住宅ローン減税見直し:論点は「増税反対」ではなく「そもそも必要かどうか」

「高度成長期型」持ち家促進政策の岐路
住宅・不動産ライター/宅地建物取引士
  • 岸田政権の住宅ローン減税控除額の縮小検討にSNSで反発
  • 増税の是非以前に、そもそも「時代遅れの不公平な税制」と筆者
  • 今の制度で低金利が続くと「逆ザヤ」。住宅余りの時代に見直し必至

国土交通省が2022年度の税制改正論議に向けてまとめた見直しの案で、住宅ローン減税の控除率引き下げが検討されていると各メディアが報じた。

住宅ローン減税とは、住宅をローンで購入した場合に、年末時点のローン残高の1%の額を所得税や住民税の税額から差し引くことができる制度である。見直し案では、現在の控除額1%を0.7%程度に引き下げるなど、控除額の縮小が検討されている。

岸田首相はこれまで、住宅取得の促進策の推進などを表明してきたが、今回の見直し案はそれらの主張と真逆なものと世間に受け取られたようだ。

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「時代遅れ」住宅ローン減税

ローン減税控除額の縮小案が明らかになると、SNS上では一斉に「緊縮財政に進むの?」「消費減るけど?」「岸田増税内閣」「ますます家買えなくなるわ」など、政府に対する批判的な意見が噴出した。確かにローン減税額が縮小されれば、今後の住宅取得マインドに冷や水を浴びせかねない。

だが実は、現在の住宅ローン減税という制度は、はっきり言ってしまえば時代遅れの不公平な税制であり、以前からその在り方が問題視されてきた制度だということを多くの人たちは知らない。

筆者自身、減税やさまざまな規制緩和には賛成の立場だが、「住宅ローン減税幅縮小は増税なのだ!増税はとにかくけしからん!」という増税アレルギー的な空気感だけでこの見直し案を批判するのは早計というしかない。

減税派も、そうではない人たちも、まずは住宅ローン減税の何が問題なのかを知ったうえで、もう一度この制度について冷静に議論がなされるべきだと思う。

問題点を指摘したのは岸田内閣でなく会計検査院

まず、住宅ローン減税の問題点を指摘し、その検証を行ったのは会計検査院である。

会計検査院では、平成30年度(2018年度)決算検査報告のなかでローン減税の問題点についてこう指摘した。

住宅ローンの借入金利が住宅ローン控除特例の控除率である1%を下回る場合には、住宅ローンを組む必要がないのに住宅ローンを組む動機付けになったり、住宅ローン控除特例の適用期間が終了するまで住宅ローンの繰上返済をしない動機付けになったりすることがある。

「それの何が悪いの?」という声が聞こえてきそうだが、そもそも住宅ローン減税は、「住宅購入時の金利負担を軽減する」ために、昭和61年(1986年)、住宅ローン控除特例として創設されたものだ。同年3月時点での旧住宅金融公庫の融資基準金利は5.25%であり、住宅ローン利用者は1%の控除を受けてもまだ4%以上の金利負担を強いられていた。

しかし現在、住宅ローンの金利は過去最低水準となっており、ネット銀行などでは最安金利が0.4%台のところまである。今のままの制度下で、低い金利水準が続いていく場合、年末借入残高の0.5%以上が逆ザヤになる。

当時、本制度の政策担当者は住宅ローン金利がこれほど低水準になる事は予測していなかっただろうし、まさか「1%以下の金利で家を買えば逆ザヤを得られる時代」が来るとは誰も想像していなかっただろう。

いずれにしても、住宅ローン減税の問題を指摘し、検証を行ったのは平成30年当時(安倍内閣)の会計検査院であり、見直しを行うことは既定路線だったのだ。

そもそも租税特別措置とは?

住宅ローン減税制度は、租税特別措置法(以下措置法)に基づき、特定の個人の税負担を軽減する特別措置である。

この住宅ローン減税に関わらず、措置法による特別措置は、国による経済政策や社会政策等の特定の政策目的を実現するなどのための特別な政策手段であるとされ、「公平・中立・簡素」という税制の基本原則の例外措置として設けられる。公平じゃないことが前提なので、特別措置による税の軽減は必要かつ最小限であることが求められる。

つまり今回、国が行おうとしている住宅ローン減税の見直しは、現在の制度が本法の趣旨どおり機能し、税制の基本原則の例外措置として「必要かつ最小限」であるかどうかを問うているのである。

ちなみに会計検査院の調べによれば、住宅ローン控除特例の控除率である1%を下回る借入金利で住宅ローンを借り入れている人の割合は78.1%となっている(2018年当時)。

住宅の売れ行き、税の公平負担よりも優先?

住宅建設や分譲に携わる職種、業種は実に裾野が広く、持ち家促進政策は住宅環境改善や住宅困窮者対策というより景気政策としての側面が強いので、さも当たり前のように歴代政権が持ち家促進政策を掲げてきた。

kokouu /iStock

だが、戦後から高度成長期のような住宅需要が逼迫していた時代ならともかく、住宅ストックが過剰といわれる現在においては、これまでのような持ち家促進政策を続けていくのはどう考えても合理的ではない。

筆者はこれまで多くの不動産取引に携わってきたが、その上で私見を述べるなら、持ち家は生活の基盤となるだけではなく経済的なセーフティネットとして機能するし、賃貸の住宅よりも住宅機能のクオリティが高い場合が多い。住宅問題の命題である「買うか借りるか」を問われれば、個人的には躊躇なく「買う」ことをおすすめする。経済対策としての側面も加味したうえで、住宅購入者に対する公的な支援や補助もあって然るべきだとも思う。

しかし、だからといって家を買うことで住宅ローン金利以上のインセンティブが発生する税優遇策は、税制の基本原則に例外措置を設けるべき「必要最小限」の措置といえるのかは疑問だ。

しかも、現行制度上、年収が高く、収入原資の確実性が高い人ほど(ハッキリ言ってしまえば大企業のサラリーマンや公務員)の方がこの優遇措置の恩恵を受けやすい。住宅が売れ続けるため(造り続けられるため)だけに、特定の条件に当てはまる人ほど税優遇を受けられる事は、本当に必要最小限の税優遇策なのだろうか

必要最小限な制度に見直しを

経済対策としての税優遇は大歓迎だ。それには租税特別措置法などにより、特定の個人や法人の課税を軽減することも時として必要になるだろう。だが、そのメリットが一部の個人や法人に偏重することは出来るだけ避けるべきだし、仮に時代の潮流の中で現行法が現実にそぐわない状況となった場合は、常に不断の見直しも必要だ。

もう一度言うが、住宅ローン減税はそもそも不公平だということが前提である以上、現在の制度が本当に必要で最小限のものなのかをしっかり考えるべきだろう。

最後に付け加えるが、今回、住宅ローン減税だけを見直す場合は結果的に単なる増税になる。いくら現行法の見直しに正当性を持たせても、増税という結果に変わりはない。

見直しと併せて、新規住宅取得の場合の消費減税や、固定資産税の減免、賃貸住宅でも適用される住宅関連費用の消費減税などを同時に実行するかどうかで、岸田内閣の税に対する真の姿勢が見えることだろう。

 
住宅・不動産ライター/宅地建物取引士

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