維新の代表選見送りは、“上場断念”ではなく“上場準備の事業承継”だった

“現社長”松井代表の恐るべき深謀遠慮
SAKISIRU編集長
  • 維新の代表選見送りに批判も多いが、経営観点からすると違った風景?
  • 松井代表の執行部若返り策は、実権は大阪に残すも、組織拡大失敗の教訓も
  • 「親離れ」なるのか。根っからの起業家、藤田新幹事長ら執行部の手腕は?

日本維新の会が代表選の開催を見送り、松井一郎代表が来夏の参院選後まで続投することを決めた。この判断を巡り、「松井商店から脱却できてない」などの批判や失望が渦巻き、筆者も当初は同調しそうになったが、その後の報道を見て考えを改めた。

それは取材者としての視点というよりも、(恐れ多くも零細スタートアップながら)経営者の端くれとして“ベンチャー政党”の創業経営者の1人である松井代表に対する“共感”からだった。

再任が決まり、党大会で挨拶する松井氏(維新公式YouTubeより)

「個人商店」批判は当たる部分もあるが…

拙論に入る前に昨晩からの一般的な批判論を振り返っておこう。昨日、サキシルで掲載した代表選見送りへの苦言の数々は、いずれも的を射ている。朝日新聞系のアエラドットの今西記者の記事によれば、官邸ですら「橋下・松井・吉村が不可侵な存在」と分析していたようだから、「個人商店」(吉富有治氏)論が出てくるのは当然のことだ。

さらに、夜になって毎日新聞が速報したが、執行部の大幅若返りについて、安積明子さんがヤフーニュースに「維新が目指すのは、大阪を頂点として全国をその下に置くという権力構造に他ならない」と酷評したこともまた部分的に当たっている。

報道どおり、藤田文武氏(40歳)が幹事長、音喜多駿氏(38歳)が政調会長、柳ヶ瀬裕文氏(47歳)が総務会長と、三役を大胆に若返らせるといっても、この中で実権的な存在は幹事長だ。それでなくても代表が松井氏続投で、国会議員の新団長に馬場伸幸氏と言うことは、野球で言うセンターラインは大阪が主導権を握っており、イメージ戦略とみる向きもある。

2015年、大阪市長時代の橋下氏(写真:アフロ)

確かにこれらの批判・論評は当たっているのだが、部分的にも見える。本質を見落としてはなるまい。

橋下氏の昨晩のツイートをもう一度見てみよう。彼は「来年夏の参院選後には真に松井さんから自立しなければならない」と、世代交代が待ったなしということに改めて触れている(太字は筆者)。そして、「旧態依然のやり方を打破し、今までやってきたことをたとえ1ミリでも理想に近づけることができるのは次世代のエネルギーだ。松井さんがいる間に次を引っ張るメンバーが続々と誕生することを期待する」とも述べている()。

いや、創業経営者として橋下氏も松井氏も外野から言わずとも痛感しているのだろう。維新という政治会社を持続可能とするためには、遠くない将来、吉村世代に事業を継承し、全国チェーン化に必要な組織改革の課題が当然あることを。代表選と大阪維新の推薦がないと代表選に立候補できないという規約の改正は、そのプロセスで必要な通過儀礼だった。

そして結局昨日の段階では、規約の改正にとどまったが、大阪維新の身内だけの“非上場”のガバナンス構造から、仕組み上だけでも、全国の党員に広げる“上場”への準備に入ったことは過小評価はできない。

松井代表の円熟した「最適解」

松井一郎市長(編集部撮影)

それでも実態は大阪支配といって揶揄する人も多いだろうが、企業でも最も求心力を持つ人物やグループが経営の主導権を握るのは当然だ。まだ完全に上場してよいほど、若手は育ってないし、全国津々浦々に党勢が拡大しているわけでもない。特に後者は焦って一足飛びにやって失敗すると組織が崩壊する危険に直面する。

