014年ソチ冬季五輪の直前情勢を彷彿させる。

2014年2月ソチ五輪歓迎晩餐会で会談する習近平氏とバッハ会長(写真:代表撮影/AP/アフロ)

そこで、今回の特集は① 民主主義陣営の「外交的ボイコット」はどうなるのか?② 台湾・香港情勢がどう影響するか③ 猛威を振るう新型コロナウイルスの感染拡大が大会運営にどう支障を及ぼすのか――の3点に絞り、北京大会の行く末を解説したい。

夏季東京大会を終えた日本もプロトコール(国際儀礼)の原則やスポーツ界への政治介入の教訓をふまえ、どう対応するか選択に迫られる。もう少し具体的に絞れば、「末松信介文科相の開会式出席」の是非であり、このラインは発足したばかりの岸田政権が今後、中国へ強い態度で臨むかどうかを旗幟鮮明にする分水嶺ともなりそうだ。

習主席「中国の制度の優位性を具現化」

2008年に夏季五輪を開催した北京は今回の冬季大会を実施することで、夏季、冬季を実施した世界で初の都市になる。五輪は来年2月4日から20日まで、パラリンピックは3月4日~13日まで開催。フィギュアスケートやアイスホッケーなどは夏季五輪施設を再利用して北京市内で行われるが、スキーやスノボなどの雪上競技会場は北京から北西180㌔の張家口地区に点在する。開閉会式は夏季大会と同様、再び、国家体育場(通称「鳥の巣」)で行われる。

サッカー部に所属し、中学校時代は全国4位になった経歴を持つ習主席。2014年2月、ソチ五輪開会式に出席した際には水泳やバレーボール、テニスなどのスポーツが好きだとし、「どんな競技でも観戦したいし、時間があれば自分でもしたい」と語っており、柔道で黒帯の実力を持つロシアのプーチン大統領とも気脈が通じるところもある。

中露両国はスポーツを通じた国威発揚ぶりや社会形成政策も似通っており、習主席は「伝統的なスポーツ精神だけでなく、100年にわたる復興のスポーツ精神を発揚せねばならない。スポーツが強くなれば、国も強くなる。国が強くなれば、スポーツも強くなる」(9月14日、CRIオンライン)と熱弁をふるう。今年1月に張家口地区を視察した際には 2度目の五輪開催で科学技術の発展に意欲を示し、「これらは中国の制度の優位性を具現化するものである」と強調した。中国にとって2回目の北京大会は成熟型ではなく都市開発型五輪であることがわかる。

2008年夏季大会と同じメインスタジアムとなる「鳥の巣」(nekomi / Photo AC)

岸田政権の参考例に?ソチ五輪外交

五輪ボイコットというと、冷戦時代の1980年モスクワ大会、1984年ロサンゼルス大会での東西両陣営の応酬による選手団派遣の拒否を想像させるが、「外交的ボイコット」(diplomatic boycott)とは、期間中の政府要人派遣の拒否を意味する。今年の東京大会ではコロナ禍を理由に北朝鮮が選手団派遣を見送ったが、北京大会では選手団のボイコットを表明している国はない。

一部の首脳に招待状をすでに送り始めている中国政府は北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記でさえ「五輪に招請する意思を見せている」(韓国・中央日報、9月20日)とされ、北朝鮮も冬季大会については、韓国との融和政策を繰り広げた2018年平昌大会に続く選手団の派遣を決断する可能性がある。

2014年ソチ大会では、欧米首脳が相次いで開会式をボイコットして、プーチン大統領に冷や水を浴びせた。13年12月中旬、当時の米オバマ大統領の開会式欠席が公表された。表向きは「日程上の都合」だが、オバマ氏は前年夏、ロシアで同性愛禁止法が制定されたことに対し「私ほど怒りを覚えている人間はない」と抗議しており、プーチン政権の多様性への抑圧が欠席の理由とされた。

その後、相次いで「外交的ボイコット」を表明する国が相次いだ。ドイツのガウク大統領(当時)は「人権侵害への抗議」として欠席。フランスのオランド大統領(同)も足並みをそろえた。

2012年にロンドン夏季五輪を開催したばかりの英国のキャメロン首相は開幕1週間前の14年1月末、「首相の日程調整がつかない」として、欠席を表明した。表明が遅れたのは、ロンドン五輪の期間中、プーチン大統領がロンドンを訪れ、英露の融和外交が繰り広げられたからだ。人権問題などに関して米仏独に波長を合わせながらも、プロトコールの原則に外れるとして、ぎりぎりまでの調整が英政府内部で行なわれていたことがうかがえる。

岸田政権にとって、このケースは大いに参考になるはずだ。つまり、北京大会への意思表明は、「ロンドン→ソチ」という今回の「東京→北京」と似通った状況を持つ英国の前例をふまえるなら、来年1月末まで待てるということだ。

再び中露結束の再現を狙う舞台に

ロシア大統領府サイトより

一方で、次の平昌冬季大会の開催国だった韓国・朴槿恵大統領はソチを訪問しなかった。今回の東京大会でフランスのマクロン大統領が東京を訪れたのは、24年パリ大会を迎える次期開催国としての位置づけが大きい。

当時の朴氏の判断は「異例」といえ、時事通信社元ソウル特派員でジャーナリストの室谷克実氏は「韓国の報道によると、ソチ五輪の開催中に、プーチン大統領は各国の展示館をほとんど見て回ったが、次期開催国である韓国の展示館にはよらなかった。尋常なことではない」(夕刊フジ、2014年3月)と指摘しており、この判断をきっかけに亀裂が入った露韓関係の情勢分析をしている。

ソチ五輪の外交的ボイコットが相次ぐ中で、2月7日の開会式スタジアムに姿を見せたのは、習近平国家主席だった。習主席が国外で行われる国際競技大会に出席するのは初めてで、中露の結束ぶりを諸外国に見せつけた。当時の中国の駐露大使がロシアメディアに対して、「口実を見つけてロシアの内政に口出すことは団結、友好、平和の五輪精神に反する」と主張。この発言はウイグルやチベット問題をめぐる中国に対する内政干渉にクギを指す意図も見え隠れする。

来年の北京大会については再び中露結束の再現を狙う。中国外務省の趙立堅報道官は11月23日の記者会見で「今回は、習主席がよき友人であるプーチン大統領を北京オリンピックの開会式に招待している。プーチン大統領は招待を快く受け入れた」と述べた。欧米で外交的ボイコットが喧伝される中でのプーチン大統領の態度表明は、米国主導の国際政治に与しない第三世界の国々へのアピールとも思われる。

話をもう一度、ソチ大会時に戻す。開会式でもう1人現れた主要国首脳がいた。

#2に続く

ジャーナリスト、大和大学社会学部教授

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