維新の代表選見送りは、“上場断念”ではなく“上場準備の事業承継”だった
“現社長”松井代表の恐るべき深謀遠慮- 維新の代表選見送りに批判も多いが、経営観点からすると違った風景?
- 松井代表の執行部若返り策は、実権は大阪に残すも、組織拡大失敗の教訓も
- 「親離れ」なるのか。根っからの起業家、藤田新幹事長ら執行部の手腕は?
日本維新の会が代表選の開催を見送り、松井一郎代表が来夏の参院選後まで続投することを決めた。この判断を巡り、「松井商店から脱却できてない」などの批判や失望が渦巻き、筆者も当初は同調しそうになったが、その後の報道を見て考えを改めた。
それは取材者としての視点というよりも、(恐れ多くも零細スタートアップながら)経営者の端くれとして“ベンチャー政党”の創業経営者の1人である松井代表に対する“共感”からだった。

「個人商店」批判は当たる部分もあるが…
拙論に入る前に昨晩からの一般的な批判論を振り返っておこう。昨日、サキシルで掲載した代表選見送りへの苦言の数々は、いずれも的を射ている。朝日新聞系のアエラドットの今西記者の記事によれば、官邸ですら「橋下・松井・吉村が不可侵な存在」と分析していたようだから、「個人商店」(吉富有治氏)論が出てくるのは当然のことだ。
さらに、夜になって毎日新聞が速報したが、執行部の大幅若返りについて、安積明子さんがヤフーニュースに「維新が目指すのは、大阪を頂点として全国をその下に置くという権力構造に他ならない」と酷評したこともまた部分的に当たっている。
報道どおり、藤田文武氏(40歳)が幹事長、音喜多駿氏(38歳)が政調会長、柳ヶ瀬裕文氏(47歳)が総務会長と、三役を大胆に若返らせるといっても、この中で実権的な存在は幹事長だ。それでなくても代表が松井氏続投で、国会議員の新団長に馬場伸幸氏と言うことは、野球で言うセンターラインは大阪が主導権を握っており、イメージ戦略とみる向きもある。

確かにこれらの批判・論評は当たっているのだが、部分的にも見える。本質を見落としてはなるまい。
橋下氏の昨晩のツイートをもう一度見てみよう。彼は「来年夏の参院選後には真に松井さんから自立しなければならない」と、世代交代が待ったなしということに改めて触れている(太字は筆者)。そして、「旧態依然のやり方を打破し、今までやってきたことをたとえ1ミリでも理想に近づけることができるのは次世代のエネルギーだ。松井さんがいる間に次を引っ張るメンバーが続々と誕生することを期待する」とも述べている(同)。
いや、創業経営者として橋下氏も松井氏も外野から言わずとも痛感しているのだろう。維新という政治会社を持続可能とするためには、遠くない将来、吉村世代に事業を継承し、全国チェーン化に必要な組織改革の課題が当然あることを。代表選と大阪維新の推薦がないと代表選に立候補できないという規約の改正は、そのプロセスで必要な通過儀礼だった。
そして結局昨日の段階では、規約の改正にとどまったが、大阪維新の身内だけの“非上場”のガバナンス構造から、仕組み上だけでも、全国の党員に広げる“上場”への準備に入ったことは過小評価はできない。
松井代表の円熟した「最適解」

それでも実態は大阪支配といって揶揄する人も多いだろうが、企業でも最も求心力を持つ人物やグループが経営の主導権を握るのは当然だ。まだ完全に上場してよいほど、若手は育ってないし、全国津々浦々に党勢が拡大しているわけでもない。特に後者は焦って一足飛びにやって失敗すると組織が崩壊する危険に直面する。
プロの政治記者たちではなく、ネット民の維新ウォッチャーの方が公平に指摘しているが、維新はこの10年、石原慎太郎氏や江田憲司氏ら中央政界の有力政治家の勢力と離合集散して組織拡大に失敗、痛い目に散々あってきた。2015年の住民投票で敗れて初代社長・橋下氏のクビを取られる憂き目にもあった。
何年も前に柳ヶ瀬氏が筆者に「大阪の皆さんは組織を急拡大して失敗したことへの反省が強い」と語っていたが、組織の中核を守るため、大阪偏重のガバナンス構造になっても仕方がないと言える。
そして今回の代表選、松井氏が党内情勢を冷静に見た時、いま代表選をやりたくても強行した時のリスク(若手の未成熟、党勢の限界)はまだあった。一方で、衆院選で大阪以外でも得た新しい政治への期待に応え続け、さらなる党勢拡大に繋げていかなければならない。その経営判断として出来うる現時点での最適解が、まさに執行部の若返りなのだ。

そして、これは橋下氏が(当然この新人事を織り込み済みだったろう)ツイートしたように、参院選までを当面の一里塚として、後進と組織を鍛え上げる時間を作り上げたわけだ。きのうツイッターで松田公太氏が「企業でもそうですが、組織が真に成長をし、発展できるかどうかは、親離れをした後でないと分かりません」と述べたが、ベンチャー企業と政党のマネジメントを経験した松田氏は、このあたりの構造を見抜いているはずだ。
ブレーンの立案があったにせよ、この最適解を出した松井氏の政党経営者としての円熟味を十分に感じさせるものだ。零細企業経営者の筆者が物申すには恐れ多いが、10年前、首長経験もなく、大阪府議の一員に過ぎなかった松井氏が、国政政党のリーダーとしてここまでの人事を編み出してきたのは、まさにゼロから創業して上場が視野に入るところまで会社を育て上げた経営者の成長ぶりを彷彿させる。ある維新の関係者は「松井代表だからこそ押し切れた人事。英断だ」と刮目する。
こうしてみると、「組織マネジメントの肌感覚」を少しでも持ってみると、昨日の代表選見送りを振り返った時の風景は違って見えてくる。おそらく中小企業やベンチャー企業の経営者や、組織を束ねる重職にいるビジネスパーソンは松井氏の判断に共感しやすいかもしれない。
藤田氏らビジネス政党化に注目

