朝日新聞がLINEの懐柔策にあっさり折れる。批判先に表彰されるジャーナリズム新時代

個人情報問題スクープの新聞協会賞「台無し」
報道アナリスト/株式会社ソーシャルラボ代表取締役
撮影:編集部

朝日新聞が9日、LINEニュースのユーザーに最も支持された記事を書いた報道機関として、同社から表彰された。例年なら「よかったですね」の一言で終わるところだが、朝日は今春の「LINEの個人情報管理問題のスクープと関連報道」により、先ごろ新聞協会賞を受賞したばかりだ。

もちろん表彰の対象になった記事は個人情報問題ではない(そうだったら歴史に残るシュールな展開だが)。今回、LINEユーザーから支持されたのは、朝日が若い世代向けに運営しているwithnewsというネットメディアで掲載した「「DASH村」人が住めなくなって10年、春には学校も…時計は止まったまま #あれから私は」という記事だった。記者も別の人物だ。

TOKIOの番組で話題になった「DASH村」のその後をフックに、10年が経つ震災・原発事故の問題を考えさせるというものだ。これはこれで読み応えのある記事だと評価し、読者投票で選んだ結果なのだから、「それはそれ、これはこれ」という考えもあるだろう。おそらく、朝日も今回の受賞にあたり、そういうスタンスに基づいて受賞を正当化するのであろう。

しかし、朝日の峯村健司記者らがスクープした個人情報の問題は、政府や企業の経済安全保障シフトに大きな影響を与える「大事件」だったはずだ。そこまで社会的反響のあった問題で追及した相手先から、諾々と表彰され、それを誇らしげにまた報道するというのはどういう領分なのか。

峯村記者は大人の対応をするかもしれないが、私なら新聞協会賞を台無しにされるような気分だろう。実際、OBや関係者から呆れる声も聞こえてきている。

「表彰」はメディアの「懐柔策」になる危険がある。サキシルで9月、井上久男氏の記事で紹介したが、トヨタ自動車では、番記者に感謝状を贈呈する表彰制度を設けているとされる。

もっと、わかりやすい例えを言えば、朝日が宿敵にしている自民党から「党員が最も気に入った記事のナンバーワンに御社が選ばれたので表彰を受けてください」とオファーがあったら、同じように唯々諾々と受けるのであろうか。社外に表彰いただくのはメディア側としては非常に誇らしいことではあるが、相手との力関係など慎重かつ総合的に考えて対応すべきところだろう。

百歩、いや百万歩譲って、LINEはニュース事業ではステークホルダーだから、「それはそれで」大人の対応をするにしても、時期尚早ではないのか。LINE側から表彰の打診をされた際、編集幹部なり社の上層部が「受賞はユーザーの選出ということで、ありがたくいただくが、個人情報の問題の記憶が冷めやらない段階。授与式への出席は見合わせたい」という対応はできたはずだ。いや、その程度のしたたかさも朝日にはなくなってしまったのだろうか。ひさびさに絶句する話題ではあった。

いずれにせよ、今回の表彰は、巨大化するプラットフォームと、コンテンツ小作化する報道機関との関係性を考える上でも深刻で新しい問題が出てきたことを感じさせる。別の機会にまた論じてみたい。

 
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