プロの政治記者たちではなく、ネット民の維新ウォッチャーの方が公平に指摘しているが、維新はこの10年、石原慎太郎氏や江田憲司氏ら中央政界の有力政治家の勢力と離合集散して組織拡大に失敗、痛い目に散々あってきた。2015年の住民投票で敗れて初代社長・橋下氏のクビを取られる憂き目にもあった。

何年も前に柳ヶ瀬氏が筆者に「大阪の皆さんは組織を急拡大して失敗したことへの反省が強い」と語っていたが、組織の中核を守るため、大阪偏重のガバナンス構造になっても仕方がないと言える。

そして今回の代表選、松井氏が党内情勢を冷静に見た時、いま代表選をやりたくても強行した時のリスク(若手の未成熟、党勢の限界)はまだあった。一方で、衆院選で大阪以外でも得た新しい政治への期待に応え続け、さらなる党勢拡大に繋げていかなければならない。その経営判断として出来うる現時点での最適解が、まさに執行部の若返りなのだ。

2019年参院選で音喜多氏、柳ヶ瀬氏の応援演説をする吉村氏(柳ヶ瀬氏ツイッターより)

そして、これは橋下氏が(当然この新人事を織り込み済みだったろう)ツイートしたように、参院選までを当面の一里塚として、後進と組織を鍛え上げる時間を作り上げたわけだ。きのうツイッターで松田公太氏が「企業でもそうですが、組織が真に成長をし、発展できるかどうかは、親離れをした後でないと分かりません」と述べたが、ベンチャー企業と政党のマネジメントを経験した松田氏は、このあたりの構造を見抜いているはずだ。

ブレーンの立案があったにせよ、この最適解を出した松井氏の政党経営者としての円熟味を十分に感じさせるものだ。零細企業経営者の筆者が物申すには恐れ多いが、10年前、首長経験もなく、大阪府議の一員に過ぎなかった松井氏が、国政政党のリーダーとしてここまでの人事を編み出してきたのは、まさにゼロから創業して上場が視野に入るところまで会社を育て上げた経営者の成長ぶりを彷彿させる。ある維新の関係者は「松井代表だからこそ押し切れた人事。英断だ」と刮目する。

こうしてみると、「組織マネジメントの肌感覚」を少しでも持ってみると、昨日の代表選見送りを振り返った時の風景は違って見えてくる。おそらく中小企業やベンチャー企業の経営者や、組織を束ねる重職にいるビジネスパーソンは松井氏の判断に共感しやすいかもしれない。

藤田氏らビジネス政党化に注目

新幹事長に名前が上がる藤田氏(維新サイトより)

さて、これからの維新はどうなるか。吉村氏が近い将来、大阪維新の代表にまではなっても、国政維新のトップを務めるかまではまだ不透明だ。しかし、「吉村時代」へ向け、新執行部は今後の成長によってはビジネスパーソンの支持を得やすいかもしれない。

新幹事長の藤田氏は若い頃にスポーツマネジメントを学び、かつては自ら会社も起こしていた根っからの起業経営者だ。脇を支える音喜多氏も新卒後7年、外資大手の化粧品会社でマーケティングを学び、柳ヶ瀬氏も政治家になる前は鉄道会社系の広告代理店で勤務。民間企業の感覚で政党運営をし、全国政党へと“上場”、政権を狙える段階にまで成長させられるのか、実に興味深い。

今回は深く立ち入らないが、「主力商品」である重点政策は渡瀬裕哉氏が言うように、地方分権、規制改革、小さな政府志向の減税などで他党との差別化をはかるのだろう。メディア側の視点で言えば、これからの維新の思考回路の読み解きは、自民党のように永田町の有職故実を弁えていないとわからないような複雑怪奇なものとある意味、変わって、例えば合理性を重視する経営者たちに取材慣れした経済記者たちの方がウマが合うのかもしれない。

もし、仮に、そういう傾向が強まっていくのであれば、「ポスト松井時代」の維新が独自の立ち位置を築き上げ始めている証左と言える。お手並み拝見だ。

 
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