さて、これからの維新はどうなるか。吉村氏が近い将来、大阪維新の代表にまではなっても、国政維新のトップを務めるかまではまだ不透明だ。しかし、「吉村時代」へ向け、新執行部は今後の成長によってはビジネスパーソンの支持を得やすいかもしれない。
新幹事長の藤田氏は若い頃にスポーツマネジメントを学び、かつては自ら会社も起こしていた根っからの起業経営者だ。脇を支える音喜多氏も新卒後7年、外資大手の化粧品会社でマーケティングを学び、柳ヶ瀬氏も政治家になる前は鉄道会社系の広告代理店で勤務。民間企業の感覚で政党運営をし、全国政党へと“上場”、政権を狙える段階にまで成長させられるのか、実に興味深い。
今回は深く立ち入らないが、「主力商品」である重点政策は渡瀬裕哉氏が言うように、地方分権、規制改革、小さな政府志向の減税などで他党との差別化をはかるのだろう。メディア側の視点で言えば、これからの維新の思考回路の読み解きは、自民党のように永田町の有職故実を弁えていないとわからないような複雑怪奇なものとある意味、変わって、例えば合理性を重視する経営者たちに取材慣れした経済記者たちの方がウマが合うのかもしれない。
もし、仮に、そういう傾向が強まっていくのであれば、「ポスト松井時代」の維新が独自の立ち位置を築き上げ始めている証左と言える。お手並み拝見だ。
関連記事
編集部おすすめ
ランキング
- 24時間
- 週間
- 月間
週刊文春に木原氏の様子を「ホテル関係者」がペラペラ、ニューオータニは大丈夫か?
安芸高田市長にヤッシーが喝!田中康夫氏「やり方が下手っぴ。頭でっかちな偏差値坊や」
「見込み捜査中」に過ぎないのに、木原官房副長官の妻を“殺人犯扱い”する文春砲と報道関係者は大丈夫か
参院選半年前で市井紗耶香氏がモー辞退、八幡和郎氏「泥船から逃げ出す人多し」
40代で認知症も…元ラグビー選手100人以上が「脳震盪で後遺症」訴え競技団体に法的措置
【特報】文春もひろゆきも言わない岸田翔太郎の真実 〜 首相公邸「寝そべり写真」なぜ流出したのか?
「相互依存の武器化」とは?大国間の覇権争いで変質する経済的ネットワーク
どこに住むかで進学先が決まる⁈ 意外に語られない中学受験のリアル
『近藤誠』とはなんだったのか…2つの側面から考える
まさかの「岸田減税」あるか?田崎史郎氏が“爆弾発言”、木原誠二氏「やりゃいいんだよ」
安芸高田市長にヤッシーが喝!田中康夫氏「やり方が下手っぴ。頭でっかちな偏差値坊や」
週刊文春に木原氏の様子を「ホテル関係者」がペラペラ、ニューオータニは大丈夫か?
「見込み捜査中」に過ぎないのに、木原官房副長官の妻を“殺人犯扱い”する文春砲と報道関係者は大丈夫か
池下議員はダメだけど、毎日新聞は政界の超ヤバい人手不足も指摘すべきだ
政府の少子化対策財源確保、つるの剛士さん「一時的な再分配支援よりも…」
「不惑」の音喜多駿に立ち塞がる小池百合子「復讐」の軽慮浅謀
ビットコインの生みの親、サトシ・ナカモトの正体がついに判明 !?
40代で認知症も…元ラグビー選手100人以上が「脳震盪で後遺症」訴え競技団体に法的措置
KADOKAWA元専務ら逮捕で再注目、川上量生氏の東京オリンピック関連での“古傷”
ロッテリア売却の背景、グループ創業者長男が示した「懸念」
みんながモヤモヤ、慶応高の甲子園応援騒動、その“違和感”の正体
安芸高田市長にヤッシーが喝!田中康夫氏「やり方が下手っぴ。頭でっかちな偏差値坊や」
女性市議の発言順抽選「子連れ参加NG」、報道されないウラに何が?
「見込み捜査中」に過ぎないのに、木原官房副長官の妻を“殺人犯扱い”する文春砲と報道関係者は大丈夫か
ジャニーズ記者会見「司会」で注目、FTIコンサルティングって何者だ?
ジャニーズ記者会見へ、憂慮される「茶番」と「待った」をかける記者は誰か
東京・港区が全区立中学で海外修学旅行、「世紀の大盤振る舞い」なぜ起きた?
楽天・三木谷氏「NTTをそのまま完全民営化、あり得ない」。田端信太郎氏から痛いツッコミも
「慶応の甲子園応援騒動」バズりまくっても複雑な心境のワケ
60年ぶり百貨店ストライキの本質、「そごう・西武」紛糾劇に見る日本の“お気持ち資本主義”
特集アーカイブ
人気コメント記事ランキング
- 週間
- 月間